第39話 街が混沌と化しました。

「ひいいいいいいいい!! 助けてくれええええええええええ!!」


 広場はまさに地獄絵図だった。人型のスケルトンはもちろん、四足歩行のスケルトンビースト、顔の皮がロウソクのように溶けているゾンビ。

 そんな魑魅魍魎が街の人を襲っている。まるで生きた人間から生命力を奪い取ろうとしているようだ。


 街の人々は近づいてくるアンデッドモンスターたちを目にして、顔を引きつらせて騒いでいる。早く助けないと!


「みんな! モンスターを倒せ!」


「キュ!」


 今出すことができるスライムたち28匹を総動員。俺も剣を握ってアンデッドモンスターに斬りかかる。


 ライゼのような形になる魔法はまだ使えないが、剣に魔力を込めることはできるはずだ。

 まずは微弱な電流から、徐々にその力を強めていく。これで雷魔法を纏った斬撃が放てる!


「はっ!」


 ゾンビの右肩に袈裟斬りを放つ。雷も加わっていつもより高い威力の一撃に、ゾンビの体は斜めに真っ二つになった。


「キュキュキュ!!」


 スライムたちの方を見てみると、3匹が1班となってアンデッドモンスターを相手取っている。

 不幸中の幸いと言うべきか、アンデッドモンスターは一匹ならば大して強くない。スライムたちでも戦うことができているのがその証拠だ。


 だが……圧倒的に数が多い。目視できる範囲でも30〜40体はいるだろう。スライムたちも十分多い自負があるが、それを上回るほどだ。


「<鑑定>!」


 アンデッドモンスターたちを鑑定すると、やはりどれにも名前のようなものが付いている。この数といいやはり自然発生とは考えがたい。

 大丈夫なんだろうな、ライゼ。今すぐにでも墓地に行きたいが、街の人を見捨てるわけにはいかない。


「キャアアアアアアアア!!」


 また街の一角から声が上がった。今度は小さな女の子の声。


 声の方を見ると、ひとりの少女にスケルトンが近づいていた。泣きじゃくっているせいで、とても一人では逃げられそうにない。

 マズい、かなり距離があるのに、スケルトンが女の子のすぐ目の前まで来ている! スライムたちを動かしても間に合わない!


「その子から離れなさい!」


 その時、女の子とモンスターの間に一人の人物が割って入った。手に持った棒のようなものでスケルトンの頭を殴りつけると、一瞬動きが止まった。


「今だ!」


 俺はその隙にスケルトンの背後まで移動し、兜割りを頭蓋骨に叩きつける。


「間に合った!」


「あなたは……って、アル君!?」


 少女を助けたのは、ギルド職員のシエラさんだった。普段のギルドの制服姿ではなく、部屋着のような恰好をしている。


「アル君か、よかった……」


 シエラさんは安心したようにつぶやくと、地面にへたり込んでしまった。


「シエラさん! 何やってるんですか、危うく死ぬところでしたよ!?」


「私だって怖かったよ……でも、気づいたら体が動いてたの。守らなくちゃって思って……」


 普段はしっかり者で、完璧だと思っていたシエラさん。そんな彼女の弱い一面を見た気がした。


「ウガガガガガガガ……」


 安心したのも束の間。アンデッドモンスターは堰を切ったようにわらわらと俺たちの方へ向かってきた。


「嫌……嫌……」


「大丈夫、お姉ちゃんが絶対守ってあげるから!」


 少女を抱きしめ、アンデッドモンスターたちを見据えるシエラさん。


 この数相手に、俺一人で倒すことができるだろうか。順当に考えれば無理だ。剣で戦っているうちに他のモンスターがシエラさんたちを襲うだろう。

 シエラさんたちを逃がす――ことも難しい。彼女は地面にへたり込んでしまったので、走り出せるとは思わない。


 どうする? この状況を切り抜けることができるのか? 俺に?


「……違うだろ」


 違う。シエラさんはレベルが高くなくても少女を守った。彼女は打算なんかじゃ動いていない。


 できるかできないかじゃない。なんとしても守ってみせるんだ。


「……一か八か、やってみるか!」


「アル君? どうしたの?」


「シエラさん、少しその子をお願いします!」


 俺は剣も持たずにモンスターたちに真っ向から向かっていった。

 この状況で俺ができること。すなわち、魔法を全力で打つことブッパ


 ラウハから貰った宝珠のおかげで、幸い魔力量だけは自慢なんだ。

 全身の神経を研ぎ澄まし、雷を前に押し出すイメージをする。

 モンスターたちの波に抗うような、強烈な一撃を。弓矢のように一直線に突き進む雷鳴を。全てを貫くような衝撃を。


 この手に宿して――。


「放つっっ!!」


 俺が右ストレートをすると、それと連動するように雷鳴が地面をほとばしり、モンスターたちを焼き払う。

 とんでもない威力だ、下手したらこっちが火傷してしまう。


 アンデッドモンスターたちは雷魔法をモロに食らうと、たちまち消し飛んでしまった。

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