第12話 一気に大金持ちになりました。

「大丈夫ですか?」


 気づけば、俺は花畑にいた。

 ピンク、黄色、赤、青。色とりどりの花が辺り一面に綺麗に咲いている。


 そんな花畑の真ん中で、俺は寝ころんでいた。傍らには一人の少女が立っていた。

 目が隠れそうなくらい伸びた銀色の前髪。ダイヤモンドのように透き通った輝きを放つ水色の目。白いワンピースを着た少女が俺を見下ろしていた。


「君は誰?」


「やだなあ、忘れちゃったんですか? ……と言っても仕方ありませんね、あなたと会うのはずいぶん久しぶりですから。私はノア」


 少女は儚げな笑顔を浮かべながら、俺に自己紹介をしてきた。どうやら彼女と俺は知り合いだったらしい。


「アルクスさん、なんだか浮かない顔をしていますけど、どうかしたんですか?」


「……負けたんだ。喧嘩で。絶対に見返すって誓ったのに」


 悔しかった。レベルが上がって一喜一憂していた自分が腹立たしい。

 確かに仲間を盾にしたダンは最低だ。でも、それを加味しても勝てるくらいの実力をつけることができなかった俺にも問題はある。


「……アルクスさんはこれからどうするんですか?」


「今回の敗北で、自分の弱点はわかったんだ。スライムの姿だけじゃなくて、人間の俺も強くならないといけない。そのためにも、何か対策を練らないと……」


 そこまで言って、冷静になった。俺はなんでノアにこんなことを話しているんだろう。

 俺の心配とは裏腹に、ノアは優しい表情で俺のことをじっと見つめ、話を傾聴していた。

 なんでだろう。この子に話を聞いてもらうと妙に安心する。気持ちが落ち着くのを感じる。


「アルクスさんはこれからも頑張るのですね。でしたら、私は陰ながら応援させていただきます」


「そっか、ありがとう」


「困ったらいつでも私を頼ってくださいね。私はいつでもここにいますから」


 そもそもここ、どこなんだ? 俺はさっきまでギルドにいたような気がするんだが?


「さて、そろそろ時間です。アルクスさんを呼んでいる人がいますよ?」


 その時だった。どこからともなく声が聞こえてくる。


「……アル君! 起きてアル君!」


 シエラさんの声だ! それと同時に、俺の意識が少しずつ薄れていく。

 この花畑はいったい何なんだ。ノアに聞きたいことはあったが、俺はもう立てなくなっていた。

 最後に見たのは、ノアが笑顔で手を振り、俺を送り出している姿だった。



「アル君、起きてーーーッ!!」


「はいッッ!!」


 目をパチッと開いた。すぐに起き上がろうとしたその時、目の前にシエラさんの顔が!


「「うわっ!!」」


 俺とシエラさんは同時に体をのけ反らせ、なんとか顔をぶつけずに済んだ。

 どうやら俺はシエラさんに膝枕されていたらしい。そこで彼女が俺の顔を覗き込んでいたから、危うく顔をぶつけるところだった。

 あと少しタイミングがずれていたら唇が――なんて、馬鹿なことを考えそうになったので、首を横に振って邪念を振り払う。


「ここってギルド――ですよね?」


「うん。もう営業時間が終わったけど、ギルドの空き部屋だよ」


 なるほど、話が見えてきた。俺は気絶した後、この部屋に担ぎ込まれて寝かされていたらしい。


「アル君、どこも痛くない? ビックリしたんだから、私が帰ってきたらカウンターの前で倒れてて」


 それは本当にご心配をおかけしました。シエラさんが驚いている姿は容易に想像できてしまうな。


「起きてすぐでなんだけどね、そろそろギルドの建物がしまっちゃうの。もうそろそろ22時だから。というわけで、これ」


 シエラさんは俺に巾着袋を手渡した。手に持った瞬間、ジャリと大きな音がして、手に重みが伝わってきた。


 慌てて袋の中を空ける。中には大量の金貨が入っていた。思わず手が震えてしまう。


「え、こんなにですか!?」


「そりゃノルマ分も含めて73個も納品したらそうなるでしょ。ちゃんと大事に使うんだよ?」


 昨日の報酬は食事代と宿代くらいしか手を付けていない。仮に今晩宿と食事でお金を使ったとしても、相当な額が残るはずだ。

 これだけお金があれば、いい装備品が買えるんじゃないだろうか。

 強くなるためには、それに見合った投資が必要だ。そして、俺はそうするだけに充分な額を持っている。


 ……買うか、装備品。


「さ、今日はもう遅いから宿屋に帰った帰った。私ももう眠いよ~」


 大きくあくびをするシエラさん。俺は巾着袋を懐に入れると、身支度を整えた。


「シエラさん、最後に一つ聞きたいんですけど……レベル11くらいの冒険者って、どんな場所でクエストを受けるのがいいですか?」


 突然の質問に首をかしげながらも、シエラさんはうーんと唸って考えてくれた。


「単純にレベル上げなら、クエストっていうよりダンジョンに行くんじゃないかな。ダンジョンは奥に行けば行くほどモンスターのレベルが上がるし、中級者以上はそっちに行くことが多いかも」


 なるほど、ついに来たかダンジョン。

 草原エリアのゴブリンを倒していても、そろそろレベル上げにも限界が来るだろう。モンスターとの戦いも、難易度を上げていかないといけない。


 次の目標はダンジョンだ。装備をそろえて、挑戦してみよう。


「あ、言っておくけどアル君にはまだ早いからね? せめてレベルが7くらいになってからにしなさい」


 どうやら俺がレベルアップしたことは信じてもらえていないらしい。


「そういえば! アル君、気を失ってた時に『ノア』『ノア』ってずっと言ってたけど……ノアって誰のことかしら?」


 シエラさんの目が鋭く光った。俺の背筋が一瞬のうちに凍り付く。

 なんで俺が睨まれてるんだ!? ノアのことは俺だって知りたいんですけどね!!

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