第23話 戻ってこないか?
「あいよ! 珠玉の逸品、修理完了だぜっ!」
イレーナに剣を預けてから約束の3日。彼女は自信たっぷりの表情で俺に完成品を差し出してきた。
「ありがとう! 相変わらずいい出来だ!」
「あたぼうよ! なんてったってあたしの自信作だからな!」
銀色の剣身は光を浴びて白金色に輝きを放っている。預ける前より軽くなっているような気がする。
「アルクスみたいなすっとこどっこいが使っても壊れないように、しっかり強度を上げておいたぞ! ついでに軽量化もしておいた!」
「すごいな、この三日でそこまで?」
「
イレーナは腕を組むと、えっへんとばかりに胸を張った。このポーズがカッコいいと思っているんだろう。
喋り方やテンションの激しさなどの取っつきにくいところを除けば、本当に頼りになる。
俺はイレーナから剣を受け取って代金を払うと、店の外へ出た。
扉をくぐるなり、なんだか嫌な気配が俺を襲う。誰かが俺のことを見ているような、そんな感覚だ。
「……よお、アルクス」
声がした方を見ると、壁にもたれかかって俺を見ていたのはダンだった。
俺に蹴られた部分はすっかり治っているようで、相変わらず俺のことを飢えた獣のような目で睨みつけている。
「何か用か?」
「そう警戒するなよ。俺はお前と話しに来ただけだ」
「俺はもう、お前には何も言うことはないけどな」
皮肉を言ってやると、ダンは下唇を噛んでわかりやすく苛立つ。しかし、俺に勝てないことがわかっているため、舌打ちして怒りを抑え込んでいる。
「まあいい。お前に提案があるんだ」
「一応聞いておこう」
「
意外だった。俺をこれまで雑魚呼ばわりしてきた ダンが、一転して俺に戻ってこいと言っているのだ。
「それはなんでだ? お前は俺を追放しただろ?」
「事情が変わったんだよ。とにかく戻ってこい、待遇は以前とは比べ物にならないほどよくしてやる」
そんなこと言われても、前に所属していた時は日銭を稼ぐのがギリギリくらいだったしなあ。独立した今ではその頃の何十倍も稼ぐことができるし。
「それに、パーティには美女がいる。知っていると思うが、うちのパーティに入りたいっていう女は多くてな、定期的にメンバーを交換しているんだ。お前もそいつらを自由にしてくれていい」
相変わらずのゲスっぷりだな。もうツッコむ気力すら失せてくる。
「そうだ、ライゼはもうパーティにいないぞ! お前、あいつに邪険にされてたよな。安心しろ、パーティにはお前に媚びるような女しか残っていない」
「……ライゼを追放したのか!?」
「おっ、食いついてきたな。そうだ、あいつは愛想が悪かったから追い出してやったよ。自分が可愛いとでも思ってんのかなあ、マジでくだらねえ」
食いついたわけじゃない。呆れているんだ。ダンの浅はかさに。
自分に都合がいいかどうかで相手を品定めし、いらないと判断した瞬間に即斬り捨てる。そういうやり方が俺は気に入らないのだ。
「やっぱり無理だ。どうしてもお前のことは好きになれない」
「……おいおい、冗談だろ? お前のことを無能呼ばわりしたのは悪かった。でも悪くない話じゃねえか。逆に何が不満なんだ? 金か? 女か?」
「お前のその態度だよ!!」
激しい拒絶。こんなに強い言い方をしたのは久しぶりかもしれない。
ダンは俺に心変わりが見込めないとわかると、チッと舌打ちをした。
「最後通告だ。アルクス、戻ってこい。さもないとこの街で暮らせなくなるぞ」
「構わない。お前みたいなクズの仲間に堕ちるくらいだったら、俺はスライム野郎の方がマシさ」
「ああそうか。後悔するなよ」
ダンは俺の答えを聞くと、背を向けて歩いて行った。
ふざけたやつだ。もう二度と現れないでほしいな。
……さて、本当ならこのまま灰のダンジョンに行ってしまおうかと思っていたが、気が変わった。
ダンジョンに行く前に、寄りたいところができた。まずはそこに行こう。
「……とはいえ、本当にいるかなあ。でも家の場所とか知らないし」
やってきた場所はギルド。中に入るなり、俺は辺りをキョロキョロと見回した。
「……いた!」
俺は探していた人物を見つけると、その人が座っている席に駆け寄った。
「ちょっと相席いいかな?」
「……何しに来たのよ」
不機嫌そうな表情でドリンクを飲み、肘をついたまま俺を睨みつける少女。
探していた人物とはライゼのことだった。
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