第32話 森の番人ラウハイゼン

 全てのパズルのピースが揃う音がした。


「つまり、ジャイアントスプリガンが街で暴れてる理由は、ダンの家が樹木を切り落としまくったから……?」


 ライゼがうなずく。

 オルテーゼ家は自然の番人であるジャイアントスプリガンを無視して森林の伐採を行い、利益を得た。


 これまではジャイアントスプリガンが活動期になるたびにS級冒険者に討伐させていたが、今年はダンがその討伐に当たってしまった。だからこうして街が壊されている。


 じゃあこの事件はすべてオルテーゼ家の問題じゃないのか……?


「でも、そんなことがわかったところで私たちには何もできないわよ! S級が来るまでこのままじっと見てろって言うの!?」


「いや、奴が自然の番人だとしたら攻略法はある!」


 まだ仮説ではあるが、ジャイアントスプリガンを倒せるかもしれない!


「<スライム>ッ!」


 『スライムテイマー』の効果でスライムを24匹繰り出し、スプリガンの元へ向かわせる。


「ちょっと!? スライムなんかで勝てるわけないでしょ!?」


「いや、待ってくれ!」


 俺はライゼを制止し、しばらく動向を見守ることにした。スライムたちがスプリガンの足元にたどり着いた。


「キュキュキュ!」


「ゴゴゴゴゴ……」


 スライムとスプリガンはまるで会話でもしているようだ。

 建物を壊して回っていた巨人という印象から一転、弱者にも優しく接するリーダーという雰囲気すら感じる。


「やっぱり……スプリガンはスライムを襲わない!」


 奴は自然の番人だ。あくまで人間に対する報復をしに来たというだけで、他のモンスターは襲わない。


「だったら話は早い! <スライム>!」


 今度は俺自身がスライムの姿に変化して、スプリガンの方へ走っていく。


「アルクス! 危ないわ、待ちなさい!」


キュキュキュキュ大丈夫だ。待ってろ!」


 やべ、この姿じゃ何言ってるかわからないんだった。まあ、ライゼのことだから突っ込んではこないだろう。


キュキュみんな、キュキュキュ足場にキュキュキュなってくれ!」


 スプリガンの足元まで来た俺は、他のスライムたちにトランポリンになってもらって、一気に上に跳ね上がる。

 スプリガンの肩に乗っかると、大きく息を吸って、覚悟を決めた。


キュキュキュキュなあ、聞こえるか!?」


 思い切って話しかけてみた。

 こいつが実は優しいモンスターならば、対話の余地がある。


『ああ、聞こえているぞ……』


 すげー! 本当に通じちゃった!!


『怒らないで聞いてほしいんだが。俺は人間なんだ。でも、お前と話がしたいと思ってる』


『……人間などと話などしたくないと思っていたが。貴様はどうやら事情が違うようだな。いいだろう』


 スプリガンはその場で胡坐をかいて、俺を肩から自分の前に移動させた。ちょうど相対するような形だ。


『で、貴様は何者なんだ? 名は何という?』


『俺はアルクス。人間の代弁者スポークスマンってところかな』


『なるほどな。我が名はラウハイゼン。アルクスよ、まずは貴様を歓迎しよう』


 思ったより心優しそうだな。これはますますオルテーゼ家が悪く思えてきた。


『最初に聞きたいんだが……ラウハイゼンは人間の森林破壊について怒っているのか?』


『そうだ! 私は人間に対する復讐のためにこの街に来たのだ!』


 ラウハイゼンは激怒すると、大岩のような拳を地面に叩きつけた。地面に大きなクレーターができる。

 こっわ……今の直撃したら死んでたんじゃないのか?


『すまない。冷静さを欠いた。だが、私の怒りはそれほどまでなのだ』


『気持ちはよくわかるよ。実は俺たちもその森林破壊をしている奴には心当たりがあるんだ』


『なに? 全ての人間が森林破壊を望んでいるわけではないのか?』


『その通りだ。実はオルテーゼ家という一部の人間が、人間の住処を作るために森林を過剰に荒らしていた。結果として、莫大な利益を得ている』


『ふざけた話だ! どうして人間の利益のために我々の国が破壊されなければいけないのか!』


 これ以上怒らせると今度は俺が潰されかねないので、話を切り替えることにした。


『そこでだ。俺たちもこの状況は改善したいと思っている』


『ほう、そういう考え方をする人間もいるのだな』


『筋道はある程度できている。俺たちが森林を破壊している元凶の人物を止める。時間はかかるだろうが、森は少しずつ元に戻るはずだ』


『そんなことができるのか?』


『できる。これまではその一家が利益を得るために、人間がジャイアントスプリガンを倒しに来ていたわけだが、元凶が止まればそれも止まる』


『む、一年に一度くらい、私を攻撃してくる人間のことか? あれはまあまあ楽しいからいいがな』


 うわ、S級冒険者と戦ってたのはラウハイゼンだったのか。じゃあS級パーティでも完全には倒しきれないほど強いということだ。

 ってことはもしかして、ラウハイゼンめちゃくちゃ強い……?


『なるほど。アルクスが私と人間の関係を取り持って、森林破壊を止めてくれるのだな?』


『約束するよ。必ず状況は改善してみせる』


 ラウハイゼンはふーむ、と唸った。数秒ほど沈黙すると、コクリと頷いた。


『よし、わかった! 貴様の言うことに乗ろう!』


 会話すること5分。ラウハイゼンのお墨付きを貰えた。

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