第50話 人間とスライム

「はい、これ。アンタの剣よ」


 店から出ると、ライゼは俺を家の前まで案内した。

 彼女から差し出されたのは、正真正銘の俺の剣だ。


「ありがとう! よかった、てっきり失くしたのかと……」


「……ま、大事なら失くさないようにするのね」


 よかった、これでイレーナに怒られなくて済む。ライゼ様様だな。


 剣を腰に戻してライゼの方を見ると、なぜかじっと俺のことを見ているのがわかった。


「何見てるんだよ」


「別に! 変な顔だと思っただけよ!」


 腕を組んでプイッと横を向く。もはや恒例の動きだ。


「……こちらこそ、ありがとう」


「ライゼ?」


「感謝してあげてんのよ! ……アンタには助けてもらってばっかりだもの。今までは言えなかったけど、ちゃんと言わないとフェアじゃないから」


 ライゼはそっぽを向きながらゴニョゴニョと言う。

 こういう時に照れ隠しでそっぽを向くのも、耳まで真っ赤になるのも、彼女の癖は何となくつかめてきた。


「助けてくれた時、本当に嬉しかった。自分の選んだ道が間違ってると思ったから。でも、アルクスが私の道を肯定してくれた。だから、ありがとう」


 こいつは素直じゃないだけで、いい奴だ。


「おう、これからも頼むな」


「ど、どういう意味で!?」


「仲間としてだけど、それ以外に何かあるか?」


「知らないっ!」


 ライゼはそう言うと、街の中へと歩き出してしまった。相変わらず怒るタイミングは掴めない。


「なあ、ところで家の問題は片付いたのか?」


「一段落って感じね。でもまだ、本質的な解決はしてないわ。貴族ってそういう生き物だから」


「そっか、じゃあ片付いたらまたダンジョンに行こう!」


「すっかり冒険馬鹿ね。落ち着くことができないの?」


 できない。俺はもっと強くなると決めたんだ。

 もっと強くなって、大事なものを守れる冒険者になる。ノアも外の世界に出す。やることは山積みだ。


「ま、ちょっと待ってなさいな。強くなった私の力を見せつけてあげるんだから」


「強くなった?」


「聞いて驚きなさい。私、レベルが13になったの。墓地でアンデッドモンスターを倒したのがよかったんでしょうね!」


 墓地のモンスターを倒して、レベルアップ……?


 そういえば、俺のレベルはどうなってるんだろう。俺もそこそこ活躍したはずだが。


 ステータスをオープンして、俺は息が詰まった。


――


 アルクス・セイラント 17歳 男

 レベル35


 スキル

 <スライム>

 『スライムテイマー』……レベル6のスライムを発生させることができる。最大42匹。

 『スライムメーカー』……スライムにクラスチェンジを施すことができる。

 ・鑑定スライム(1) ・収納スライム(1) ・鉄壁スライム(2→3) ・治癒スライム(1→2)

 ・ワープスライム……スキル<ワープ>を持ったスライム。同時に1匹までクラスチェンジ可能。


 ・スライムジェネラル

 ・スライムアサシン……隠密行動に長けたスライム。同時に1体までクラスチェンジ可能。


 <人間>

 『祈り』……仲間から受けた想いの数だけ、身体能力が強化される。

 『希望』…… 感情の変化によって身体能力が強化される。諦めない限り効果が持続する。

 『勇気』……仲間の身体能力を強化する。


――


「レベル……35!!」


「はあ!? どういうこと!? 説明して!?」


 ライゼが俺の肩を掴んで揺らしてくる。俺も理解が追いついていない。

 とりあえず、あの土壇場で起きたことを説明することにした。<人間>についても。


 一通り話を聞いたライゼはため息をこぼした。


「アンタ、本当に壊れてるわよね」


「それ褒めてる?」


「べた褒めよ。人間が2つのスキルを持つとかありえないっての……」


 ライゼはまた大きくため息をつく。


「……でもまあ、信じるわよ。あんなことがあった後だし、何よりアルクスのことだからね」


 どういう意味だかさっぱり分からないが、深く詮索はしないでおこう。とりあえず納得はしてもらえたらしい。


「なあ、ライゼ。俺って今どれくらいの強さなのかな?」


「この街で1、2番は張れるでしょうね。そもそもスキル2個持ちが強すぎるのよ。その<人間>ってスキルの実力も未知数だし、S級でも通用するわ」


 なるほど。結構強くなったんだな。

 でも、まだ街のトップってところか。上には上がいるな。


「……よし、なんかやる気でてきたぞ。今からダンジョン行こうかな!」


「アンタは病み上がりなんだから病院に戻りなさい」


「じゃあスライムたちをダンジョンに行かせるか! 指揮はチアに任せて!」


「話を聞けこの冒険馬鹿!」


 スライムは弱い。かつての俺は自分の無能さを嘆き、己の運命を呪った。

 でも、見方を変えればそれは伸びしろがあるということで、俺は強くなれた。仲間ができた。


 道を進む途中で、これからも俺は何度も躓くだろう。

 しかし、何度でも仲間と立ち上がろうじゃないか。それが人間の、そしてスライムの強さなのだから。

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