第9話 便利!自動操縦!

 そこからの俺は止まらなかった。12匹のスライムを4匹3つの班に分けて、ゴブリン退治に取り掛かる。12匹同時に操るなんてもう慣れっこだ。


 4匹で連携を取りながら、1匹のゴブリンを倒す。

 1匹でも欠けると経験値の効率が悪くなったり、連携に支障が出たりするので、『いのちだいじに』をモットーに。

 それにしても、あれだけ手ごわかったゴブリンが今は俺に倒されるだけになっている。昨日まで命がけの勝負を挑んでいたのが嘘みたいだ。


 3班がそれぞれ5体ずつゴブリンを倒したところで、いったん作業を中断。もうお昼が近くなっていた。


「ふう、慣れてるとはいえ、12体を同時に動かすのはなかなか疲れるな」


 人間の姿に戻った俺は、近くにあった岩に腰かけた。俺の予想が正しければ、そろそろ……。


――


 レベルが8になりました。


 <スライム>に能力が追加されました。


――


 おっ! きたきた。お楽しみのレベルアップタイムだ!


 俺はすぐさまステータスを開く。嬉しくて疲れが吹っ飛ぶなあ。


――


 アルクス・セイラント 17歳 男

 レベル8


 スキル

 <スライム>

 『擬態』……自身の体をレベル2のスライムに変化させることができる。

 『分裂』……擬態した体を分裂させることができる。最大は12。

 『自動操縦』……分裂したスライムを自動で動かすことができる。


――


 またなんか新しい能力が増えてるぞ!?

 <スライム>3つめの能力は、『自動操縦』というらしい。これは要するに、俺がスライムを操る必要がなくなるということか……?

 だとしたらかなり画期的だぞ! わざわざ俺が動かさなくても勝手に戦ってくれるということじゃないか!


「これはすごいな! さっそくやってみよう!」


 スライムの姿に『擬態』し、12匹に『分裂』! この操作もスムーズだ。


 さて、どんな感じに変わったのかな……? 今のところは何も変化がないように見えるが……。


「キュッ!」


「キュキュッ!」


 違いにはすぐに気が付いた。スライムたちが勝手に鳴いているではないか!

 今までならこんなことはなかった。言ってしまえば人形のようなもので、俺が動かさなければひとりでに動いたり鳴いたりすることはなかった。


 それがどうだろう。俺の分身であるスライムたちは今、一列になって俺の前に並んでいるではないか!


 すごい! これが『自動操縦』の力か! 自分の分身なのに、勝手に動いているのを見るとなんだか可愛く見えてくるな! ペットを飼っている気分だ!


キュみんな、キュキュゴブリンをキュキュキュ倒してきてくれ!」


「キュッ!」


 俺が指示を出すと、さっきの要領でスライムたちが班に分かれてゴブリンを探し始めた。

 おおおおお!! すごいなこいつら! 俺の指示を完璧に理解してるじゃん!!


 ……って、もしかして俺っていらないんじゃ?


 卑屈になっているわけではなくて。分身が勝手に動いてくれるということは、俺がわざわざ操作をしなくてもゴブリン狩りが成立するというわけだ。

 だったら俺は寝ててもよくない?


 分身たちは1班4匹で組ませているが、正直1匹抜けたくらいではゴブリンには負けない。少し効率が落ちるくらいだ。

 うん。俺いらないな。ゴブリン狩りは他のスライムたちに任せよう。


 とはいえ、今回が『自動操縦』の初めての運用だから、まったく何もしないのも不安だな。ちょっと見守ってみるか。


 分身たちを操作していたころと変わらず、スライムたちの視界は共有されている。俺は彼らの視界から戦闘の様子を観察してみることにした。


 1班がゴブリンを倒した。次いで3班……おっと、2班が2匹目のゴブリンを見つけて倒しにいくぞ。スムーズな取り掛かりだ。


 うーん、完璧! むしろ12匹同時に動かしている俺より綻びがない。もうこれは任せてしまった方がよさそうだ。

 俺はみんなの視界を見ながら少し休憩しよう。それにしても、今日は暖かくて眠くなってきたな……。



 はっ!!


 どうやら俺は寝ていたらしい。日が傾いている。もう夕方だ!

 危ないところだった、スライムの姿のまま戦場で眠るなんて何考えてるんだ俺は! 危うく他のモンスターや冒険者に潰されてたかもしれないぞ!

 奇跡的に、俺は岩の陰に隠れることができていたらしく、怪我はない。はあ、肝を冷やした……。


 さて、分身たちはもうゴブリン退治を終わらせたかな。今日はもう遅いし、人間の姿に戻ることにしよう。


 おーい、みんなお疲れ様ー! 帰っておいでー!


 俺が心の中で言うと、分身たちがそろって帰ってきた。11匹全員いるな。みんなこんな時間までよく頑張ってくれた!


「さて、結果はどんな感じかな……」


 呟いた瞬間、俺はとんでもない光景を目の当たりにしてしまう。スライムの視界では気づかなかった、とんでもない辺りの状況。


「な、なんだこれ!?」


 俺の足元には、おびただしい数のゴブリンの皮が散らばっていた!!

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