第33話 森の番人と仲良くなりました。

『ありがとう。必ず解決してみせるよ』


『人間が自然の力を利用することは別によいのだ。しかし、それがあまりにも過剰すぎる。そこを是正さえしてくれれば問題はない』


『わかった。ついでに聞いておきたいんだけど、モンスターを倒すのもまずいかな?』


『それも、過剰になりすぎなければ問題はない。我々も人間を殺すからな。それは自然の摂理というものだ』


 まさに森の番人。考え方が自然と調和しているな。


『アルクス、私は貴様と話すことができて本当によかった。あのまま行けば、私はこの街を破壊し尽くしていただろう。自然の摂理とはいえ、それは心が痛むことだ』


『こちらこそ、ラウハイゼンと話せてよかったよ。あのままだったら無謀な戦いをするところだったから』


『ハハハ、やってみるか?』


『……シャレにならねーっす』


 ラウハイゼンと戦ったら俺は1秒で潰される自信がある。


『私は貴様が気に入ったぞ。これをやろう』


 そう言うと、ラウハイゼンは頭の空洞部分に手を突っ込んで、直径30センチくらいの綺麗な水晶のような玉を俺に差し出した。

 小さいころに見た、木の幹から出ている蜜みたいな色合いをしている。飴色って言うんだっけか。


『これは?』


『魔力宝珠。所有者が念ずれば、一度だけその者の魔力上限を高めることができる。私には不要なものだ』


『そんなすごいもの貰っちゃっていいのか? でも、俺には魔法の才能がないんだよ』


『いや、そんなことはありえないぞ。魔法は全ての者に平等に使えるはずだ。多少才能がなくても、そのアイテムさえあれば魔法は使える』


 マジか。確かに、小さいころに先生に才能が無いと言われて、ずっとそれを信じて生きてしまったような気がする。

 俺も魔法、使えるのかな? できるならやってみたいかもしれないな。


『さて、そろそろ森に帰るとしようか。楽しかったぞアルクス。また会おう』


『うん。また会おう。それから、次会うときはラウハって呼んでいいか?』


『ラウハ?』


『ラウハイゼンのニックネームだよ。ニックネームって言うのは、友達同士で呼び合うようなものかな?』


『友達……か。素晴らしい響きだな。貴様とはよき友人になれそうだぞ、アルクス』


 俺はラウハからもらった宝珠を<収納>でインベントリに入れると、人間の姿に戻った。


「じゃあな、ラウハイゼン!」


「ゴゴゴゴゴ……」


 地響きのような唸り声だが、俺にはなぜかさらばだと言っているように聞こえた。


 いい奴だったな。やっぱり話したらわかってくれた。


「アルクス!」


 その時、俺の名前を呼ぶ声がして、誰かが俺の背中に頭突きをしてきた。ライゼだった。


「何するんだお前!? 怪我するだろうが!!」


「いきなり走り出して勝手に解決するなって言ってんのよ! 心配したんだから!!」


 怒ってるんだか心配してるんだか。


「で、どうなったの?」


「オルテーゼ家の森林破壊を辞めさせるという条件で手を引いてもらった。今回の一件はさすがにうやむやにはできないだろうし、改善するはずだ」


 どんな権力も、ラウハの前では無に等しい。冒険者たちで呼びかければさすがに止まるはずだ。

 さて、一件落着だな。ラウハに言われた通り、魔法を試してみようかな。ライゼなら教えるの上手そうだし――


「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 その時。街の中から獣のような叫び声が聞こえた。同時に、何かが俺の横を通った。


「なんだ!?」


 慌てて振り返ると、ラウハの方へ誰かが走っている。ダンだ。


「くらええええええええ!!」


 ちょっと大きめな石をラウハの背中に投げつけた。コツン、という音が鳴って、石が地面に落ちる。


「おいそこの雑魚モンスター!! スライム野郎なんかにビビって逃げたのか!? デカい図体して全然大したことないじゃねえか!!」


「おいやめろ!」


 ダンはなぜかハイになっていて、頭から流血しながらゲラゲラ笑っている。


「俺はそこのアルクスなんかよりも有能なんだよ!! つまり、お前なんか楽勝だぜ!!」


 ダンが拳を握りしめ、ラウハに飛び掛かる。ラウハはそれに気が付くと、後ろを振り返る。


「ハハハハハ!! これで終わ――」


 次の瞬間、ダンはラウハの巨大な拳に叩き潰された。まるで人間が蚊を潰すようにあっさりと。


「……ゴゴゴゴ」


 ラウハはさみしそうにつぶやいた後、歩いて街を後にした。

 街を沈黙が支配した。あまりにも強烈な光景に、俺たちは目を奪われてしまったのだ。


 ダンが死んだ。巨人の拳に潰され、無残にも最期を迎えた。

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