第55話 ミスリル製の魔人

「アルクス、右来るわよ!」


「わかった!」


 飛び掛かってくるモンスターを、剣で斬り伏せる。体勢を整え、今度は別の方向から来たモンスターを斬る。


「……ふう、これで一段落だな」


 剣を鞘に戻して、俺は額にうっすらとかいた汗をぬぐった。

 ダンジョン15階層。目的の場所には到達した。


 下の階層へ進めば進むほど、モンスターは強くなっていく。12階層を超えたあたりから、スライムたちは別の場所で戦わせるのではなく、俺と協力して戦わせることにした。

 理由は敵の種類の多さにある。今のところなんとかなっているが、初見のモンスターを相手にするのがきつい。


 鑑定スライムとの二人三脚で、弱点を攻撃する方法で進めているものの、モンスターはどんどん強くなっている。

 イレーナを守りながらとなると、やはりこれより先には進めないだろう。


「そろそろ帰ろうか。剣のテストの結果はどう?」


「おう! 完璧だ! やっぱり当日はこのままでいこうと思ってるぜ!」


 イレーナは力こぶを作ると、自慢げにそれをアピールしてきた。

 彼女の細腕はとても強そうには見えなかったが、作っている剣は最高だ。使っていてわかる。これは凄いことになると。


「じゃあ、この剣は一度返すよ。壊すと嫌だから」


 イレーナに大会用の剣を預け、俺は普段冒険で使っている方の剣に持ち替えた。やはりこっちの方がしっくりくるな。


「よし、じゃあここでワープスライムを……」


 その時。ダンジョン全体がズシンと揺れるような感覚に襲われた。

 この感じ、前にも体験したことがあるぞ!


 その違和感の正体にはすぐ気が付いた。この揺れは、モンスターが歩いているときのものだ。もっと言えば、巨大なモンスターが!


「ゴゴゴオオオオオオオオオオオ!!」


 俺たちに近づいてきた揺れの正体。それはゴーレムだった。

 しかし、さっき戦った個体とは様相が違う。体表は青みがかった鉄色をしており、鉱石のように光沢感がある。

 上の層にいるゴーレムより格上。そう感じさせるような風貌だ。


「<鑑定>!」


 鑑定スライムのスキルを使って目の前のゴーレムをスキャンする。関節部分が赤く光って、俺の頭には情報が流れてきた。


――


 対象:ミスリルゴーレム レベル1

 ゴーレムの上位種。全身がミスリル鉱石で構成されている。


――


 名前はミスリルゴーレム。やはり実力はゴーレムより上だ。15階層に相当するだけの実力はあっておかしくない。


「アルクス、ここは協力して――」


「いや、俺がやるよ」


 もともとは一人で来る予定だったんだ。せめてこの階層までのモンスターは自分で倒したい。

 それに……自分の実力がどこまで通用するのか試してみたい。


「……わかったわ。後ろは頼まれたから、思う存分やりなさい」


 俺は頷いたあと、ミスリルゴーレムに向かって突進した。


「ゴオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 懐に忍び込もうとした瞬間、ゴーレムの大木のような腕が一気に迫ってくる。

 ――速い。ゴーレムよりも格段に。


「<鉄壁>!」


「キュッ!」


 衝突する寸前で鉄壁スライムを前に出し、攻撃を防ぐ。スライムの盾とゴーレムの拳が激しくぶつかり合う中、俺はゴーレムに肉薄した。


「はあッ!」


 剣を横一閃。ミスリルゴーレムの胴体に刃が直撃した。まぎれもないクリティカルヒット。

 しかし、手ごたえとは裏腹に、ミスリルゴーレムの巨体は吹っ飛ぶことなく足を強く踏ん張っている。


 さすがは上位種。強さは伊達ではないらしい。

 一撃で倒すことは不可能。鉄壁スライムの盾もいつかは限界が来るだろう。


「だったら――壊れるまで攻撃するだけだ!!」


 すなわち、剣による連撃。俺は縦・横・斜めに剣を振り、ゴーレムの体を攻撃した。


「ゴゴゴゴゴゴゴッッ!!」


 素早いストレートが飛んでくる。もちろん、これにも剣で真向勝負だ。

 体は圧倒的に相手の方が大きい。だが、俺にはそれに負けないような瞬発力と膂力を持ち合わせている!


 鳴り響く金属音。ダンジョンは洞窟のようになっているので、音が反響しやすい。

 俺は全身で音を浴びながら、ひたすら剣を振ってゴーレムの拳をはじき返していた。


 次第に、ゴーレムの体がじりじりと後ろに押されはじめていることに気が付いた。

 硬い金属でできているとはいえ、無尽蔵の化け物というわけではない。諦めなければ、隙は必ずできる。


 打ち合いを続けているその時のことだった。ゴーレムの拳を弾いた刹那、俺の一撃に押し負けて、巨体がのけ反ったように見えた。


「ここだッ!」


 一秒にも満たないようなわずかな時間。俺は一気にゴーレムとの距離を詰め地面を蹴って跳躍した。


 宙に飛んだ俺は、雷のような兜割りをゴーレムに叩きこむ。ゴーレムの額の部分がひび割れ、首がグキッと曲がるのがわかった。


「ゴ、ゴゴ……」


 ゴーレムの巨体が地面に倒れ、再び大きな揺れが起こる。俺は着地すると、大きく一息ついた。


 勝った。俺一人でも、ミスリルゴーレムを倒すことができることが証明された。


 それにしてもこいつの体……ミスリル鉱石って言うんだっけ? なんだか高く売れそうだな。

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