第11話 ダンとの再会
「えええええええ!? ゴブリンの皮をこんなに持ってきちゃったの!?」
ギルドの受付で、シエラさんが大声で叫んだ。俺は慌てて口に人差し指を当てる。
「シエラさん、大きな声出さないでくださいよ! 目を付けられると面倒だから!」
「アル君のことだからダンのことを警戒してるんでしょ?
シエラさんは巾着袋の口を開けて俺に見せてくる。中にはこれでもかと言うほど大量のゴブリンの皮が入っていた。
そりゃ驚くに決まってるよな。最初に発見した時は俺も驚いたんだから。ゴブリンの皮85個なんて。
「絶対おかしい! 最近のアル君は明らかに変わりすぎてるよ!」
それは俺にも自覚がある。<スライム>の隠された能力に気が付いてから、俺の成長の仕方は異常だった。
なんせ、二日でレベルが4から11だ。普通の冒険者じゃまずありえない。ひょっとしたら最速記録を更新してしまったかもしれないというレベルだ。
「……まあ、いいことだから私も嬉しいんだけどね。とにかく、これは今から換金してきます」
シエラさんは巾着袋の口を閉じると、ゴブリンの皮がパンパンに詰まった袋を持って奥の部屋へと行った。
さて、今日の報酬はいくらくらいになるのかな。昨日より高くなることは間違いない。何を食べようか今から楽しみだ。
「……アルクスか?」
その時、俺の背後で機嫌が悪そうな声が聞こえた。聞き覚えがある。これはまさか――。
「ダン?」
やはり、声の主はダンだった。まるで猛禽が獲物を狙うような目で俺のことを睨みつけている。彼の後ろにはパーティメンバーの女性が立っている。もしかしてクエスト帰りか?
「あれ、でもクエストから帰るのは明日なんじゃ――」
「なんでてめえが俺のクエストのことを把握してるんだよ。ストーカーか?」
あ、余計なことを言ったっぽい。
でも、明日戻ってくるはずだというシエラさんの情報は確かだったようだ。何かトラブルでも起こったのかな?
「っていうかよ、なんでお前がまだ冒険者なんかやってんだよ、スライム野郎」
始まった。ダンはゲスな笑いを浮かべて俺を罵ってくる。
ダンは家柄がいいため、身なりが綺麗で、顔だちも整っている。そんな彼だが、笑うと口元がひどくゆがむ癖がある。人を馬鹿にしているときはいつもこうだ。
「言ったよな? お前みたいな雑魚が冒険者なんか勤まるわけないって。もしかしてアレか? ドブでネズミ捕りでもやってんのか?」
ダンと後ろの女たちが大声で笑った。
ただ一人、俺のことを冷たいまなざしで見ている少女がいる。彼女は俺の代わりに入ってきた新入りの子だ。名前は確かライゼ。
それにしても、いつもの挑発なのに今日はなんだかやけに腹が立つな。
きっと、俺が強くなったからだ。自分が強くなったことは、俺が一番よく知っている。それを馬鹿にされるのはプライドを傷つけられた気持ちになる。
「なんとか言ってみろよ、スライム野郎?」
「……俺だって、冒険者くらいできるに決まってるだろ」
初めて言い返した。普段ならスルーしていたところだけど、やっぱり馬鹿にされるのは腹が立つ。
「なんだよ、お前雑魚の分際で俺に口答えするのか? 調子に乗ってんじゃねえよ!!」
俺が反論したのがよほど癪に障ったのか、ダンは拳を握りしめて思い切り振り下ろしてきた。
いつもなら一撃で沈められていたけど、今日の俺は一味違う。レベルは11になった!!
今までは見えなかったパンチが目で追える。体が反応できている。
これなら……いける!
「なにッ!?」
ダンの表情がひきつる。どうやら俺がここまで速い動きをするとは思っていなかったようだ。
「くらえッ!」
俺は拳を握って、溜めをつくってダンに飛び掛かった。右ストレートをお見舞いしてやる!
その時だった。ダンの右腕が不自然に動き、彼の前に何かが現れる。
それは
ダンのやつ、仲間を盾にしたのか!
「馬鹿が! 甘いんだよ!!」
俺が攻撃の手を止めた瞬間、ダンは女を突き飛ばして俺の顔面に右ストレートを打ち込んだ。
視界が揺れる。激しい痛み。天と地がひっくり返るような感覚とともに、俺は地面に倒れた。
「……卑怯だぞ」
「ざまあみろ! 俺に楯突くからこういうことになるんだよ! 雑魚は地面に這いつくばってるのがお似合いだな!」
ダンと取り巻きの女たちの笑い声が聞こえてくる。ああ、俺は負けたのか。
<スライム>の能力で16匹のスライムに『分裂』するか? いや、そんなことをしてもダンに叩き潰されるのがオチだ。ゴブリン相手じゃないんだから、数撃っても意味がない。
ああ、俺は強くなったつもりでいただけで、本当は全然強くはなかったんだ。<スライム>の効果はあくまで経験値が稼ぎやすくなっただけに過ぎない。
本体の俺が強くならないと、ダンには勝てない。なんでそんな簡単なことに気づかなかったんだ。
……なんか頭がボーっとしてきた。スライムを出しすぎたときの感覚と似ている。
気を失うのか、俺。パンチ一発で。また、負けるのか。
もっと強くならないと。満足なんてまだまだしてられないな――。
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