第57話 ライバル登場!

「ふー、とりあえず今日のクエストは終わりね……」


 ワープスライムの力でダンジョンから抜け出し、俺たちはオルティアの街でようやく一息ついていた。


「俺とライゼはこの後戦利品をギルドに売りに行くけど、イレーナはどうする?」


「あたしは帰って剣の整備をするぜ! 大筋は問題なさそうだし、あとは微調整だけどな!」


 では、ここでイレーナとはお別れだ。送り出そうとしたその時。


「あいつ、イレーナ・マクウィーンじゃねえか?」


「ダンツェル武具専門店のところのか? おいおいマジじゃん」


 聞こえてきたのはイレーナの名前。

 何かと思っていると、二人のニヤニヤした男たちが近寄ってきた。


「なんだお前ッ! あたしになんか用かッ!」


「おいおい、そう警戒するなよ。俺たちも英雄闘技会に参加するんだから」


 青色の短髪の男が言った瞬間、ライゼが目を見開いた。


「アンタ……魔人の拳デーモンズ・フィストのバリー!?」


「おっ、よく知ってるじゃねえか。まあS級冒険者にもなれば当たり前か」


 S級冒険者だと……!?

 バリーという男は顎をさすりながら薄笑いを浮かべている。この男がS級冒険者だっていうのか?


 ダンは嘘をついていたから、実質的にはこれが初めてのS級冒険者との出会いだ。


「こいつからよく聞いてるよ。英雄闘技会に雑魚が一人出るってな」


「おめぇは……ディエゴさんのところのエルゲン!」


 イレーナはもう一人の男の方を指した。茶髪で細身のこの男は、イレーナを品定めするように見ている。


「よう、忘れられちまったかと思ったぜ……久しぶりだなイレーナ」


「あたしはおめぇなんかに会いたくなかったけどな!」


 イレーナはこのエルゲンという男にやけに攻撃的に当たっている。

 事情がよくわからなかったので、イレーナに直接耳打ちした。


「なあ、イレーナ達はどういう関係なんだ?」


「この街にはな、いくつも武具を取り扱っている店があるんだ。その中でもディエゴさんは昔から師匠とライバルなんだ!」


 なるほど、それでディエゴさんの弟子であるエルゲンに強く当たっているのか。


「あたしが雑魚だって!? おめぇだって何もしてないようなものじゃないかよ!」


「少なくともお前よりはマシなものを作ってるよ。それに大会でも結果を出す」


 でも、なんだろう。エルゲンの言い方は、互いに切磋琢磨する『ライバル』というかは『いやがらせ』に近いような気がする。


「そもそも、大会に出るためにお前なんかと組む奴なんかいるのかよ?」


「いるに決まってるだろ! アルクスは強いんだぞ!」


 イレーナは俺の背中をドンと押した。


「ふーん」


 顔を近づけてきたのは、S級冒険者のバリー。俺の顔を嘗め回すように凝視している。


「どうせ、他に組んでくれる奴がいなくてその辺にいる雑魚を捕まえてきたんだろ?」


 エルゲンが言った瞬間、バリーは吹き出した。俺から顔を離して、大声で笑い始める。


「ち、違う! あたしはちゃんと――」


「どうせ冒険者の中でもFランの雑魚だろ? お前みたいな変な奴に近づいてくるなんてよっぽど馬鹿か、体目当てだろうな!」


 イレーナはキッと目を吊り上げ、拳を握りしめている。


「三下の冒険者と駄作みたいな武器しか作れない鍛冶師の女が組んでも、一回戦敗退がオチだろ!」


 二人は腹を抱えて笑い始めた。俺たちはその笑い声を浴びる。


「だったら――俺がお前より強いことを証明すればいいんだな?」


「「は?」」


 場が静まった。バリーとエルゲンの二人が俺を見つめる。

 数秒間の静寂の後、二人はまた笑い始めた。


「おいおい冗談だろ! Fランの分際で『バリーより強いことを証明』だと? やっぱりイレーナと組む奴は頭がおかしいんだな!」


「俺は確かにFランだよ。でも、イレーナは凄くいいものを作るんだ。だからそれは訂正しろ」


「……なあ、馬鹿なこと言うのやめてくんねーかな。俺、格下に舐められるの好きじゃねーんだわ」


 バリーの言葉が、街の温度を奪ってしまったようだ。

 一触即発。重い空気が流れる。


「おい三下。1と2はどっちが大きい?」


 バリーは首の骨を鳴らしたかと思うと、唐突にそんなことを聞いてきた。


「そんなの2に決まってるだろ」


「そうだよなあ。数字はいい。見れば優劣がすぐにわかる。冒険者のランク付けもそうだ。S級はA級より、A級はB級より――圧倒的に強い」


 何が言いたいのかがよくわからない。息を飲んでいると、バリーは口をニタリとゆがめた。


「つまり――F級のお前がS級の俺には勝てないってことだよ!!」


 刹那。とてつもないスピードでバリーが肉薄してきた。


 拳を握りしめているのが見える。マズい。これは回避しなければ。

 俺は咄嗟に左足を下げて、バリーの突進を回避した。


「<鑑定>!」


 話の流れからして、こうなるような気はしていた。できればぶつかりたくはなかったが、仕方ない。


――


 対象:バリー・ガイセリック レベル35

 スキル

 <疾風>……速度を50%上昇させる。


――


 S級冒険者と言っても、レベルは俺とさして変わらない! スキルもよく見る速度上昇のものだ!


 バリーは拳を両方とも握りしめ、素早く連撃を繰り出してくる。俺はそれらを全て見切って避けた。


 動きにも対応できるし、相手の手の内も見えている!


 この勝負、貰っ――


「どこ見てんだよ三下」


 次の瞬間だった。瞬きもしていないはずなのに、目の前からバリーが消えて、背後から彼の声が聞こえたのは。

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