第61話 玄関前の舌戦
翌日、俺はライゼとの待ち合わせでギルドにいた。
違和感に気づいたのは待ち合わせの時間を15分経過した頃のこと。
おかしい。ライゼが待ち合わせに遅刻したのなんて初めてじゃないだろうか。
いつもなら時間より少し早く来て、俺の方が待たせることが多いくらいなのに。
「風邪でもひいたのか……?」
今日はダンジョンで行けるところまで行くという約束だったため、一人で行くわけにもいかない。
俺は席から立ち上がり、ライゼの家まで歩き出した。
ライゼの家は、前回来た時と同じように、白い壁に囲われてどっしりと構えていた。
こんな大きな家に出入りすることなんてないから、緊張するんだよな。
門を通って、緑が映える庭に差し掛かった途端、声が聞こえてきた。
「離して! 私は行くの!!」
「辞めなさい! ライゼ、もう遊びの時間は終わりだ!」
玄関の扉の向こうから聞こえてきたのは、ライゼと知らない男性の叫び声。家の中から聞こえてきたことから、どんな人物かは容易に想像できた。
やれやれ、少し厄介なことになりそうだな。
俺は少し気後れしつつも、玄関の扉をノックした。
「おい、誰かいないのか!? ……はい、ただいま」
ライゼと男性の喧騒が止まり、男が返事をする。
ドアノブが回され、向こうから扉がゆっくりと開かれる。
顔を出したのは、はげかかった銀髪の中年だった。
猜疑心丸出しの目で俺のことを睨みつけている。
「どちら様かな?」
「俺はアルクスと言います。ライゼの親父さんで間違いないですか?」
「ああそうだが……娘の友達か?」
「ライゼとはパーティを組ませてもらってます。なかなか来なかったので迎えに来ました」
「アルクス! 来てくれたのね!」
父親の背後でひょこっと顔を出すライゼ。心なしか嬉しそうに見える。
しかし、目の前の中年は違った。俺の口からパーティという言葉が出るなり、目が一気に鋭くなり、こめかみに血管が浮き出る。
「貴様か! うちの娘を連れまわしている奴は!!」
敷地全体に響き渡る怒声。ライゼの父親は俺の胸倉をつかんできた。
「……放してください」
「放すかたわけが! 貴様のせいで私の娘が非行に走ってしまったではないか!!」
「パパは黙っててよ! 私は非行になんて走ってない。私は冒険者になったの!」
なるほど、ライゼから事前に話は聞いていたが、これほどまでとは。
ライゼの両親は、彼女が冒険者になることを反対している。冒険者を許可したのは、あくまでダンに取り入るため。
本心ではライゼを貴族として育て上げたいのだろう。そんなところに俺が乱入して来たら、怒りたくなる気持ちもわかる。
……だが、それとこれとは話が別だ。
「ちょっと痛いぞ」
「何を言って……いたたたたたたた!!」
俺は軽くライゼの親父の腕をひねり上げた。途端、彼は苦悶の表情を浮かべて騒ぎ始めた。
「何をするんだ貴様!」
「先に手を出してきたのはそっちだろ。少しでいいから話を聞いてくれないか?」
「話を聞くもなにもあるか! 私は冒険者など絶対に認めないぞ!」
頑固な親父だな。俺の話には耳も貸してくれない。
「言わせてもらうけどね! 私はパパのことが嫌い! アンタみたいに権力に胡坐をかくような人間にはなりたくないの!」
「馬鹿なことを言うな! いいかライゼ、お前には人の上に立つ権利があるんだ。強くなる必要なんてない。それは他の人間の仕事だ!」
両者の言い合いは拮抗しており、解決の糸口は見つからない。
よし、ここは上手く妥協点を探してみるか。
「聞きたいんだが、親父さんはなんで冒険者がそんなに嫌いなのに、一度は許したんだ?」
「それは……S級パーティの
なるほど、そこはあくまで本心を隠すつもりなのか。
待てよ、だとしたら……。
「つまり、親父さんは強い冒険者にならライゼを任せてもいいって考えているってことだよな?」
「そ、それは……貴様には関係ないことだろうが!」
「関係あるよ。だって俺、ダンに勝ってるから」
俺がそう言った瞬間、ライゼの親父は目を真っ赤にして顔を近づけてきた。すごい圧だ。
「貴様、言っていいことと悪いことがあるのがわからないのか? 貴様みたいな底辺冒険者が、S級パーティより強いわけがないだろ!」
俺は事実を言っているつもりなんだが、どうもこの中年はわかってくれないらしい。
「目に見える結果もないのに、大口を叩くな! お前の方が強いと言うなら、結果を出せ結果を!」
「じゃあ、結果さえだせばいいんだな?」
男の表情が固まる。しばしの沈黙の後、俺は言い放つ。
「だったら証明してみせるさ。今から俺とライゼの二人で、灰のダンジョン25層のフロアボスを倒してくる。もし成功したら、ライゼが冒険者になるのを認めてくれ」
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