第42話 不滅の愛【SIDE:ライゼ】

「なによそれ……まさか、大きなモンスターをアンデッドにしたの!?」


「ん? 違うな。これは俺の新しいスキルの能力だ。名前は<不滅の愛マリア>」


 あんな骸骨を出すことができるスキルなんて聞いたことがない。


「本当は俺を殺したジャイアントスプリガンをアンデッドにしてやりたかったんだけどなあ。くたばった瞬間に消えやがった。敵の手に落ちるのが嫌だったのかもなあ、くだらねえプライドだ」


 ジャイアントスプリガンを倒したということは、かなり強い。それはもはや、この街の冒険者では太刀打ちできないほどに。


「怖気づいたか? でも駄目だ、お前はもう絶対に許さない。お前は一線を越えてしまった」


「それはこっちの台詞よ!」


 魔法陣を大量展開。ファイアーボールを生成し、一気にダンに向かって放った。


「それはさっき見た! どんだけ芸がないんだよ!!」


 ダンはさっきと同じように<ゴーストハンド>で火球を消し去った。浅い層ならダンジョンのモンスターにも通じるような魔法なのに。まるで塵を吹き飛ばすようだ。

 だが、それでは終わらない。


「……どこに行った!?」


 火球が消されるのは織り込み済み。ダンが視線を火球に奪われている間に隠れる作戦だ。

 私は今、墓石の裏側に身を隠している。見つかるまでに少しは時間を稼げるはずだ。

 この時間で魔法の準備をして、隙をついて奴に魔法を叩きこむ。

 確かに後ろにいる骸骨マリアには敵わないかもしれない。でも、本体であるダンが同じように強いとは考えにくい。


 大魔法<大火球エル・フレイア>の一段階上の炎魔法、<業火弾ミグル・フレイア>を撃つ。

 私のレベルでは時間がかかりすぎて実戦向きではないけど、今ならできるはず。


 よし、あと10秒もあれば……


「<嫉妬の炎エンヴィー・ブレイズ>」


 着々と魔法陣の準備をしていたその時。私の視界を青白い炎が支配した。

 墓石が、まるで紙のように焼かれてしまった。焦土と化した地面の真ん中で、ダンは私を見つけて笑っていた。


「お前、馬鹿だな? 俺がお前を逃がすわけないだろ」


 ダンに見つかった! でも、魔法の準備はもう終わる!

 3、2、1……今!!


「<業火弾ミグル・フレイア>!!」


 煌々と光る緋色の火球が、流星のようにダンに向かって行く。さすがこれを食らえばダンでも立ち上がれないはず!


「だから、馬鹿だって言ってんだよ」


 はずなのに。ダンは不気味に笑って立っているだけだった。


「<不滅の盾イモータル・シールド>」


 刹那、ダンの目の前にいかめしいデザインの盾が出現し、<業火弾ミグル・フレイア>をはじき返した。

 私の渾身の魔法は、はじき返された後に背後の壁を破壊して消えてしまった。


 ああ、駄目だ。私ではこいつにかなわない。


「なにボーっと突っ立てるんだよ。もう終わりかよ!」


 気が付くと、ダンは私のすぐ目の前にいて、避ける間もなく私の頬はダンの平手打ちを受けた。


 衝撃で地面に倒れる。ダンは私に馬乗りになると、髪を掴んできた。


「前に言ったよな? お前、自分のこと可愛いとか思ってんだろ? マジで気持ち悪いなあ」


「離して!」


「離すわけないだろ。ああ? くだらねえんだよ。頭を使って隠れて、俺から一本取るつもりだったのか? そういう小生意気なところが可愛い子ぶってるって言ってるんだよ!」


 顔面を殴られる。一発、二発と拳が叩き込まれ、口の中で血の味がした。


「いいか、女のくせに調子に乗るからこういうことになるんだぞ。黙って俺の言う通りにしておけばこうならなかったものを、ざまあねえな」


 ダンの手が私の首を掴む。心臓が跳ねるのを感じた。


「後悔してるか? してるよな? もう許してほしいとか思ってるんだろ? でももう遅い。お前は取り返しのつかないことをした!!」


 狂喜するダン。首を掴む力が強くなっていく。


「手始めに、お前の喉を潰してやる。おっと、これで死ねるとか思うなよ? こんなのまだ手始めに過ぎないんだからな。声が出なくなったお前をいたぶるのは本当に楽しみだ!」


 息ができなくなっていく。痛い。苦しい。

 何やってるんだろ、私。やっぱり両親の言う通り、強い者に従うことが正しかったんだ。


 馬鹿だなあ、こんな時になって後悔するなんて。そんなことなら最初から反抗なんかしなきゃよかったのに。


 私このまま死ぬのか。嫌だなあ、死にたくない。まだやり残したこと、いっぱいあるのに。


 なんで最期にあいつの顔を思い出すのよ。


「……けてよ」


「あ?」


 その時、急速にダンの手の力が弱まった。何が起こったのかわからずに起き上がると、彼の姿はいつの間にか遠くに移動している。

 そして、私の体が宙に浮いた。覚えのある感覚。なぜか心が温かくなる。


「助けるよ」


 私を抱え上げていたのは、アルクスだった。

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