第8話 モンスター退治を効率化しました。
翌朝、俺は浮いた心のまま宿を出た。
とんでもないことが起こった。パーティから独立したその日のうちに、俺の収入は3倍近くに跳ね上がったのだ。
今までは報酬の一部を分けてもらっていただけなので、相当ピンハネされていたのだろう。
換金しているときにも、シエラさんに『無駄遣いはしないように』、『ちゃんと貯金するように』としつこく言われたくらいだ、お金はきちんと手元に残っている。
……でも、せっかくだから朝食くらいはいいものを食べてもいいよね!
「いただきます!」
宿を出てすぐ、俺は近くの食堂ののれんをくぐった。普段はギルドでパンを一枚食べるだけで済ませていたけど、たくさん報酬を貰ったんだし少しくらいいいものを食べても問題ないだろう。
「トーストをお願いします!」
さっそく注文を済ませると、俺はステータスを開いた。
――
アルクス・セイラント 17歳 男
レベル7
スキル
<スライム>
『擬態』……自身の体をレベル2のスライムに変化させることができる。
『分裂』……擬態した体を分裂させることができる。最大は12。
――
まずは昨日の確認から。俺のスキル<スライム>には二つの能力がある。自分をスライムの姿に変化させる『擬態』とスライムの体を分裂させる『分裂』。
これには特殊な能力があった。スライムで分裂してモンスターと戦うと、経験値が体の数だけ入ってくる、というものだ。
つまり2体に分裂してモンスターを倒すと、分身がそれぞれ経験値を獲得して、経験値2倍。
俺は今12体にまでなれるので、経験値は最大で12倍。効率よくレベルを上げることができる。
昨日はゴブリンを12体がかりで一匹倒すことができた。そこで起こったレベルアップによって、俺がなれるスライムのレベルが1から2に変化したというわけだ。
今日は、レベル2のスライムが果たしてどれくらいの強さなのかを検証したい。1対1でゴブリンを倒せるまでとはいかなくても、せめてレベルアップの効率が上がっていれば嬉しい。
「お待たせしました。トーストです」
俺の前に出されたのは、熱々のトースト。ホカホカと湯気を放つトーストの上に、カリカリに焼かれたベーコンと太陽のように輝く目玉焼きが乗せられている。
たまらず手に取って、一口頬張ると、サクッというパンの心地よい音がして、卵の黄身の味が口いっぱいに広がる。
おいしすぎる。朝からこんないい思いができるなんて、パーティ追放も悪いものじゃないな。
よーし、今日もたくさん報酬を貰って、明日の朝もトーストを食べるぞ!
*
そんなわけで、朝食を済ませた俺は昨日と同じ草原エリアへやってきた。
受けたクエストは『ゴブリン討伐』。ゴブリンを10体倒してその耳を持っていくという、いたってシンプルなクエストだ。
「それじゃあ今日も『擬態』しちゃいますか!」
スライムの姿になった俺は、昨日と同じように12体のスライムに『分裂』した。
まずは今日の目的でもある、ゴブリンを倒しに行くぞ。近くにゴブリンは……。
「グゲゲッ!!」
おっと、辺りを見回していたら、意外と近くにいたみたいだ。もうこっちの姿には気づいているみたいで、走って向かってきている。
すぐに潰されて分裂できる数が減るのは避けたい! まずは一斉攻撃だ! みんな行くぞ!
俺たちはゴブリンに正面突破を仕掛ける。向かってくるゴブリンの体に、一気にタックルを食らわせた。
「
ゴブリンの胴体にスライムボディがぶつかる。その瞬間、昨日とはまるで違う手ごたえを感じた。
「ゲゲッ!?」
鳴き声を合図にしたように、ゴブリンの体は馬車にでも撥ねられたかのように吹っ飛ばされた。ゴロゴロと地面を転がると、動かなくなってしまった。
あれ……? まるで歯ごたえがない。昨日とはまるで違うモンスターと戦っているようだ。
ゴブリンが弱くなったんじゃない。俺が格段に強くなったんだ。
すごい、これがスライムのレベルが上がった影響か! 1から2になるだけでその効果は絶大だ。今の俺には口がないけど、思わず笑ってしまいそうだぞ!
もう少しゴブリンと戦ってみて、スライム何体分の力なのかを確認してみよう。1対1は無理だろうが、これなら2匹か3匹でも充分戦えるはずだ!
俺はそれから30分ほどかけて、何体かゴブリンを倒してみた。初めは10匹からスタートし、8匹、6匹と数を減らしていく。
数を減らしすぎると倒すまでに時間がかかるし、逆に多すぎても効率が悪くなってしまう。適切なバランスを心がけた。
結果として、1番効率がいいのは、ゴブリン1体に対してスライム4匹ということがわかった。つまり、3体までなら同時に相手することができる。
よーし、そうと決まればさっそく、効率よくゴブリン退治しちゃいますかあ!
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