第44話 微かな希望
「アルクスさん、起きてください」
ここは……花畑。
寝ている俺を揺すったのはノアだった。前回のパターンからすると、死んではいなさそう。
「酷い顔をしていますよ。大変なことがあったんですね」
「……いくらなんでも今回は無理だ。相手が悪すぎる」
新たな能力を手に入れたダンは、まさに圧倒的な実力を見せてきた。
技の威力も、味方の数も、全てが桁違い。俺の手が届く領域じゃない。
「勝てない相手なんですか?」
「勝てない。スキルが俺とは違いすぎる」
「じゃあ、これからどうするんですか?」
「どうもしないさ。ここで目覚めるのを待って、あとは殺されるだけだよ」
こんなところで卑屈になってる場合じゃないのに。どうしてもあの骸骨のことを思い出すと体が固まってしまう。
「では、アルクスさんが戦うのを辞めたら何が起こりますか?」
ノアの問いかけに、真っ先に思いついたのは仲間のことだ。
勇気を出してくれたライゼ、シエラさん。俺に期待してくれたイレーナ、ダンツェルさん。彼女たちもまた、死ぬだろう。
「……それは嫌だ」
彼女たちに出会えたおかげで、冒険が楽しいと思えた。迷った心が照らされた。前に進むことができた。
彼女たちが死ぬなんて、耐えられない。絶対に嫌だ。
「アルクスさんは前に、『絶対に見返すって誓った』って言ってくれましたね。その気持ちはまだありますか?」
あった。正確に言えば、無くなった。
俺はダンへの復讐のために強くなると誓った。だから、ダンが死んだときに一気に目標を失った。冒険がつまらなくなった。
でも、仲間と一緒にした冒険は楽しかった。あの時、俺はなんとなく、強くなる理由はここにあるんだと感じたんだ。
「俺は、強くなりたい。仲間や大切な人を守るため。そのためにも、立ち上がらなくちゃいけないんだ」
その言葉が口から出たとき、俺は心底驚いた。
強くなる理由は自分が一番よくわかっていたんだ。それを見失って……本当に俺は何をしてるんだ?
俺の言葉を聞くと、ノアが笑った。
「アルクスさん。鍵はもうあなたの中にありますよ」
「鍵?」
「私はノア。ユニークスキル<人間>をあなたに継承した、前のスキル保持者です」
言っている意味がよくわからない。俺は首を傾げた。
「どういうことだ? スキルを継承?」
「スキルは全ての人に平等に一つ、天から渡されます。ですが、まれにそうでない人もいる。<人間>は、代々スキルを持っていない人間同士で継承されてきたスキルなんです」
つまり、ノアが俺にそのスキルをくれた、ということだろうか。
「でも、俺は<スライム>を持ってる。一人につきスキルは一つだろ?」
「アルクスさんには人間とスライムの二つの姿があるじゃないですか。だから、例外的に二つ持てるのです」
人間の俺が<スライム>を。
スライムの俺が<人間>を。
それぞれ一つずつ持っているということだろうか。
「強くなる本当の理由を見つけたアルクスさんなら、<人間>の力を引き出せるでしょう」
その時、花畑の空が暗くなり、瞬く間に夜になる。
雲一つない、満点の星空。俺はその光景に目を奪われた。
「星々に捧げられた純粋な『祈り』よ。人々の心を温かな『希望』で満たし、まだ見ぬ明日へと進む者に『勇気』を与えなさい!」
ノアが詠唱をすると、彼女が水を掬うように胸の前に出した両手の手のひらから、七色の光が溢れ出す。
それは柱のように空へと昇ると、俺の元へと降り注いできた。
「<スライム>だけでも<人間>だけでも、敵に勝つことはできないかもしれません。でも、二つの力が合わされば、きっとあなたは大事なものを守ることができるはずです」
――
新たなスキルが解放されました。
――
ノアの声が遠くなっていく。意識が覚醒する。
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