第45話 人間の強さ

「キュー! キュー!」


 目を覚ました。スライムの鳴き声がする。まさか俺、壁にぶん投げられた後ずっと寝てたんじゃないだろうな。


 俺の腕に注射を刺して鳴き声を上げているのは、治癒スライム。どうやら俺の体力を回復してくれていたらしい。


「おっ、思ったより早いお目覚めじゃねえか! 嬉しいぜ、この程度で気絶されちゃ困るからな!」


 体を起こすと、上機嫌そうなダンが遠くに見えた。背後にはもちろん、巨大な骸骨。


「今のはまだ1セット目。お前は俺を殴った罰として、これからあと9セット壁当てに付き合ってもらうぜ」


 もし、ノアが言ったことが本当なら。鍵が既に俺の手に握られているのなら。


「さあ、お待ちかねの2セット目だ!! せいぜいくたばらないようにな!!」


 それを使うのは、俺次第だ!


 ガキィン!!


 鳴り響く金属音。俺が剣を振るったからだ。対象は、骸骨の手。

 大黒柱のように太く、鉱物のように固い骸骨の手首は、俺の斬撃によって斬り落とされ、地面に落ちた。


 やっぱり……強くなってる!!


「なんだとッ!?」


 ダンは焦りの表情を見せ、一気に後ろに後退した。俺はステータスを開く。


――


 アルクス・セイラント 17歳 男

 レベル26


 スキル

 <スライム>

 『スライムテイマー』……レベル5のスライムを発生させることができる。最大28匹。

 『スライムメーカー』……スライムにクラスチェンジを施すことができる。


 <人間>

 『祈り』……仲間から受けた想いの数だけ、身体能力が強化される。

 『希望』……感情の変化によって身体能力が強化される。諦めない限り効果が持続する。

 『勇気』……仲間の身体能力を強化する。


――


 やはり、新しいスキルが解放されている。俺がもともと持っていた、もう一つの力だ。

 スキルの内容に目を通す。どうやら<人間>は<スライム>のように目に見えた効果を示してくれるわけではないらしい。


 どれも身体能力を強化する能力だ。さっき骸骨の手首を斬り落とすことができたのも、このスキルの影響だろう。


「お前、何をした!? さっきは軽く吹っ飛ばされてただろうが!!」


「俺はもう、お前が知ってる一人ぼっちのスライム野郎とは違うんだ!」


 骸骨の手首から先は、一瞬にして元に戻ってしまった。さすがはアンデッドモンスター、再生能力がかなり高い。


「行け! <不滅の愛マリア>!! アルクスを叩き潰せ!!」


 ダンは懲りずに骸骨に俺を襲わせる。また巨大な腕が俺に迫ってきた。

 斬っても回復されるなら、回復できないくらいまで細かくしてやるだけだ。


 足元にスライムを出し、ジャンプ台になってもらう。トランポリンのような柔らかい感触を足先に感じると、俺の体は上空へ飛び上がった。


「はああああああああああああ!!」


 骸骨の骨だけの腕に飛び乗ると、俺は剣で骨を滅多斬りにする。すごい、あれだけパワーがあった骸骨の腕があっさりと斬れるようになっている!


「何やってるんだ馬鹿! 下がれ、焼き尽くしてやる!」


 虫を払うようにして、骸骨は腕を振り回して俺を地面に落とす。

 下ではダンがしたり顔で<嫉妬の炎エンヴィー・ブレイズ>の準備をしている。


 身体能力が強化されているとはいえ、直撃すればひとたまりもないだろう。


「チア!」


「りょうかいです!!」


 地面に落下しながら、スライムジェネラルのチアを呼び出す。地面に登場した彼女は、両手を広げてスライムたちに力を分け与えた。


「鉄壁スライム!」


「キュ!」


 次に出したのは、2匹目の鉄壁スライム。地面に着地する瞬間、俺とチアの体を半透明のバリアが覆った。


「<嫉妬の炎エンヴィー・ブレイズ>!!」


 骸骨の口から紫色の炎が吐き出される。バリアはそれを弾き、攻撃をしのぎ切った。


「すごいですアルクス様! チアの力があるとはいえ、あの炎攻撃を完璧に防ぎきるなんて!」


 おそらく『勇気』の効果だ。これで、<嫉妬の炎エンヴィー・ブレイズ>も怖くはない。


「な、なんなんだよ!! 俺のスキルは最強なんだ!! 負けるはずがないんだよ!!」


 ダンがたじろぐ。その時、俺の両手両足を紫色の鎖が縛り上げた。

 これが<悪魔の鎖>か。確かにビクともしない。


「どうだ!? 動けないだろ!? 処刑の再開だ、お前はそこで縛り上げられながら握りつぶされ――」


「俺が動けないなら、仲間がそれを破ればいい」


 スライムを4匹出す。小さな体のスライムたちは勇敢にも4本の鎖に体当たりをし、バラバラに破壊してしまった。


「なんでだ!? あのジャイアントスプリガンも動けなかった鎖だぞ!?」


「そんな糸くずみたいな鎖で、俺のことが縛れるわけないだろ!!」


「ヒ、ヒィッ!!」


 ダンが悲鳴を上げる。

 俺から背を向けると、一気に走り出した。


 追いかけようとしたその時、周囲からアンデッドモンスターたちが顔を出してきた。あれは、街にいたやつらだ。


「力で勝てないなら、数で圧倒するだけだ!! 129体、全てのアンデッドで戦いを挑む!!」


 なるほど、俺がモンスターたちと戦っている間に逃げようという魂胆か。

 他の街に逃げられて、アンデッドモンスターを補充されたらたまったもんじゃない。こいつはこの場で絶対に倒す。


「チア! ここが正念場だ! 頼んだぞ!」


「はい! わかりました!」


 スライムたちを全員出動させる。

 チアと『勇気』の効果を込みにしても、アンデッドモンスター129体相手では分が悪い。


 それでも、絶対に負けるわけにはいかない!!

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