第29話 冒険者ギルドを追放されました。

「どういうことなんですか、シエラさん!」


「ごめん、私もよくわからなくて……朝一番にそう言われたの」


 俺とライゼ、そしてシエラさんの三人は、ギルドの近くにあるベンチに集まって話をしていた。

 いつもは明るく笑っているシエラさんも、今日は申し訳なさそうな表情をしている。


 事の発端は、俺とライゼが朝からギルドに入ろうとしたときのことだ。

 曰く、俺たちは冒険者としての資格を剝奪され、出入り禁止にされてしまったらしい。


 言っておくが、悪いことなんてしていない。潔白なのにこの仕打ちだ。


 シエラさんも理由はわからないらしく、ギルマスから突然そのことを告げられたらしい。


「まあ、まず間違いなくダンの仕業でしょうね」


 ライゼは断言した。俺も同じことを考えていた。


「ダンのフルネームはダン・オルテーゼ。つまり、領主の息子よ。奴がその気になれば、親に言って冒険者ギルドなんか動かし放題よ」


 まったく卑怯なやつ、とライゼは苛立った様子で言って、地面を蹴る。

 昨日ダンが言っていた『せいぜい後悔しないようにな』という発言の意図はこれだろう。奴は自分の権力で俺たちに脅しをかけてきたのだ。


「アル君、本当にごめんなさい。私には何もできそうになくて……」


「シエラさんは何も悪くないですよ。すべての原因はダンにあるんですから」


 しかし困った。まさかここまで本格的に俺たちのことを潰しに来るとはな。


「一応言っておくけど、オルテーゼ家はこの街の権力者。逆らった人間の命を狙うことだって容易いわ。シエラさんも私たちと関わるとそういうリスクがあるわよ」


 命か。俺とライゼは冒険者だからまだ戦えるが、シエラさんはただの事務職だ。彼女を危険に晒すわけにはいかない。


「シエラさんはひとまず俺たちから離れてください。あとはなんとかしますから」


「でも……」


「シエラさんに何かあるほうが嫌です。俺たちなら大丈夫ですから」


「……そうだよね。ありがとう、私にできることがあったら何でも言ってね」


 シエラさんは俺たちに頭を下げると、ギルドの方へ戻っていった。


「で、どうする?」


「どうするもなにも、冒険者登録を抹消されたんじゃ、クエストも受けられないしモンスターとも戦えない。ドロップ品も売れない」


 ギルドというのは身近にありながらとても巨大な組織だ。冒険者へのクエストを統括し、仕事として割り振っている。そんなことはあの規模間でなければできないだろう。

 つまり、実質的に『詰み』。俺たちには何もできない。


「アルクス、うちに泊まりに来なさい。私も一応は貴族。広い屋敷にいた方が安全でしょ」


「いやいいよ。宿屋の周りにスライムを配置すれば敵が来ても気づくし」


「泊まりに来いって言ってんの!! はあ、なんでこうも手ごわいのか……」


 手ごわい? なんの話をしてるんだ?


「ライゼの家って貴族なんだろ? なんとかならないのかよ?」


「残念ながらね。うちはダンの家と比べれば下級もいいところ。だから両親は私とダンを結婚させようと躍起なわけ」


 貴族にもいろいろ事情があるんだな。よくわからんが。


「アルクス、アンタ貯金はどれくらいあるの? しばらくは冒険者として稼げないわよ?」


「……ざっと120万ギルくらいかな。最近の冒険でだいぶ稼いだからそこそこ残ってるはず」


 1日1万ギルくらいあれば余裕で生活できる。……とはいえ、いつか資金がショートするのも事実。


「やっぱりアンタはうちで暮らすべきよ。うちに来るなら私の執事として雇ってあげてもいいのよ?」


「なんでそんなに俺を家に入れたがるんだよ?」


「そ、それは……ほら、アンタみたいなのでも一応はパーティの仲間だからね。その辺で餓死でもされたら困るじゃない?」


 ライゼはなぜか手をバタバタと振り回して、たどたどしく説明をした。


 ……どっちにしろ、冒険者にはもう戻れないということか。強くなるって決めて、せっかく順調に進んできたのに。

 でも、ダンみたいなやつに迎合もしたくない。名誉のためだと割り切ろう。


「うわあああああああああああ!!」


 その時のことだ。近くで叫び声がした。


「なんだ!?」


 俺たちは声がした方に走っていく。

 その先にいたのは、地面に座り込んでいる強面の冒険者。


「どうしたの!?」


「あ、あれ……」


 冒険者は腰を抜かしたまま、ある方向を指さした。俺たちもその先を視線で追う。


 そして驚愕した。その先にいたのは、ギルドの建物よりも背の高い人型のモンスターだったのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る