第19話 ダンジョンに行ってきましたよ
街に帰った俺は、いつものようにギルドへやってきた。目的はもちろん、アイテムを換金してもらうためだ。
「あれ、アル君お疲れ様。今上がり?」
「はい、シエラさんこそお疲れ様です」
シエラさんはテーブルを拭いていた。彼女のすらっとしたプロポーションは、何をしていても美しく映えて見える。
「今日は何のクエストをやってきたの? ゴブリン討伐とか?」
「いえ、ダンジョンに行ってきました」
言った瞬間、余計なことをしたと思った。シエラさんの動きが氷のように固まると、いきなり俺の肩を掴んできた。
「何してんのおおおおお!? 怪我は!? 怪我はない!? まさか死んじゃったなんてことは!?」
「ないですから落ち着いてください! そもそも、死んでたらここまでこれませんから!」
「そっかあ、よかった……」
シエラさんは安堵の声を漏らした後、俺のことを抱きしめてきた。
この人何やってんの!?
体が密着する。シエラさんの細い腕が俺の腰に巻き付いている。同時に、柔らかい感覚が襲ってくる。
「ダンジョンは行っちゃ駄目って言ったのに! どうしてそんなことしたの!」
「あはは……ごめんなさい」
「馬鹿。反省しなさい」
シエラさんは俺のおでこにデコピンをした。ちょっとむすっとした表情になった後、いつもの受付まで歩き出す。
「本当に焦ったんだから。もう無茶はしないでね?」
別に無茶をしているわけじゃないんだけど。シエラさんは俺が強くなったことを全然信じてくれないから、危険な賭けをしているように見えるんだろう。
シエラさんはカウンターを挟んで向こうの席に座ると、本題を切り出した。
「ダンジョンに潜ったってことは、クエストの達成報告はなしで、アイテムを納品しに来たのかな?」
「はい。今回はちょっと大きいですけど」
「大きい? 見た感じそこまでかさばるものはなさそうだけど」
「いえ、ここに入ってます」
俺は肩に収納スライムを生成する。すると、空間に真っ黒な穴が空き、中から回収したアイテムたちが雪崩のように落ちてくる。
中にはバランスボール級の大きさのアイアンハートも入っている。床に落ちた瞬間、ドン、という嫌な音がした。
「ちょ、ちょっと待って!?」
あ、しまった。こんな感じでアイテムが出てくるのか。こんな大きいもの落としたら床が抜けちゃうな。
「どうしてアル君が<収納>を使ってるの!? まさかマジックアイテム!?」
「いえ、違います。新しく覚えました」
「おかしいおかしい! それにこのアイアンハート、かなり熟練しないと手に入らないアイテムだよ!?」
もはやパニック状態のシエラさん。
これはそろそろ、しっかり説明するしかないな。これだけの証拠を目の前にすれば、シエラさんもさすがに信じてくれるはず。
「シエラさん、これから話すこと、信じてほしいんですが……」
俺はこれまでの出来事の顛末をシエラさんに話した。
<スライム>が経験値の効率を上げるスキルだったこと。そして異常なペースでスキルが進化していったこと。レベルがたった数日で4から17まで上がったこと。
シエラさんは真剣に俺の話を聞いてくれた。最後まで聞いたところで、深くうなずく。
「……なるほど。にわかには信じがたいけど、ありえない話ではないのかも」
「何がそんなに引っかかってるんですか?」
「正直に言うと全部おかしいけど……そもそも、スキルって進化しないのよ、普通は」
俺も自分のスキルが進化するまではそう思っていた。現に、ダンが持っている<剛腕>やスライムたちも覚えている<収納>などが変化したという話はない。
例えば、<剛腕>の場合は筋力を50%アップさせると決まっているし、<収納>にはインベントリの大きさに多少の個体差はあれど、生まれてから死ぬまで数値は一定。
レベルアップと同時に筋力が100%アップになったり、収納できるアイテムの数が増えることはありえない。
「それに、レベルが3日で11も上がったって言うのがもう……そんなのギルドどころか世界記録だよ……」
「信じてもらえないですかね?」
「……ううん。信じるよ。アル君は前からただ者じゃないって感じしてたから。今になって腑に落ちてきたところ」
シエラさんはため息をついて『まったく規格外すぎるよ……』と独り言をつぶやいた。それでも彼女は信じてくれるらしい。
「アル君が強くなったのはわかった。でも、だからと言って無茶はしちゃ駄目だよ?」
「わかりました、約束します」
「はい、オッケー。じゃあそのアイテムを換金するから、運ぶの手伝って」
シエラさんは俺への態度を変えることはない。弱かったころから一貫して優しくて、信頼してくれている。
打ち明けてよかった。これからはスキルのことについてシエラさんに相談できるかもしれないな。
二人でアイアンハートを運ぶために立ち上がったその時、シエラさんが俺の腰に着目する。
「ねえアル君、その剣は新しく買ったの?」
「そうなんです。これが結構いい剣で――」
ピキィッ!!
柄から剣を引き抜いた瞬間のことだ。剣身から嫌な音がして、ひびが入った。
「「あっ!」」
気づいたときにはもう遅かった。剣は根元からポッキリ折れ、床に突き刺さってしまった。
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