第23話 新たな夜明け
続々と武装班の連中が帰ってきた。それを見てベルシュタインとグリアムスが出迎える。彼ら彼女らの表情はとても暗かった。
クラック隊長にホルスベルクが抱きかかえられている。彼はところどころ食いちぎられた跡があって、見るからに痛々しかった。胸の部分はポッカリとあながあいていた。
もう一人別の武装班の男の方も頭や心臓を撃ち抜かれていた。
その2人の様子を見たベルシュタインとグリアムスがみるみるうちに青ざめていくのをみて、そっとクラック隊長が一言を添えた。
「・・・・残念なことに、全員そろっての帰還とはならなかったよ」
「そうですか・・・」
グリアムスはそう述べるにとどまった。
「さきほどキメラの巣を見つけた。明日の早朝にもう一度あの近辺を調べることにするよ。そのときはそこの2人も俺たちと同伴してくれ。・・・・・2人の名前は?」
クラック隊長は2人に名前を聞いてきた。
「こちらがベルシュタインさん。そしてわたしはグリアムスと申します」
「そうか、ホルスタインにグリムリンと言うのか。よろしくな。ちなみに俺はクラックだ。コミュニティードヨルドの武装班隊長だ」
「いや、ベルシュタインにグリアムスです。それだと自分たちが乳の出る牛と変てこなぬいぐるみの怪物みたいになってるじゃないですか」
「あれ?間違っているのか?だってホルスタインにグリムリンだろ?確かにそう言っていた」
「ごめんね~2人とも。クラックはあんまり人の名前を覚えるのが得意じゃないの。決してわざとじゃないからね」
このやり取りをしているなか、ペトラルカが割って入る。クラックは見た目的には部隊の隊長にふさわしい風貌をしているが、やはり筋骨隆々なこともあって、脳の中身も筋肉で出来上がっているらしい。
要するにクラックはあほだ。そういう理解でもって今後はこの人と接していくべきだろう。
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キャンプに到着し、2人の遺体はコミュニティードヨルドからやってきた運搬車が引き取っていった。
明日コミュニティー内で2人の葬儀が執り行われるらしい。
2人を乗せたそのトラックがキャンプ地をあとにするのを生存者全員で見送った。武装班の連中は長年苦楽を共にしてきた仲間の突然の別れということもあって、みな惜別の涙を流していた。
今まで一緒に命を張ってきた仲間が明日からいなくなるということになれば、その喪失感はものすごいものだと思う。自分もグリアムスさんを仮に失ったとしたら、おそらくここの人達と同じように大粒の涙を流してしまうことになるだろう。
それだけ自分の中のグリアムスさんは重要な人物であった。この先もこういった光景はいやと言うほど見ることになるだろう。ゆえに一日一日をありがたく、大事に生きていかなければならないと思った。
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翌朝、クラック隊長らとともに再びそのキメラがいたという現場にむかった。現場にはキャンプ地に2人だけ取り残された際に、襲来してきたクジャクキメラそのものが倒れていた。息はしていない。
キメラのそばには巣があった。その巣には卵の殻の破片が無数に散乱していた。キメラの子供と思われる小鳥も破片と一緒に横たわっている。
その現場を目の当たりにしながら、さらにキメラの巣の周辺をクラック隊長らとともに調べることとなった。
「・・・・グリアムスさん。・・・これって」
ベルシュタインはグリアムスとともに、周辺を回っていたところなにかを見つけた。グリアムスも彼に呼び止められたところで、彼のそばに寄った。
「これは・・・人骨そのものですね」
ベルシュタインとグリアムスの見つめる先には大量の骸骨があった。異様な光景だ。大量の骸骨はその一か所にかためられ、置かれていた。
様々な骨の部位が入り乱れ、誰の骨なのか一つ一つに区別のつきようがない。
ほどなくしてクラック隊長もそこへ駆けつける。
「これでは・・・いったい誰が死んでいったのか区別のつきようがないな・・・」
昔みたいにDNA鑑定をして、個人を識別することはできない。DNA検査に必要なものがコミュニティーには揃っていないからだ。ゆえに骨に変わり果てた人たちの鑑定は不可能であった。
