第24話 ライゼとダンジョン

「何しに来たの? うるさいからあっち行ってくれない?」


「ダンに追放されたんだろ?」


 俺は席に着くや否や、さっそく本題を切り出した。


「……なに。笑いにきたの? そうよ、追放されたわ」


「じゃあ今からダンジョンに潜らないか?」


 ライゼは目を丸くする。


「ダンジョン? アンタ本気で言ってるの? そもそも、アンタはダンのパーティに入ったんじゃ?」


「断ったよ。どうせ俺一人でも今から行くから、せっかくだから一緒に行った方がレベルアップの効率もよくなるかなって」


「レベルアップの効率ねえ……」


 ライゼはコップに刺さったストローに口をつける。中に入ったオレンジジュースを飲み干すと、席を立った。


「仕方ないわね、一回だけ。言っておくけどアンタとパーティを組みたいからとかじゃなくて、アンタが言うようにレベルアップの効率が良くなるっていうだけの理由だから」


「わかってるよ。じゃあ行こう」


 俺とライゼは灰のダンジョンへと向かった。



「……ところで、アンタのスキルは何なの? 監視に向いてるスキルとは聞いていたけど、戦闘向けではないんじゃない?」


 ダンジョンの入口に差し掛かったところで、ライゼが聞いてきた。


「確かに戦闘向けじゃないかもね。俺のスキルは<スライム>って言って……ちょうどいい、あのモンスターで実戦をしてみよう」


 ダンジョン1層。最初に遭遇したモンスターはソードリザード。どこから手に入れたのかわからない短剣を握りしめた、人型のトカゲだ。強さはワーウルフと同じくらい。


「まずは『スライムテイマー』を発動してスライムを出現させる」


 スキルを発動すると、肩にスライムが出現した。


「そして、『スライムメーカー』の効果を使ってスライムを鑑定スライムに変化させる!」


 白い光に包まれて、眼鏡のスライムが登場する。驚くのはまだ早い。


「さらに鑑定スライムの<鑑定>スキル発動!」


 ソードリザードの情報を読み取り、弱点を発見。すかさず剣を引き抜いて一閃した。


「うおおおおおおおおおおお!!」


 ズバッと音が鳴り、ソードリザードに袈裟斬りが炸裂する。ソードリザードを倒した。


「……とまあこんな感じ」


「どうなってるの? スキルを二個使ったり、そもそもスキルの能力が二つあるなんて聞いたことない!」


 まあ、そうなるよね。でも、その反応はもうメイラさんで見た。


「さてと、<収納>!」


 ソードリザードの皮をはぎ取ると、収納スライムを出してサクッと収納しておいた。


「嘘、スキル三つ目……? 信じられない……」


 インベントリにアイテムを収納すると、俺は呆然としているライゼの方を見た。


「さて、じゃあ次はライゼのスキルを見せてよ。ライゼのは戦闘向けのスキルだったりするのかな?」


「……ええ、そうよ。でもアンタのスキルを見た後だと正直やりづらいけどね」


「ビビビビビビ!!!」


 次に俺たちの方へ向かってきたのは、キラーホーネットの群れ。名前の通り蜂のモンスターだが、とにかくデカい。体長は小型犬くらいある。

 飛来してきているのは4体。一体の強さは大したことないが、複数体ともなると厄介だ。


「手伝おうか?」


「馬鹿にしないで。あんなの私一人で楽勝よ」


 そう言ってライゼは右手を胸の前で掲げた。


「私のスキルは<四大元素>。効果は、火・水・風・土の四つの属性魔法を操ることができる!」


 ライゼの手のひらの前に、四つの魔法陣が現れた。

 全てを焼き尽くすようなザクロ色、透き通った海面のような濃い青色、光を受けた若葉のようなエメラルド色、大地の大きさを体現したような茶色。


「はあっ!」


 ライゼが力を込めると、四色の魔法陣からそれぞれの属性の魔法攻撃が放たれる。

 キラーホーネットはそれぞれ炎に焼き尽くされ、氷漬けにされ、風に切り裂かれ、土の塊に粉砕された。


「ざっとこんなものかしら」


「すごい! 四つも魔法を使えるなんて!」


 普通、1人が使える魔法属性は1つだ。それを4つも使えるなんて、当たりスキルもいいところだ。


「すごいとか言うな! そもそも、アンタのスキルに比べてたら私なんて――」


「でも、魔法を四つ使えるってことは熟練するまでにたくさん努力したんでしょ? 俺にはできないよ」


 ライゼはなぜか俺から視線をそらした。暗くてよくわからないが、耳がちょっと赤い気がする。気のせいかな?


「馬鹿なこと言ってないで、先に進むわよ!」


 また怒ってる。俺、なんか悪いこと言ったかなあ。


「いい? ダンジョンは迷子になったら最期よ。それに、階段を探しながら歩くんだから、一層攻略するのもなかなか時間がかかるわ」


「じゃあ、スライムたちを使おうか」


「え?」


 俺はスキルを発動して20匹のスライムたちを出現させる。わざわざ二人で歩き回るより、大人数で探した方が楽だ。


「ほら、こうしたほうが早いだろ?」


「おかしい!! 絶対におかしい!!」


そんなにおかしいことしてるかなあ。俺からすれば普通の感覚なんだけど。

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