第37話 <アンデッド>の脅威【SIDE:ダン】

 気が付くと、俺は森の中に立っていた。服装はボロボロで足には何も履いていない。

 見覚えのある木だ。月明りでわかるほどよく見慣れている光景ということは、ここは森林エリア。それもかなり奥の方だ。


 俺は死んだあとあのジャイアントスプリガンに引きずられてここまで来たんだろうか。あるいは、俺を恨んでいた人間がここに俺の死体を捨てたか。どっちみちロクな死に方じゃない。


 さて、オルティアに戻るか。……と、その前に。


「どうやら面倒なことになってるらしいな」


「グルルルル……」


 茂みの中に、キラリと何かが光っているのが見える。それは横一列に並んでいて、ついでに唸り声も聞こえてくる。


 ブラッディウルフ。群れで狩りを行うオオカミ型のモンスターだ。

 生前の俺なら、一体くらい倒すのは容易だった。しかし、今の俺は明らかに囲まれている。

 そのうえ、生き返った俺の実力が死ぬ前と同じとは限らない。これは困った。


――


 ダン・オルテーゼ 0歳 男

 レベル0


 スキル

 <アンデッド

 『百鬼夜行』…死者をアンデッドモンスターに変え、使役する。

 『死の舞踏』…半径1キロ以内のアンデッドモンスターの数に応じて能力が解放される。

 0:<ゴーストハンド>…敵一体に大ダメージを与える。


――


 ステータスを見てみると、新しい項目が増えていることに気が付いた。

 0というのは、おそらくアンデッドモンスターの数だろう。

 つまり、俺に今できるのはこのゴーストハンドという技のみ。


「ガウッ!!」


 ブラッディウルフの一匹が俺に飛び掛かってきた。速い。今から逃げてもすぐに追いつかれるだろう。


「<ゴーストハンド>」


 手のひらを前に突き出して、そう宣言すると、青白い巨大な骸骨の手がブラッディウルフの体を握りつぶした。


「ウガッ!?」


 骨が砕ける音とともに、ブラッディウルフは絶命する。青白い手はすーっと薄くなって消えていった。


「ウウウウウウウウウ……」


 次の瞬間、死んだはずのブラッディウルフがよろよろと起き上がり始めた。

 なるほど、これが『百鬼夜行』の効果か。最初のしもべができたな。


「さあ、やれ」


「グワガガッ!!」


 死にかけのニワトリのような声を上げ、アンデッドとなったブラッディウルフは仲間の喉笛にかみついた。

 突然の出来事に、仲間たちは動くことができない。その間にもアンデッドは増え続ける。


「はははは!! 素晴らしい! 俺にふさわしい最強のスキルだ!」


「ゴゴゴゴゴ……」


 その時だった。森に一陣の風が吹くのを感じた。

 ズシンズシンと大地が揺れる。これはまさか。


「ゴオオオオオオオオオ!!」


 やはり。森の奥から姿を現したのはジャイアントスプリガン。俺を殺した憎き復讐対象だ。


「やれ! ウルフども!!」


 アンデッドと化したウルフたちは、ジャイアントスプリガンに向かって走り出した。俺はすかさずステータスを開く。


――


 ダン・オルテーゼ 0歳 男

 レベル0


 スキル

 <アンデッド>

 『百鬼夜行』…死者をアンデッドモンスターに変え、使役する。

 『死の舞踏』…半径1キロ以内のアンデッドモンスターの数に応じて能力が解放される。

 0:<ゴーストハンド>…敵一体に大ダメージを与える。

 8:<悪魔の鎖>…敵一体を拘束する。


――


 素晴らしい。ちょうど足止めのスキルが欲しかったんだ。

 最強のスキルを持っているとはいえ、ジャイアントスプリガン相手にオオカミ8匹は分が悪い。


「<悪魔の鎖>!!」


 宣言した瞬間、地面と上空から紫色の鎖が現れ、ジャイアントスプリガンの巨躯を縛り上げた。


「ゴオオオオオオオオオ!!」


 逃げるなってか? 逃げるわけないだろ。お前のことは一番に殺したかったくらいなんだよ。


「……やっぱりな」


 走ったその先で目当てのものを見つけ、俺は破顔した。


 見つけたのは……白骨化した大量の人間の死体。

 この森は深いから、不要な人間を殺した後に捨てるにはいい場所だと思っていたんだ。


 俺が考えるようなことは、先に誰かが考えている。この死体たちは、世の中に不要とされた人間たちの成れの果てだ。


「さあ、よみがえれ! 俺のために、あのジャイアントスプリガンを殺せ!」


 紫色の煙を上げて、骸骨たちが起き上がり始める。


 俺という人間が、一度『不要』とされた人間に意味を授けてやっているんだ。それは素晴らしいことじゃないか。

 やはり、俺はこの世界を統べるべき人間なのだ。<アンデッド>とともに、全てが思い通りになるような俺の世界を作る。


「はははははは!! はははははははははは!!」


 そう思ったら笑いが止まらなかった。動き出す骸骨の兵隊たちは、ジャイアントスプリガンがいた方へ走っていく。


 あのデカブツを始末したら、今度はオルティアの街へ向かう。

 次に殺すのはアルクスとライゼだ。あの二人は絶対に許さない。


 地獄なんて言葉では生ぬるい、与えられる限りの苦痛を与えてから残酷に殺す。

 支配者に逆らった罰だ。俺は無能を助けてやるのは上手だが、奴らは一度俺の救いの手を跳ねのけたのだ。


 全てあの二人が悪い。俺の作る世界にあの二人は不要だ。

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