第34話 魔法とイケオジ
「……そう。そのまま力を込め続けて。魔力が収縮して形になるのをイメージするの」
「魔力を収縮させて……形に!」
バチバチッ!!
ライゼの言葉をイメージしたその時、俺の手のひらに電流が走った。比喩ではなく、本当に。
「やった! ついに魔法が使えた!」
「ずいぶん時間はかかったけど、ちゃんとできたじゃない。やっぱりアンタの場合は教え方が悪かっただけみたいね」
俺の魔法属性は雷のようだ。初めて使った魔法の感触に、体が震えた。
「オルテーゼ家は街から出ていけー!!」
「俺たちの街を破壊して利益を得るような奴を許すな!」
聞こえてきたのは、街頭でのデモ行進だ。
ラウハが街に攻め込んでから一週間。街はしばらくこんな調子だった。
騒動によってオルテーゼ家の悪事がバレて、領主たちは家に籠城してしまった。冒険者を含む街の人々は、森が破壊されている事実を知って怒り、街を守るために活動をしているらしい。
身近なところで言えば、俺とライゼは冒険者としての資格を取り戻した。
やはり裏で糸を引いていたのはダンだったようで、彼が俺たちに謝罪をしたことであっさり解決した。
ここ一週間はライゼと魔法の修行をしていた。どうやらラウハがくれた宝珠はかなりのレアアイテムだったようで、売れば数百万ギルはくだらないとか。まあ自分で使ったけど。
全てが順調に進んでいた。しかし、俺の気分は晴れなかった。
「アルクス、またボーっとしてるわよ?」
ライゼが不思議そうに俺の顔を覗き込む。
「悪い。魔法が使えたことに感動してたんだ」
「……そうね、基礎中の基礎とはいえ魔法が使えるようになったわけだし、午後は休憩にしましょう」
ライゼがいきなりそんなことを言い出したものだから、驚いた。
「なんでだ? 俺はまだ行けるぞ?」
「たまには息抜きも必要だから。ここ一週間かなりスパルタに進めたんだから、一日くらい休みなさい。アンタのことだから、スライムたちにレベル上げさせてるんでしょ?」
彼女の言う通り、スライムたちは近くの草原エリアに放っている。24時間休まず働いてくれるおかげで、俺のレベルは一週間で2も上がった。
確かに、やることはやってるんだし休んでもいいかもな。たまには商店街にでも行ってみよう。
商店街に行くと、そこはいつものように人でにぎわっていた。
さて、何を買おうかな。お金はたっぷりある。せっかくの休日だし、サーカスでも見に行こうか。本を買うのもいいかもしれない。
「坊主か?」
いろいろ考えながら街を歩いていると、誰かが俺のことを呼び止めた。
振り返った先にいたのは、黒い帽子を被ったいかしたおじさん。茶色のアゴヒゲが渋いカッコよさを演出している。
俺はこの人を知っている。確かイレーナの師匠で、武具専門店の店長の――
「ダンツェルさん?」
「やっぱり坊主か。久しぶりだな、元気してたか?」
会うのは最初の一回で最後だったので、そこで俺の顔を覚えてくれていたらしい。
「最近どうだ? 言った通り、イレーナの奴はじゃじゃ馬だろ?」
「そんなことないですよ。本当にいい武器を作ってくれると思います」
「そうか、それはよかった。まあ俺の腕に比べたら格下もいいところだがな!」
「なんで弟子と張り合ってるんですか?」
ダンツェルさんはハハハと笑うと、俺のことを落ち着いたまなざしで見た。
「坊主、今時間あるか?」
ダンツェルさんにそう言われて、俺たちは喫茶店に入った。客層は男性が多く、落ち着いた雰囲気だ。
俺たちはコーヒーが届くまでの時間、少し雑談を楽しんだ。冒険者のことや、鍛冶屋さんのこと。
5分ほど経つと、コーヒーが届く。ダンツェルさんはカップに口をつけると、真剣な目をした。
「……なあ、坊主。何か最近悩んでるんじゃないのか?」
……見透かされている。
この人はすごい。俺の浮雲のような心を素手で掴み取ってしまった。
「俺は見ての通りガサツな人間だが、坊主よりは長く生きてるんだ。何か言いたいことがあるなら言ってくれ」
これは、正直に話そう。俺自身、うまく言葉にできるかわからないけど。
「この前のラウハーージャイアントスプリガンの事件で、知り合いが死んだんです」
「ほう」
ダンツェルさんは静かに受け止めた。
「そいつは本当に最悪なやつで、俺はそいつのことを絶対に許せませんでした。冒険者として強くなろうとしたのもそいつに復讐するためだったんです」
「よほどの悪党だったんだな」
「はい、それはもう。だからあいつに土下座をさせたときは胸がスッとしました。でも、あいつが死ぬ必要はあったのかなって思ったんです」
「なんでだ? そいつはクズだったんだろ? 生きている価値がないとかは思わなかったのか?」
「思いました。でも、俺はこんなことを求めていたのかよくわからなくなって……それに、強くなるのもあいつを倒すためでした。あいつが死んだ今、俺は何のために強くなるべきなのかわからなくて」
俺は体に入った異物を吐き出すようにして、ダンツェルさんに思いのたけを話した。
俺の中のモヤモヤが少しずつ言葉になっていく。
「で、坊主はこれからどうするんだ?」
「……わかりません。今のままでも生活はできるから、強くなることはやめて冒険者を続けようか、あるいは――」
やめてしまおうか。なんてうっすらと考えていた。
ダンツェルさんはコーヒーを一口飲むと、何秒か黙って俺を見た。
「坊主がそう思っているなら、その気持ちは本当なんだろうな。だが、これまで重ねてきた努力をわざわざ捨てる必要はないと思うぞ」
「というと?」
「強くなる理由がなくなったなら、新しく作ればいい。……そうだ、ちょうどいい」
ダンツェルさんは懐から紙を出すと、サラサラと何かを書いて俺に差し出してきた。
「これは?」
「お遣いだ。ダンジョンに潜ってこの素材を取ってきてくれるか? もちろん報酬は払う」
それは簡易的な鉱石の採取の依頼書だった。
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