第20話 ダンとの衝突
「てやんでい! なんてことしてくれたんだこのべらぼうめっ!」
「ごめんなさーーーい!!」
俺は今、膨れっ面のイレーナに全身全霊で謝罪をしている。理由はもちろん、剣をへし折ったことについてだ。
どうやらゴーレムとの戦いのときに無理やり扱ってしまったことがきっかけだったらしい。確かに、命がけの戦いだったこともあってとんでもない使い方をしていた気がする。
「まったく……このすっとこどっこいめ! しっかりしてくれよな!」
さっきまでお店に響き渡る声で怒っていたイレーナだったが、ようやく落ち着いてくれたようだ。腕を組んでプンプンと鼻息を荒くしている。
「……とはいえ、すぐに壊れるようなものを作っちまったのはあたしの責任だ! アルクスは悪くねえ!」
怒ったかと思えば、今度は手を合わせて謝ってきた。職人というのはよくわからないなあ。
「直りそうかな?」
「あたぼうよ! ……ただ、すまねえ! 三日だけ時間をくれ!!」
イレーナは指を三本立てた。それだけあれば治せるということだ。
「わかった。お金はちゃんと払うから、よろしくね」
「がってん承知! 次は絶対折れないような剣に強化するから、待っててくれ!」
イレーナはそう言うと、剣を抱えて走り出した。すぐに取り掛かってくれるらしい。心強いな。
用事も済んだところで、武具専門店を後にすることにした。入口の扉を開けて外に出る。
「「あっ」」
すると、ちょうどそこに通りかかった少女と目が合った。俺はその子に見覚えがある。
名前は確かライゼ。俺の代わりにダンのパーティに入った子だ。彼女を見るのは三回目。
うっ、気まずい。今さら無視するわけにもいかないし、一応声をかけておこうか。
「どうも、パーティのみんなとはうまくやってるか……?」
我ながら意味がわからない話題を選んでしまった。
「あなた、アルクスよね?」
「そうだけど、俺の名前を知ってるのか?」
「ええ。ダンが言ってたわ、あなたは相当な無能だって」
知ってる。パーティに入っていた時は毎日言われていたからな。初めて会話する相手に言われるとちょっとへこむけど。
「……なによ、その目は」
「え?」
「なんなのよその目はって言ってるのよ。無能とか雑魚とか言われて、悔しくないの?」
ライゼは強い口調でそう言った。なんでこの子は俺に対して当たりが強いんだ?
「私ね、向上心がない人間が大嫌いなの。ついでに弱い人間も。あなたは負けすぎて負けなれてるのよ。だから無能呼ばわりされても平気な顔してるの」
すぐにその理由はわかった。どうやらライゼにとって俺は嫌いな人間に分類されるらしい。
彼女から見れば、俺は雑魚で、負け犬に見えるんだろう。ダンに馬鹿にされてへらへらしている奴だと。
でも、それは違う。
「俺だって悔しくて成長したんだ。いつまでも無能なスライム野郎じゃないさ」
「……あっそ」
ライゼは意外そうな顔をして俺を見た後、プイッとそっぽを向いてしまった。
「おいライゼ! ここにいたのか!」
横に並んで歩く俺たちを呼び止める声。聞き覚えのある男の低い声に、嫌な予感がした。
ちらっと横目をすると、ライゼも俺と同じように狼狽えているように見えた。悟られないように視線を動かし、チッと舌打ちをする。
「探したぞ。お前、この俺に手間をかけさせるとどうなるか……」
やはり。ライゼを呼び止めていたのはダンだ。彼は強引にライゼの肩を掴もうとして、俺の存在に気が付いた。
「……アルクス?」
俺のことを見た瞬間、ダンの顔が怒りで歪んだのが見えた。綺麗に手入れされている顔を台無しにするように、彼の眉間にしわが寄った。
「おい、なんでお前がライゼと一緒にいるんだ。誰に許可を取ってやがる?」
「許可とかいらないだろ。それに、ライゼとはたまたま会っただけだよ」
「……まあいい。おいライゼ、帰るぞ。この前のクエストの件でお前には言いたいことがたくさんあるんだ」
ダンは物をくすねるようにして、強引にライゼの手を取った。途端、ライゼの表情が怒りに満ちる。
「触らないで!」
パチンッ!
高い音が鳴った。ライゼがダンの手を引っ叩いたのだ。
「……てめえ」
ダンが一段と低い声を出す。まずい、この後ダンが何をするのかはなんとなく予想が付く。
「女の分際で調子に乗ってるんじゃねえよ!!」
刹那、ライゼの整った顔に平手が炸裂する。ライゼは勢いよく地面に尻餅をつく。
怒ったダンはすぐに手を出す。特に相手が女性の場合は。
「何もできない無能のくせに、俺に反抗していいわけねえだろ? 次はないって言ったよな?」
ダンは倒れているライゼに追撃を加えるためににじり寄っていく。俺は慌てて間に入った。
「……おいアルクス。どけ。殺されたくなかったらな」
「やめろ。その子に手を出すな」
「嫌だと言ったらどうする?」
「……俺が止める」
俺の答えを聞いて、ダンの怒りの段階がさらに引き上げられるのを感じる。
肌を突き刺すような空気。これは殺意だ。
「……お前、よほど死にたいみたいだな」
一触即発。今の状況を表すならその言葉より適切なものはない。
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