第56話 鉱石と誓い

――


 レベルが36になりました。


 <スライム>に能力が追加されました。


――


 戦闘終了とともに聞こえてくるレベルアップの音。ミスリルゴーレムのドロップ品の回収はスライムたちに任せて、俺はステータスを開いた。


――


 アルクス・セイラント 17歳 男

 レベル36


 スキル

 <スライム>

 『スライムテイマー』……レベル6のスライムを発生させることができる。最大42匹。

 『スライムメーカー』……スライムにクラスチェンジを施すことができる。

 ・鑑定スライム(1) ・収納スライム(1) ・ワープスライム(1) ・鉄壁スライム(3)

 ・治癒スライム(2)

 ・コピースライム……スキル<コピー>を持ったスライム。同時に1匹までクラスチェンジ可能。


 ・スライムジェネラル ・スライムアサシン


 <人間>


――


 次に追加されたのはコピースライムという種族のスライムらしい。


「ライゼ、<コピー>ってどんな能力だ?」


「確か、相手の喋ったことを録音したり、話の内容を文章にしてくれる能力じゃなかったかしら?」


 うーん、戦闘向きではないのかな。どちらかというと新聞を作る記者に向いているな。

 普段の戦闘では下がってもらって、いざというときに活躍してもらおう。話を聞くときとか。


 ステータスを見ながら、俺は考え事をしていた。

 悩みの種はずばり、『決定打のなさ』。


 モンスターと戦うとき、俺には剣と魔法とスライムの三種類の攻撃手段がある。

 しかし、魔法はいまだに不完全で制御ができない。スライムも強いモンスターには相性が悪い。

 となると剣を振り回すしかないわけだが、ミスリルゴーレムを相手にした時のように、一撃で倒せなければ連撃で乗り切るしかない。


 しかし、それも限界があるはずだ。特に今回の戦いで、それは強く感じた。


 ……そろそろ俺も欲しいな。必殺技。


 ここぞというときの大技は大きく分かれて二種類が存在する。

 一つは自分の体の限界を一時的に引き出し、物理的な攻撃をする方法。もう一つは、時間をかけて魔力を練って詠唱をし、強力な魔法を使う方法。

 ライゼが前に使っていた<獄炎灼熱舞ヘルファイア・プロミネンス>は後者のタイプ。


 今のところ、俺は自分の限界を引き出す方法は知らない。だとすれば魔法を使うしかないんだが……いかんせん制御の方がなあ。


「はあああ~……!!」


 ああでもないと思案していたその時、足元から変な声がした。

 驚いてみてみると、イレーナが宝石のような碧眼を輝かせながら、スライムたちを見つめていた。


 彼女が見ているのは、スライムたちがアリのように運んでいるミスリル鉱石。ミスリルゴーレムを構成している石の名前だ。


「どうかしたのか?」


「いや、ミスリル鉱石なんてめったにお目にかかれないからな……!! 今のうちに目に焼き付けておこうと思ってよ!」


 イレーナは興奮気味に言う。

 なるほど、確かにレアそうな鉱石だもんな。見る人から見れば欲しいものなのだろう。


「そんなにいいものなのか?」


馬鹿野郎ばっきゃろう! いいなんてもんじゃないぜ! あたしだって使わせてもらったことがないのに!」


 イレーナがこの鉱石を見ていた理由がわかった。これは剣の素材になる石らしい。

 確かに、剣で叩いてもビクともしなかったし、これを使えば頑丈な剣が作れるだろう。


「じゃあ、あげるよ。街に帰ったらでいいか?」


「べ、べらぼうめッ! こんなもの貰えるわけねえだろッ!?」


「欲しいんじゃなかったのか?」


「ほ、欲しい……」


 イレーナは煮え切らないようすでもごもごと返事をする。普段は威勢がいいくせに、こういうときだけ遠慮するのか。


「わかった。じゃあ今度の大会でイレーナが優勝したら、この鉱石をあげるよ」


「ほ、本当か!? 嘘じゃないんだな!?」


「ああ。一部とは言わず、全部あげるぞ」


 イレーナの目が光り輝き、小躍りし始めた。よほど嬉しかったらしい。


「わかったぜアルクス! 絶対に大会で優勝して見せる! あたしは世界一の鍛冶師になるんだ!! アルクス、わかってるな!?」


「男に二言はないよ。期待してるからな」


 イレーナはサムズアップをして俺の胸に拳をぶつけてきた。彼女なりの覚悟と感謝の表れなんだろう。


 その時、スライムたちが素材の回収が完了したことを告げてきたので、俺たちは街に帰ることにした。

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