第51話 大会に出よう
「頼むアルクス! あたしと一緒に大会に出てくれねえか!」
イレーナはそう言って、俺に深々と頭を下げた。
ダンの事件から3日。俺の怪我は着実に回復していた。
そろそろ冒険者として仕事に戻ろうと思っていた時、病室にイレーナが駆け込んできたのだ。
「頼むこの通りだ! なんとかならねえか!?」
「ちょっと待ってくれ、意味がわからない」
「なんでもするから! この通りだ!」
駄目だ。イレーナはかなり焦っている様子で、もはや会話が通じていない。
「落ち着けイレーナ。それじゃ何言ってるか坊主にはわからんだろうが」
困っていると、病室にさらに誰かが入ってくる。ダンツェルさんだった。
「よう、怪我の様子はどうだ? こんな果物でよかったら食べてくれ」
リンゴがいくつか入った紙袋を俺に手渡すダンツェルさん。手ぶらで駆け込んできたイレーナとは対照的に、大人の落ち着きを感じる。
「あの、イレーナは何を言ってるんでしょうか?」
「実はな、一週間後にこの街で一番の鍛冶師を決める大会があるんだ」
「それってもしかして、『英雄闘技会』ですか?」
「おっ、よく知ってるじゃねえか。それだ」
英雄闘技会というのは、鍛冶師と冒険者がペアを組んで戦うという大会だ。
鍛冶師が期限までに武器を作り、冒険者がその武器を使って1対1で戦うというルール。
年に1度開催されていて、この街でも人気なイベントだ。
「こう言ってはアレですけど、こんな状況でもやるんですね」
「職人にとっては一大イベントだからな。気合いで開催することになった」
気合で、というところに職人の気質を感じるな。
「うちの弟子はみんな英雄闘技会に出ていてな。今年はイレーナの番ってわけだ」
「他のお弟子さんも出てるんですか?」
「そうだ。俺を含めて、うちの店の連中は全員が大会で優勝経験がある。あとはこいつだけってわけだ」
ということは、俺が観戦した試合の中にダンツェルさんのお弟子さんもいたんだろうか。
っていうか、ダンツェルさんのお店ってやっぱり名門なのか……?
「坊主、俺からも頼みたい。イレーナはこの大会のために1月前から完成品の準備をしていたんだ。見ての通りこんなだから、坊主しか頼めるやつがいなくてな」
イレーナが『こんなやつ』という単語に反応して頬をプクッと膨らませる。
まあ実際、イレーナはかなりの変わり者だからなあ。
「ちなみに、俺が断ったらどうするつもりなんだ?」
「そ、その時はその時だ! あたしが剣を持って戦う!」
イレーナは細い腕で必死に力こぶを作ってアピールするが、どうみてもその白い腕では戦えないだろう。
「わかったよ。俺も大会に参加する」
「本当か!? ありがとなアルクス!」
イレーナのことだから、十中八九新しい相方を見つけるのは無理だろう。なんせ、剣が売れたのも俺が初めてだって言ってたし。
イレーナはいい剣を作る。装備もこれと言って問題はないし、素晴らしい仕事だと思う。
そんなイレーナの晴れ舞台だと言うならば、もちろん俺も協力したい。
それに、他の冒険者と戦うことができるというのもなかなか魅力的だ。
やはり、強くなるためにはダンジョンだけではなく他の冒険者とも戦っておきたい。
「よし、じゃあさっそく行こうぜ!」
イレーナはパッと表情を明るくしたと思ったら、今度は俺の手をいきなり引いてきた。
「イレーナ、また先走ってるぞ」
「あ、そうだった! アルクス、これからあたしとダンジョンに行ってくれ!」
「ダンジョン?」
大会の話とダンジョンがどうつながるのかわからず、俺は首を傾げた。
「実は、剣はもう完成してるんだ! でも、アルクスが使うなら調整しないといけないからな!」
なるほど、俺が使う用にカスタマイズしてくれるということか。
「わかった。と言っても、今日から冒険再開だから、あまり奥まではいかないぞ?」
「おう! あたしもそれで問題ないぜ!」
浅い層にしか行かないとはいえ、イレーナに危険が及ぶといけない。念のためにライゼにも来てもらおう。
「で、その剣っていうのはどこにあるんだ? 今からお店に取りに行くか?」
「てやんでい! あたしがそんなすっとこどっこいなわけがあるか! ちゃんと持ってきてるぜ!」
イレーナは背負っていた剣を手に取ると、俺に手渡してきた。
鞘から剣を引き抜いて見てみると、鏡のような刃が光を反射して光った。
やはりイレーナの仕事は素晴らしい。
俺が買った剣とはまた違った形をしている。おそらく大会用と冒険用では何かが変わってくるのだろう。
「どうだ!? イキでイナセだろ!?」
「何それ?」
「
本当に、どこでそういう言葉を覚えてくるんだろうな。
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