第16話 危機との遭遇
歩くこと30分。俺は3層にたどり着いていた。
「なんか、意外と大したことなかったな……」
2層は1層と比べて、確かにモンスターは強くなっていた。しかし、正直言って拍子抜けしたというのが俺の感想だ。
スライムの索敵でモンスターを発見し、俺とスライムたちでモンスターを一斉に倒す。このやり方を忠実に守っていれば、まず負けることがなかった。
ダンジョンでは情報不足が命取りだ。迷子になっているうちにモンスターに囲まれて冒険者が死んだ、というのは俺でも知っているくらい有名な話だ。
逆を言ってしまえば、周囲の状況がわかっていれば、それは大きなアドバンテージとなる。
純粋な戦闘能力でいえば、俺が負けることはない。ダンジョン攻略は盤石な状態で進んでいた。
「さてと、レベルは今のところ……」
――
アルクス・セイラント 17歳 男
レベル14
スキル
<スライム>
『スライムテイマー』……レベル4のスライムを発生させることができる。最大15匹。
――
道中でモンスターを倒していたらレベルが上がったのを加えて、今の俺のレベルは14。
『スライムテイマー』の能力が強化されて、スライムたちのレベルが4になった。1層のモンスターくらいなら1対1でも戦えるんじゃないだろうか。
とりあえずは順調。このまま危なげなく進めば、4層どころか5層まで行けるんじゃないだろうか。なんだかワクワクしてきたな――
ドガアアアアアアアアアアアアア!!
その瞬間だった。フロア全体が大きく揺れた。地震でも起きたのかと思ったが、違う。小刻みな振動が波のように起こっている。
これはまるで――巨大な何かが歩いているようだ。
「ピギーーーーーッ!?」
スライムの鳴き声が聞こえてくる。これは敵発見の合図だ。ということは……やはりそういうことか!?
「全員集合! 警戒するんだ!」
俺は急いで声を上げたスライムの方へ走った。
「な、なんだこれ!?」
角を曲がってスライムがいるところにたどり着いて、俺は唖然とした。
それは一瞬壁のように見えた。目の前に立ちふさがる茶色の壁。しかし、実際はそうではない。これはモンスターだ。
ゴーレム。3メートルほどの、体が岩石でできた巨人。泥団子に手足をはやしたようなずんぐりとした体形だが、それが放つ一撃は決して侮ってはいけない。
こいつは5~7層のあたりにいるようなモンスターだと聞いた。俺がいるのはまだ3層だぞ? どうしてこんなところにいるんだ!?
もちろん、そんなことをゴーレムが答えてくれるわけではない。現実は時に無慈悲だ。
「ゴオオオオオオオオオ!!」
「みんな避けろ!」
無機質な叫び声と共に、ゴーレムが拳を地面に叩きつける。俺は地面を蹴って瞬発的にゴーレムから距離を取った。
同時に、激しい轟音と振動が俺たちを襲う。
なんだこの力! ほとんど災害みたいなものじゃないか。今まで戦ってきたモンスターの中でも圧倒的すぎる。
控えめに言って、はるかに格上。知能やスキルでどうこうなるレベルじゃない。ゴーレムと俺の間には、越えることができない隔たりがある。
……やれるのか? 俺に。こんなデカいモンスター、倒せるのだろうか。
それももはや意味のない問いだった。ゴーレムは今、災害のように容赦なく俺を襲ってくる。
「……やるしかない!」
だとしたら、俺が逃げるという選択肢はない。あるのは覚悟を決めるというシンプルな答えのみ。
逃げてばかりの人生はもう嫌だと誓ったじゃないか!
「うおおおおおおおおお!!」
突進。俺は剣を引き抜いて、自分の背丈の倍もあるようなゴーレムに飛び掛かった。
剣とゴーレムの体がぶつかった瞬間、キン、という高い金属音が鳴った。
さすがに硬い。俺の力じゃ傷一つつけられないな。
「ゴオオオオオオオオオ!!」
再び、ゴーレムの拳が俺に向かって振り下ろされる。間一髪で回避するが、拳が接地した後には大きなクレーターができていた。
「マズい、これはいくらなんでも……」
その時、俺の脇腹に何かがぶつかるような感覚があった。俺の体は真横に向かって吹っ飛ばされる。
「いたたた、何が起こったんだ……?」
起き上がってさっき立っていた場所を見る。そして、全身に鳥肌が立った。
俺が立っていたその場所には、ゴーレムの拳が落ちていたのだ。
ゴーレムの拳がゆっくりと上がっていく。その下敷きとなっていたのは、一匹のスライムだった。
まさか、俺を庇って自分が潰されたのか!? 明日になれば再生できるとはいえ、なんて無茶なことをするんだ!
「キュキュキュ!!」
その時、俺の周りにスライムがいなくなっていることに気が付いた。視界を共有してみると、スライムたちは一か所に集まって何かをしている。
スライムたちは3層のモンスターと戦っていたのだ。ゴーレムに襲われているのに何を、と思ったが、答えは一つしかない。
レベルを上げるためだ。
この土壇場で俺のレベルを上げて、<スライム>の能力が強化されることを狙っているのだ。当然だが、その確率はかなり低く、藁にも縋るようなレベルだろう。
しかし、スライムたちはその藁を掴もうと必死で頑張っている。俺を勝たせようとしてくれているのだ。
弱気になっていた自分が恥ずかしい。俺はこんなに期待されていたのか。
だったら、何があっても負けるわけにはいかない。ここで終わるなんてごめんだ。
その時、スライムたちがモンスターを倒した。同時に、脳裏に聞きなれた声が響く。
――
レベルが15になりました。
<スライム>に能力が追加されました。
――
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