第38話 街にアンデッドが蔓延りました。

「…………」


「どうしたの? さっきからジロジロ見て」


「いやあ、よく食べるなあと思って……」


 ダンツェルさんに急に依頼されたとはいえ、休みの日にライゼに付き合ってもらったので、お詫びに夕食に奢ることになったわけだが。

 こいつ、本当によく食べるな。パスタを上機嫌に食べたと思ったら、今度は食後のデザートでクレープを食べ始めた。細い体のどこに入るかが不思議でならない。


「美味しいんだからいいでしょ。それとも何か言いたいの?」


「太るぞ」


「デリカシーどうなってんのよ!!」


 ライゼはクレープを大きく頬張ると、ハムスターのように口を膨らませてもしゃもしゃと咀嚼する。

 まあ、美味しそうに食べてくれるなら奢ったかいがあるというものだ。


 ライゼが美食を堪能している間、俺は自分のステータスを確認してみることにした。


――


 アルクス・セイラント 17歳 男

 レベル26


 スキル

 <スライム>

 『スライムテイマー』……レベル5のスライムを発生させることができる。最大28匹。

 『スライムメーカー』……スライムにクラスチェンジを施すことができる。

 ・鑑定スライム(1) ・収納スライム(1) ・鉄壁スライム(2) ・治癒スライム(1)


 ・スライムジェネラル


――


 レベルが上がったことで、俺のスキルはさらに強化されていた。

 特に大きな変化と言えば、治癒スライムを出せるようになったことだろう。


 治癒スライムは注射器を持ったスライムだ。俺やスライムの体力が減ったときに、注射器を刺すことで体力を回復してくれる。

 ただし、回復すると言っても一気に全快するほどではない。じわじわ癒されていく……という感じ。


 なんにせよ、日々進歩していることは間違いない。このままダンジョンに潜り続けていれば、順調にレベルアップできるだろう。


「――ふう。美味しかった。ちょっとだけ感謝してあげるわ」


「美味しかったなら何よりです。さて、もういい時間だし帰ろうぜ」


「そうね。明日からまた魔法の練習を――」


 俺たちが席を立ったその時。


「うあああああああああああああああ!!!」


 店の外から男の叫び声が聞こえた。この前の一件といい、外から声が聞こえるとロクなことが起こらない。


「ライゼ!」


「わかってる!」


 テーブルにお金を置いて、俺とライゼは外に出た。


「な……これは!?」


 店の外に出ると、叫び声の正体がわかった。中年の男が、動く骸骨に首を掴まれている。


「離れなさい!」


 ライゼが風魔法を放つと、骸骨はバラバラの骨に分解され、地面をゴロゴロ転がった。


「鑑定スライム!」


 目の前のモンスターが何なのかを知るために、俺はすかさず<鑑定>を行った。


――


 対象:スケルトン(アントニー・ドノフリオ) レベル1

 スキル<アンデッド>の効果範囲にいます。


――


 なんだこれ? 弱点は例のごとくわかるが、モンスターの説明がいつもとは違う。


 とりあえず、まずはこいつを倒すぞ!


「はあっ!」


 スケルトンの弱点は頭部。つまり、剣で頭部を粉砕すれば活動を停止する!

 刃と頭蓋骨がぶつかった瞬間、陶器が割れるような音がして頭部が破壊され、スケルトンは地面に倒れた。


「なんで街の中にモンスターが……?」


 剣を収めようとしたとき、街のどこかで今度は女性の叫び声が聞こえてきた。


「また声が聞こえたぞ!?」


「街の中でモンスターが大量発生してるってこと!? そんなのありえない!」


 アンデッドモンスター自体はそれほど珍しいものではない。人の死体があるところに出現するモンスターで、直接的に人間がアンデッドになるわけではない。

 アンデッドモンスターが大量発生する原因と言えば、墓所の見張りがアンデッドモンスターの倒すのを怠ったことが挙げられる。

 でも、こんなに大規模になるというのは相当なことだ。それに、俺には気になっていることがあった。


「さっきのスケルトンを鑑定したら、モンスター名の後に何か言っていたんだ。多分あれは人の名前だったと思う」


「はあ!? あのアンデッドモンスターが元は人間だって言いたいの!?」


「それに、『スキル<アンデッド>』って言ってた。きっとそれが何か関係してるんだ」


 ライゼは俺の言葉を一度受け止めると、数秒考えた。


「つまり、その<アンデッド>ってスキルが、人間をアンデッドモンスターに変えていると?」


「そういうことになると思う、多分」


 ライゼは頭を抱えた。正直言って、俺もそんなことはありえないと思う。でも、現に与えられた情報ではそう考えるしかない。


「アルクス、二手に分かれましょう。アンタはスライムと協力して街の人を助けなさい」


「ライゼはどうするんだ?」


「私はアンタの仮説を検証しに行く。私たちがスケルトンにならないということは、おそらくアンデッドモンスターになるのは死者。死者が集まるのは?」


「……そうか、墓地!」


 馬は馬方、死者を探すなら墓地。墓地に行けば<アンデッド>の持ち主を見つけられる可能性が高い。


「わかった、俺も後でそっちに行く!」


「死ぬんじゃないわよ!」


「当たり前だ!」


 俺たちは揃って頷くと、反対方向に走り出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る