第54話 ゴーレムとの再会

「おい! おい! どうなってんだよ!」


 ダンジョンを散策すること30分。イレーナは本日7回目となる驚きの声を上げている。


「あたしが聞いてた話と違うぞ!? ダンジョンってのはこう、もっと強いモンスターがいっぱい出る場所なんじゃねえのかよ!?」


「出てるよ。さっきから」


「じゃあなんでその強いモンスターがスライムにやられてるんだよッ!?」


 現在俺たちがいるのは8層。そろそろモンスターが強くなってくる頃という感じなわけだが。

 イレーナがさっきから何を言っているのか。一言でまとめるなら、『思っていたのと違う』だ。


「ダンジョンってのはもっとこう……モンスターがバッッッッ!! って出てきて、冒険者がガッッッッ!! って剣を引き抜いて、ドドドドッッ!! って感じで連携して進んでいく感じじゃねえのかよ!?」


 どうやら彼女はもっと刺激の強いダンジョン探索を望んでいたらしい。

 だと言うのに、さっきから俺たちはひたすらにダンジョンを歩き、スライムに階段を探させ、モンスターが来たらスライムに戦ってもらい……という様子なのだ。


「なーアルクス! 戦ってくれよー! 剣でズバッと行ってくれよ!」


「大丈夫。俺の予想だとそろそろ……」


 その時。俺たちの足元に地響きが走るのを感じた。


「なんだ!? 地震か!?」


「いや、これは多分……」


「ゴオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 壁に反響する唸り声。目の前に現れたのは3メートルの体躯を持つ巨人、ゴーレムだ。


「ゴ、ゴゴゴゴゴ、ゴーレム!?」


「さて、そろそろ俺の出番だな」


 あの日苦戦を強いられたゴーレムとの対峙。今回は浅い層に出現するというアクシデントはなく、ここで出会うのは適切だろう。


「逃げろアルクス! あんなデカいモンスターに攻撃されたら死んじまうぞッ!」


「まあ見てて」


 慌てるイレーナを下がらせ、俺はゆっくりと剣を引き抜いて前に出た。

 あの日の俺と今の俺。どれくらい強くなったのか。自分でも気になるところだ。


「ウゴオオオオオオオオオオッッ!!」


 ゴーレムは拳を思い切り振り上げると、俺を叩き潰さんとばかりに勢いよく振り下ろしてくる。


「はあっ!」


 俺は剣を握りしめると、思い切り横に薙ぎ払った。ゴーレムの拳と刃が重なった瞬間、突風が吹いて火花が飛び散った。


「ゴオッ!?」


 今回は関節なんて狙っていない。純粋なパワーとパワーのぶつかり合いだ。

 ゴーレムは俺の一撃を食らうと、磁石の斥力が働くように後方へ弾き飛ばされた。


「まだ終わらないぞ!」


 ゴーレムが狼狽えている隙に、俺は一気に距離を詰める。剣を構えると、懐に入って連撃を入れる。

 剣が胴体を切り刻むたびに、ゴーレムの茶色の装甲はベリベリとはがれていく。


「ウ、ウゴオオオ!!」


 マズいと思ったのか、ゴーレムはグルグルと腕を回してやけくそ気味に攻撃をしてくる。

 だが、遅い。全ての動作が止まって見える。俺は攻撃を完全に回避すると、地面を蹴ってジャンプした。


「はっ!」


 顔面への刺突。強烈な一撃でゴーレムの顔面は貫かれ、巨体は地面に倒れてしまった。


 あっさり撃破――という感じだ。俺は本当に強くなったんだな。あの時強大に感じた巨体の魔人は、あっさりと俺の目の前で倒れてただの人形のようになっている。


「さて、アイテムを確保したら行こうか」


 一息ついて二人の方を見ると、イレーナは口をポカンと開けて、ライゼはジト目で俺のことを見つめている。


「ど、どうした?」


「アンタって本当……『壊れてる』わよね」


 ライゼの言葉の意味が俺にはわからなかった。


「いい? ゴーレムってそもそも、パーティを組んで戦うモンスターだから。上手く立ち回って弱点を突くのがセオリーよ」


「そうなのか? でも8層のモンスターだし、倒したって話はよく聞くけどな」


「だから! それはあくまでパーティでの話! 一対一で力でねじ伏せるなんてアンタくらいよ!!」


 怒られてしまった。

 ゴーレムってそういうモンスターだったのか。最初に戦った時も一対一だったし、こういう戦い方しか思いつかなかったな。


「そうだ、イレーナ。この剣、かなり使いやすかったぞ! あの硬い体を斬っても全然刃こぼれしてないし」


「…………」


 イレーナに話を振ったが、彼女は石のように固まってしまっている。


「おい、イレーナ? どうしたんだ?」


「……とーんときた」


 イレーナはポツリとそうこぼすと、俺の肩を掴んで揺さぶってきた。


「惚れたぜアルクス! さっきの剣捌き! 勇敢さ! しびれたぜ!! あたしはもうアルクスにぞっこんだぜ!」


「ちょっと、くっつくんじゃないわよ!」


 ライゼが間に入ったことでイレーナはようやく落ち着く。この子はいったい何を言っているんだろう。


「あたしはイキでイナセなやつが好きだ! あたしはアルクスに惚れた、もう煮るなり焼くなり好きにしてくれ!」


「アルクス、この女どうなってるのよ!? 何とか言いなさい!」


 イレーナはめちゃくちゃなことを言ってるし、ライゼはなぜか激怒してるし……。

 これは先が思いやられるな。嫌な予感しかしない。


 俺の思いとは裏腹に、ダンジョン攻略は続く。

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