第43話 圧倒的な絶望

「ごめん、ちょっと時間がかかった!」


「馬鹿……遅いのよ! 馬鹿馬鹿馬鹿!」


「もしかして、泣いてるのか?」


「泣いてないし!」


 さて、ライゼが生きていてよかったのは間違いないが、状況はかなり切迫している。巨大な青白い骸骨。そしてそれを操っているのは――。


「ダン、生きてたんだな」


「まさか。地獄の底から這い出してきたんだぜ」


 ラウハに潰されたはずのダン。生前と変わらないままの姿で再び俺たちの前に立ちはだかった。


 想像もしなかった――いや、人間をアンデッドにできるんだから、それくらいは想像しておくべきだった。

 まさかこんな形で俺たちが再会することになるなんて。


「先にライゼの奴をいたぶってやろうと思ったが……まあいい。お前は俺を直接殴ったから、それだけ罪も重い。先に痛い目に合わせてやる」


「アルクス、後ろの骸骨に気を付けて。それから、近づきすぎると攻撃を食らう!」


「わかった!」


 本当はまだまだ聞きたいことがあるが、今はそうも言っていられない。俺は剣を構えた。


 さっき斬りかかったら、ダンはライゼを襲うのを止めて後ろに下がった。つまり、攻撃は通用するはずだ。


「<鑑定>!」


 まずは相手の弱点を探る!


――


 対象:ダン・オルテーゼ レベル0

 弱点部位を観測サーチ

 解析中。解析完了。

 弱点部位が発見されました。視点を共有します。


――


 解析された情報をもとに、ダンの体が赤く光る。弱点は人間の急所そのもので、それはすなわち攻撃が通用することを意味している。


――


 対象:ダン・オルテーゼ レベル0

 スキル

 <アンデッド>

 『百鬼夜行』…死者をアンデッドモンスターに変える。

 『死の舞踏』…半径1キロ以内のアンデッドモンスターの数に応じて能力が解放される。


――


 次に表示されたのはスキルの情報。

 なるほど、アンデッドモンスターの数だけ強くなるスキルなのか。

 しかし、解放される能力とはいったいなんだ? もしかして、後ろの骸骨だけが能力じゃないのか?

 ライゼが言っていたこともある。警戒が必要だ。


 一気に畳みかけようと思っていたが、それは危険だ。まずは様子見から行く!


「いくぞ、みんな!」


「キュ!」


 俺はまず、6匹のスライムたちを出した。うち1匹は鉄壁スライム。

 何かあったら防御をしつつ、一斉に攻撃する!


「くらえ!」


 俺はまだ魔法の制御ができない。出力は1か100か。100の方は体に負担がかかりすぎる。

 まずはジャブとして、1の火力で雷魔法を撃ってみる。小魚のような電流が、ダンの方へ向かって行った。


「<ゴーストハンド>」


 電流がダンにぶつかりそうになった時、後ろの骸骨の手がひっかくような動作で電流をかき消す。

 これがおそらく、一つ目の能力。名前は<ゴーストハンド>。

 なるほど、接近しすぎるとあれにやられてしまう。だったらなるべく近接を避けて攻撃を――


「なあ、お前もしかして俺のスキルを探ってるのか?」


 その時、ダンが薄ら笑いを浮かべて言った。


「だったらちょうどいい。教えてやるよ。俺のスキルを読み上げてやる」


 何を言ってるんだ、こいつ……。


「<ゴーストハンド>。敵一体に大ダメージを与える。<悪魔の鎖>。敵一体を拘束する。<不滅の盾イモータル・シールド>。盾の召喚。<嫉妬の炎エンヴィー・ブレイズ>。全体への高火力。<不滅の愛マリア>。スケルトン・エンペラーの召喚」


 なんで自分で手の内を明かしてるんだ!?


「今、なんで手の内を明かしたのか疑問に思っただろ? 簡単な話だ、俺のスキルは最強だからだよ」


 その時、後ろの骸骨が腕を横なぎに振り回した。巨大な腕が俺たちを襲う!


「マズい!」


 俺は剣を構え、スケルトンの手刀と刃を混じらせる。

 ガキン、と金属の音が鳴り響いた。飛び散る火花。


 なんてパワーだ! あの大きさは伊達じゃない。体が押されて、このままだと吹っ飛ばされてしまう!


「キュキュ!」


 その時、スライムたちがダンに向かって走り出した。

 片手は俺が抑えているから、もう片方の手を躱すことができれば、ダンに直接ダメージを与えられるかもしれない!


「だから、意味ねえんだよ!!」


 しかし、ダンは叫んだ。

 刹那、骸骨の口が青く光る。あれは炎だ。ということはまさか!


「<嫉妬の炎エンヴィー・ブレイズ>!!」


 骸骨の口から青い炎が吐き出される。まるで高火力の光線だ。


「うわあああああああああああ!!」


 あまりの威力と熱に、俺は一気に後方へ吹っ飛ばされた。

 地面を転がって、墓石に激突。まだ意識はあるが、かなりダメージを負ってしまった!


「キュ~……」


 座り込んでいる俺の腹の上で、鉄壁スライムが鳴いた。盾がひどくひび割れている。


「お前……俺を守ってくれたのか!」


 鉄壁スライムが間に入ってもこの威力。なんて強力なんだ。

 鉄壁スライムは力尽きたのか、夏場のアイスのようにドロリと溶けてしまう。


「くそっ、どうすれば……」


「攻撃はまだ終わってないぞおおおお!!」


 次の手を考えたその時、骸骨の手が俺の体を掴んだ。

 ギュッと力強く握ると、グルグルと腕を振り回し始める。


 マズい! このままだと……!!


「吹っ飛べええええええ!!」


 ダンの掛け声と同時に、パッと手が離された。

 まるでボールが投げられるように、俺の体は空を飛ぶ。


 ズドオオオオオオオオオオン!!


 激しい轟音。俺は墓地の壁に叩きつけられた。


『アルクスさん、アルクスさん』


 誰かの声が聞こえる。意識が途切れる。

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