第15話 進化したスキル

 慌ててスキルの内容に目を通した。すると、少しずつ意味が理解できてくる。


 今までは自分自身がスライムに『擬態』して、『分裂』することで16匹のスライムに数を増やしていた。

 しかし、『スライムテイマー』はそうではない。俺がスライムになるという言葉はどこにも書いていない。


「もしかして、今までは俺がスライムにならないと16体になれなかったけど、俺が人間の状態でもスライムを出せるようになったのか!?」


 俺はひとまずそう結論付けた。

 だとしたら、この能力は大きな進歩と言える。今までは経験値を考慮して弱いスライムの状態で戦っていたけど、これからはそんなことは気にせず人間の姿で戦える。


 そのことに気づいた瞬間、全身に高揚感が駆け巡るような感覚が俺を襲った。


「待て待て、俺の早とちりかもしれないぞ」


 物は試しだ。本当に人間の姿のままスライムを出せるかやってみないと。


「出てこい! スライムッ!」


 そう宣言した瞬間、砂の城が壊れるのを逆再生したかのようにして、俺の足元で光の粒がスライムを形成していく。

 数秒もしないうちに、俺の周りには15匹のスライムたちが現れた。


 ――成功だ。


「よしっ! よしっ!」


 嬉しくてガッツポーズが止まらない。足元のスライムたちはキューキューと鳴いて俺と一緒に喜びを分かち合ってくれた。

 今までは俺もスライムの姿だったから気づかなかったけど、スライムってよく見ると可愛いな!


 ちなみに俺自身がスライムになる力は残ってるのかな。えいっ!


キュキュできた!」


 一応スライムにも成れるようだ。


 さて、次の問題は、経験値効率のアップが『スライムテイマー』にも適用されるのかということだ。

 これで効率アップが解除されていたらたまったもんじゃない。まだ安心できないぞ。


「グルルルル……!!」


 その時、道の先から4体のウェアウルフが歩いてきた。さっき倒した個体の仲間だろうか。

 いきなり4体は厳しそうに見えるが、意外とそんなことはない。ウェアウルフはスライムでも充分倒せる程度の強さだ!


「ちょうどいい! まずはあのモンスターで試してみよう!」


「キュッ!」


 俺が率いるスライム軍と、ウェアウルフたちの両軍は一気に走ってぶつかり合った。戦いの幕が切って落とされる。


「はあっ!」


 イレーナから買った剣を振りあげ、ウェアウルフの肩に向かって一気に振り下ろす。


「ガアアアア!!」


 ウェアウルフの腕が宙を舞い、地面に落ちた。かなりいいダメージが入ったらしい。

 ちょっと不安だったけど、イレーナの作った武器はかなりいい逸品のようだ。軽いのに高い切れ味と威力を持っている。

 ありがとうイレーナと内心で思うと、彼女の『あたぼうよ!』という返事が幻聴となって脳内に鳴り響いた。


「キュキュッ!」


 スライムたちはウェアウルフの攻撃をたくみに躱しながら、タックルを食らわせて体勢を崩している。

 ウェアウルフたちは4体ともスライムに夢中だ。それはつまり、隙だらけということを意味している。


「そこだッ!」


 タイミングを見計らい、剣で横一閃。気持ちがいいほどに刃がよく通り、ウェアウルフの胴体が真っ二つに切り裂かれた。


「うおおおおおお!!」


 モンスターを一匹斬り伏せてからの、連撃。水切り石のように地面を跳ねて剣を振るう俺に、ウェアウルフは追いつくことができない。

 一瞬の間だった。残った3体のウェアウルフたちも間髪を入れない俺の攻撃に倒された。


「キューキュー!」


 スライムたちが勝利を喜んでいる。俺は剣を腰に差して、一息ついた。


――


 レベルが13になりました。


――


 そして、検証の結果が出た。


 どうやらスキルの進化によって経験値の効率化が落ちたということもないらしい。これで安心してレベル上げに打ち込めるぞ。


 俺はウェアウルフから毛皮をはぎ取って、その場を後にした。


 ダンジョンはその名の通り迷路になっていて、ところどころ狭くなっていたり、広くなっていたり、一本道になっていたり、行き止まりだったりとバリエーションに富んでいる。

 そして、なんと言っても定期的に構造が変わるというのが一番の特徴だ。

 おかげで冒険者たちはダンジョンに来るたびに迷路に苦しめられるというわけだった。


 ……が、俺に限ってはそんなこともなかった。


 スライムを15体、ダンジョンの全体に放った。2層へ進む階段があったら報告するようにと伝えてある。


 こういう仕事は前のパーティの頃にも唯一重宝されていた。スライムという『目』を放つことができるのは状況の把握に便利だ。

 前と違うのは、俺が人間の姿のまま動けるということ。これでうっかり潰されることもない。


「ピギギーー!!」


 お、分身の一匹から連絡だ。あの鳴き声は階段を見つけたという合図のはず。

 該当のスライムの視界を共有してみると、確かに目の前に階段がある。お手柄だ。


「よし、みんな今から階段の方へ……」


「キシャーーーーッッ!!」


 目の前に現れたのはコウモリ型のモンスター。どうやら楽に進ませてくれる気はないらしい。


 遭遇したモンスターを倒しまくって、どんどんレベルを上げてやるぞ。今日は出来れば、4層くらいまで行きたい!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る