「何人死んでるんだ?・・・いったい。・・・数が多すぎる」
「どうするの?クラック」
「ひとまず、ダンプカーもう何台か手配して、ここにある全員分の骨をコミュニティーに持って帰ろう。途方もない作業だが、それくらいのことはやろう」
「わかった。じゃあコミュニティーに無線を入れるね」
ペトラルカは無線機を取り出し、通信をする。事の経緯をすべてを説明し、ダンプカーの派遣までこぎつけることができた。
「でもクラック。そういえばD班の担当エリアってまだ土砂の処理が終わってないらしいの」
「そうなのか・・・。あそこの処理を終わらせないと、ダンプカーはここまで来れないよな?」
「そう。だからわたしたちとあと何名かが、急いで現場まで行って、ダンプカーが通れるくらいまで、残りの土砂を片付けないといけない」
「なら頼めるか。ペトラルカ」
「わたしなら大丈夫。何名までなら連れていってもいい?」
「じゃあトルストイとマックレーだけここに置いてくれ。それ以外は自由に使っていいぞ」
「アイアイサー。じゃあ残りのみんなと、ベルシュタインさん、グリムルスさんも一緒についてきて」
クラックはこの場にとどまった。ペトラルカは自分たちを含め、生き残った人達を連れて現場へ向かった。
現場に着くと、大急ぎで土砂の除去作業が行われた。その甲斐もあって昼過ぎに全作業が終了した。例の手配したダンプカーは、その時間帯になってようやくその山道を通過することが出来た。
そうしてダンプカーが人骨遺棄現場の近くの道まで到達した。ようやく総動員で人骨を荷台に入れる作業が始まった。せかせかと作業していたとき、例のパワハラ現場監督も途中から合流し、作業に加わることとなった。
よくあのキメラがうろついていた山中で、生き延びれたものだ。手違いで野に放ってしまった有能生産者を広範囲で探し回ったにもかかわらず、一回たりともキメラに遭遇しなかったらしい。
こういうのを悪運が強いと言うのだろう。
「うわぁ・・・なんで俺が人骨に触れなきゃならねえんだよ!」
パワハラ現場監督は人骨に触れるたびに喚わめく。よっぽど人骨が苦手と見える。
「うるさい!黙って作業してよ!パワハラ現場監督さん!うるさいったらありゃしない!」
ペトラルカはそんなパワハラ現場監督に容赦なく毒舌を吐く。
「何がパワハラ現場監督だ!誰だ!そんな不名誉な名前をつけたやつは!?今すぐ名乗り出ろ!」
「いい加減にしないと、大事なところを蹴り上げるよ!?それでもいい?」
「ひっ!すいませんでした・・・ペトラルカさん・・・」
さすがのパワハラ現場監督もペトラルカには頭があがらないようだった。男は美人に弱い。美人に強く言われようものなら、いくらパワハラ気質な彼であっても手を挙げることはできないように見えた。
すべての人骨の荷積み作業が終了した。たくさんの骨をつんだダンプカーを見届けたのちに、ベルシュタインはクラック隊長に例の足跡の件について話す。
それからD班の作業現場から山中に続く足跡を、みんなで追うことになった。しかしながらその足跡はとある地点に来たところでプツリと途切れてしまった。
その地点を境に、最後の手掛かりは失われた。結局D班のみんなの行方はその後もわかっていない。
あの人骨の中に彼らが含まれているのか、いないのか。それすら定かではなかった。
キャンプ地まで戻ると、さっそくテントをたたみ、撤収の作業に入った。クラック隊長の指示のもと迅速に作業が執り行われ、日が暮れる前までにはその場をあとにした。
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城門をくぐり、コミュニティードヨルドに3日ぶりに帰還した。クラック隊長とともに今回の一連の報告のため、セバスティアーノ邸まで全員がついていくことになった。
邸宅の玄関前につくと、クラック隊長は玄関の呼び鈴をならす。まもなくしてセバスティアーノの召使いの者が出迎えた。
その者に案内されつつ、一同はセバスティアーノ邸に足を踏み入れることになったのである。
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