第41話 墓地の死神【SIDE:ライゼ】
「ほんっとここ、夜に来るもんじゃないわね……」
アルクスと二手に別れ、私は街の墓地に来ていた。
アンデッドモンスターが街に出ないように、墓地は5メートルの高い石壁に囲まれている。
「……やっぱり開いてる」
墓地には大きな格子門が備えられている。いつもは厳重に閉じられているが、今はだらしなく開いてしまっている。
私は緊張感を高めながら、門を潜ってその先へ進む。
墓地の中は広く、おびただしい数の墓石が土に埋められている。
個人の名前が刻まれた墓石の中には、新しい花束が添えられているものもあった。
「……これは!」
墓石を見ていると、そのうちの一つに違和感を覚えた。墓石の手前に、犬が掘ったような穴が空いている。
「嘘、これも……これも……!」
一つに気づくと、他の墓石にも目がいく。ぐるりと見渡して、私はある事実に気が付いた。
この辺りの墓石の前には、全て穴が空いている。それも、生き物が掘ったような穴がたくさん。
なぜそんなことになっているのかは容易に想像がつく。土の中に埋まっていた遺体が這い出してきたからだ。
考えたくもないことだけど、アルクスが言っていたことがなおさらその信憑性を高くする。
そして、彼の予想は正しかった。
となれば、この近くに首謀者もいるかもしれない!
「おいおい、街から逃げて墓地に逃げ込んだのかよ? だとしたらお前、相当な間抜けだぜ」
背後で声がする。私は即座に方向転換し、身構えた。
「……そんな、アンタはまさか」
目の前の男には見覚えがあった。いや、普通ならあってはならないはずなのに。
「お前……ライゼか!?」
私を睨みつけているその男――今回の事件の首謀者は、ダンだった。
「どうして!? アンタは死んだはずでしょ!?」
「ああ、お前とアルクスに惨めな思いをさせられた後、ぶっ潰されてな。だが、蘇ることができたんだよ」
「そんなおかしな話があるわけがないじゃない! ふざけないで!!」
「おかしな話があるから、俺がここにいるんだろ? 俺は全部覚えてるぜ、お前を追放したことも、土下座させられたことも、お前に死ぬこと以上の苦痛を与えてやろうと思ったことも」
ヒヒヒ、とダンが笑った。思わず全身に鳥肌が立つ。
理解できるわけないじゃない。死んだ人間が生き返ってくるなんて。
「一応聞くけど、街にアンデッドモンスターを彷徨わせているのはアンタね?」
「そうだ。俺の力でこの墓地の人間をモンスターにしたのさ」
「何の目的?」
「さっきも言っただろ、お前とアルクスに復讐してやるためだよ」
ダンはそう言うと、髪をかきむしって犬のように荒く呼吸を始めた。
「お前ら二人の顔は今でも覚えてるよ。地面に這いつくばって助けを求める俺を見て、ニタニタニタニタ笑ってたよな。どんないい女を俺の物にしても、一日もすれば思い出はあせちまう。でも、お前らのあの時の表情は今でもはっきり覚えてんだよ!!」
激しく怒り狂って地面を乱暴に蹴ると、今度は人格が変わったように笑い始めた。
「だから、お前たち二人を殺してやることにした。お前らのせいで街の人間は死ぬ。そしてお前らはこの世で最も残酷な方法で苦痛を与えられ、死ぬ。俺はそうして、ようやくお前らのことを忘れられる!」
「……狂ってる」
もはや、ダンは正気だと思えなかった。元々おかしな奴だと思っていたが、もはやその域を超えている。
「ダン、アンタはもう完全に狂人よ。地獄に送り返してあげる」
「アヒャヒャヒャヒャ!! できんのかよそんなこと、お前みたいな雑魚に!!」
「その口もふさいでやるわ!!」
魔法陣展開。水を生成。一気に温度を下げ、凝縮!
足元に出現した青色の魔法陣から、水の球がいくつも上がってくる。徐々に温度が下がり、それは氷塊へと変化した。
「くらいなさい!」
私は魔法陣に向かってかかとを落とした。足が接地した瞬間、氷は礫のようにダンに向かって放たれた。
「その体、穴だらけにしてやるわ!」
燕のようなスピードで突き進む氷塊。しかし、ダンはピクリとも動く気配がない。
「……おいおい、まさか俺が無策だと思ってるのか?」
背筋に悪寒が走った。次の瞬間、ダンの体の周りに紫色の怪しい光が漂った。
「<ゴーストハンド>」
ダンがつぶやいたその時だった。彼の横に巨大な骸骨の腕が出現し、ひっかくような動きで氷の礫たちを粉々にしてしまった。
「なにをしたの!?」
「これが俺の新しい力だ! 見ろ!! これがお前らを殺す死神の姿だあああああああ!!」
ダンが狂った笑い声を上げると、彼の背後にうっすらと何かが現れる。
それは紫色の骸骨だった。体長5メートルほどの巨大なスケルトンのような何かが、上半身だけになってダンの後ろで動いている。
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