第53話 スライムアサシンは常識がない
「お呼びでしょうか、アルクス様」
おおおおおお!! 本物のメイドさんだ! ゴスロリ衣装の色白メイドさんが無表情で立っている!
「デレデレするな!」
「してないよ!?」
ライゼからの平手を回避し、改めてスライムアサシンを見た。
……うん。まさに仕事ができそうな感じ。完璧な雰囲気が漂っている。
「なーなー、アサシンって何ができるんだ?」
「毒物や刃物の取り扱いはもちろん、掃除・洗濯・お遣い・家事全般が可能です」
「すげー! シノビみたいだ!」
イレーナは目を輝かせて拳を握った。シノビって東の国のアサシンのことか。
シノビ……いい響きだ。彼女にぴったりな、クールな感じがする。
「じゃああなたの名前はアサシン・シノービね!」
「だからそのわけがわからないネーミングは辞めろ!」
咳ばらいをしてライゼの名づけを却下して、俺は言った。
「シノだ。君の名前は今日からシノ」
「お名前をいただけるとは至上の喜び。私は今日からシノと名乗らせていただきます」
シノはスカートの裾をつまむと、華麗にポーズを取った。
まさに完璧な所作。これには活躍が期待できそうだ。
「シノ、期待してるわ。ダンジョンでは背中を預けるつもりでいくから」
「左様ですか。では失礼します」
「え!? ちょっと!?」
シノはライゼの背後に立つと、両手で肩を掴んで思い切り引っ張り始めた。
「いたたたたたた!! ちょっとなにすんのよ!?」
「背中を預けてくださるということだったので、お言葉に甘えてお借りしようと思いまして」
「そういう意味じゃなーい!!」
シノはあくまで無表情で、淡々とライゼの背中を引っ張り上げている。
嫌な予感がしてきた。
「もしかして、シノって常識ないのか……?」
「すみません、そういったことは学習しておりませんので」
やっぱりな! そういうことじゃないか!!
この子めちゃくちゃ天然だ! チアに続いて変わり者続きじゃないか!
仕方ない、少しずつ俺が教えていくしかないか……言ってしまえば俺の分身で、家族みたいなものだからな。
少し気が重くなったが、ひとまずシノをひっこめてダンジョンに行くことにした。
「おー! ここがダンジョンか!」
ダンジョンに到着すると、イレーナは田舎者のように騒ぎ始めた。
ダンジョンの入口は相変わらず不気味で、どうしてそんなにテンションが上がるのかわからない。
でも……帰ってきたな、灰のダンジョン。俺を強くしてくれる場所。
さて、さっそくダンジョンに入るか。
「……と、その前に」
俺はワープスライムを呼び出し、ワープの移動先リストに灰のダンジョンを登録することにした。
――
移動先を登録しました。
1.エルステッド王国 オルティア 正面入り口前
2.エルステッド王国 領内 灰のダンジョン前
3.未登録
4.未登録
5.未登録
6.未登録
7.未登録
8.未登録
――
よし、これでこれからはダンジョンへの移動に時間がかからなくなったぞ。
準備も完了したところで、俺たちはダンジョンへ潜った。
「なーアルクス。今日はどの辺りまで行くんだ?」
「今日はあくまでウォーミングアップだから、15層くらいまで行こうと思ってる」
最後にダンジョンへ行ったときは、7層のボスを倒し、8層まで降りることができた。
レベルが上がる前で10層は余裕、という感じだったから、ダンとの一件でさらにレベルアップした俺は20層くらいなら楽に攻略することができるだろう。
ダンジョンの中へ足を踏み入れると、俺はさっそくスライムたちを全員召喚する。
作戦は前回と同じ。スライムたちにダンジョン内を散策してもらい、敵か階段を見つけたら合図を出してもらう。
普通の冒険者は階段を探すのに時間をかけてしまい、目的の層に行くまでに体力を使い果たしてしまうことも多い。
でも、スライムたちのおかげでその心配をする必要がない。冒険者にとって、不安要素は少ないに越したことはない。
「ウガッ!!」
その時、前方から走ってきたのはお馴染みの雑魚モンスター、ウェアウルフだ。牙をむいてこちらへ走ってくる。
「お、ようやくあたしの剣が活躍するときが……」
「それはもうちょっと後かな。ここはスライムに任せよう」
その時、ダンジョンの角を曲がって一匹のスライムが登場した。
スライムは急ブレーキをかけてプルプルと身を揺らすと、ウェアウルフと相対した。
「ガガッ!?」
突然のスライムの登場に狼狽えるウェアウルフ。スライムは助走をつけて前進すると、思い切り体当たりを仕掛けた。
「グガーーーーーーーッ!?」
スライムの体がウェアウルフの胴体にめり込んだ瞬間、十倍ほどもある体格差は崩され、ウェアウルフは吹っ飛ばされて壁に激突する。
「ええええええええ!? どういうことだ!? スライムがモンスターをやっつけちまったぞ!?」
驚いた様子のイレーナ。それもそうだろう。スライムは最弱のモンスターというのが一般的な認識だ。
活躍を褒めてほしいとばかりのスライムを俺が抱きかかえると、イレーナは疑惑の視線を向けてくる。
しかし、驚くのはこれからだ。俺とスライムの強さはこんなものじゃない。
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