第9話 野宿会議

 今夜から最低でも3日間、この場所にて野宿することになった。そして今D班総勢19名は今夜をしのぐための所謂いわゆる野宿会議をはじめていた。



  サロモン・アリアス、ヘスス・クローラを中心に話が執り行われた。



「どうするよみんな?今夜をどう乗り切るか。それが問題だ」



  アリアスがまず口火を切る。



「野宿って危険だぜ?昔となっても今となってもな。なにせここは山のど真ん中。夜行性の動物が生き生きと活動しだす」



 クローラもアリアスが話し始めたのを見て、続いて発言する。



「それよりもさ、ここの地帯に詳しい奴っているのか?この山のもうちょっと先の方に家があるとか山小屋があるとかどうかをさ。まずそれを聞くのが先じゃね?」



 ほかの人も次々と発言しだし、彼らの野宿会議に参加する。



「そりゃそうだ。まずそこからだな。おい。こいつの言う通り、だれかこの一帯を詳しく知ってるやつがいたら名乗り出てくれ」



 アリアスが改めてみんなに聞いていく。



「ん~。俺もこのコミュニティーからは結構遠方に住んでたからな~。あんまり詳しくは知らねえや」



「わたしも知らな~い。うちらいろいろと前まであちこち旅行してたけど、こんなど田舎なんて行ったことなかったし、知らなかったし」



「てかそもそもなんでわたしたちも、野宿させられる流れになったわけ?うちら有能生産者じゃん!この仕打ちひっど~い」



「そんなオリビアも俺が土砂の処理に志願したら、一緒についていく~って言ってたじゃんか。忘れたか?

 まああのおっさんもどうかと思うけど、俺についてきた以上はひとまずグズグズ言うのはなしだ」



 若者連中が発言していく中、ベルシュタインはその話の輪に入れなかった。



 いざ入りたくても、自分なんかの矮小わいしょうな存在が軽々しく発言することなんて許されるのか?



 話し始めた途端、場の空気を乱して変な顔をされるのではないか?



 そんな恐怖が脳裏にちらつき、言葉が口から出ていかない。



 それでもどうにか勇気を出して発言しないと自分が空気になってしまう。



 そんなのはいやだ。



 よし!いつもグリアムスさんとしゃべっているときと同じ要領でしゃべってみよう。そうすればこの場のノリについていけるはずだ。そう意を決し、がんばって言葉を発してみた。



「・・・く・・・詳しくは知らない・・・けど・・・・まあ・・何かしらあるんじゃ・・ないのかな・・・」



 自分の頭に思い描いていたイメージとは、全くことなるワードしか口から出ていかなかった。



 やばい!いつものコミュ障が発症した!



「・・・なんや?こいつ。・・・急になんかしゃべりだしたと思えば」



「こいつ誰だっけ?名前も思い出せないわ」



「こいつあれだ。よくあのなんだかパワハラまがいの口うるさいおやっさんに、ベル坊やとか言われてどつきまわされてたやつや」



「あ~こいつね。かげ薄すぎて、うちらもパッと名前出てこなかったわ~。ねえミク?」



「そうよね~オリビア。わたしも出てこなかったわ~。ウケるwww」



 想像していた通り、若者軍団ほぼ全員に変な顔をされてしまった。場をかき乱してしまった。最悪だ。「こいつは何を言ってるんや?この期に及んで」と言わんばかりに。



 やっぱりこういったイケイケな男連中もさることながら、こういった男になびく女も嫌なものだ。



 久々に女といったものをここにきて久しぶりに目にしたわけだが、



 たった今会話のやり取りを交わしていた二人の女の子。



 何を隠そう、目の保養にはなる。しかし性格が少し残念だ。



 土砂崩れの現場に到着してからの朝方からお昼ごろまでは、ほぼほぼ無能生産者たちで作業に徹していたが、夕方からはなぜか見慣れない連中が途中から作業に加わっていた。



 それらの見慣れない連中はすべて有能生産者たちであったらしく、今日のお昼頃、コミュニティー内で何やら土砂処理作業の志願者を有能生産者たちの中で募っていたらしく、そこで志願をした人らが居た。



 それが彼ら彼女らと言うわけだ。



 そして今このD班を仕切っているのは、もれなくその有能生産者の若者たちであった。



「まあそいつのことはいいだろ。他にだれか詳しく知ってるやつはいないのか?この地形について詳しく」



 議論が横道にそれそうになっていたのをアリアスは軌道修正をする。そして再び場を仕切り直し、再度問いかける。



 しかしみんな首をかしげたり、首を横に振るだけでそれっきりみんな黙ってしまった。



「・・・・全滅ってなわけか。クローラどうするよ?」



 アリアスはクローラに丸投げをする。



「そうだな~。いっぺんダメもとで小屋を捜しまわるか?そうするか?みんな」



 みんなに意見を求めるクローラ。それにうんうんとうなずくアリアスと若者軍団。



 半ば強引にこの意見で押し通そうとする気概が感じられる。無能生産者たちに意見を求めようとする配慮のかけらもない。



 現にここまで無能生産者たちの何人かが、彼らに対して何か言いたげな態度を時折示していたのだが、アリアスらはそれらを軽く無視し、仲良しこよしの間柄の身内だけで話をずっと推し進めていた。



「・・・・いやそれはよしたほうがいいと思うの~」



 そんな場の空気が流れつつも、1人果敢に、年配の50歳前後の初老のおっさんがその意見に待ったをかけにいった。



「この班はなにもあんたらみたいに、若いもんばかりではない。わしらみたいな40すぎか50代も多くいる。だからといって、なにもあんたらに小屋を捜しに行くなとは言ってない。

 しかし探し回った挙句に、なにも収穫なしだったらどうする?そうなれば体力はむだに損なわれるだけだ。体力のない中年以上のわしらのことも考慮してくれんか?一旦そのことも一度考えてほしい」



 勇敢にも無能生産者の気持ちを代表して、立ち上がってくれた。無能生産者の一同はみなその姿勢に感銘している。



「うっせえよ!おっさんやい。そんなの知ったことかよ!年配者はだまってくたばっておけや。まして危険な壁の外なんだ!お前らの事も考えていたら、こっちの命まで危うくなるんだよ。いちいちお前らの身の上のことまで考えてられるか!」



 しかしその勇気ある告発に対してもクローラは一方的にはねのけ、全く聞き入れる姿勢をみせない。



「そうだな。俺らについてこれないやつは無理してついてこなくていい。俺らは俺らだけで行動する。よし!話はまとまった。俺らと寝床を捜しに行くってやつはここで挙手しろ!」



 アリアスがそう言うと、12名挙手した。それら全員若者軍団の一味であった。



「なんで好き好んでこんな山の中で、寝てなきゃならないのか理解に苦しむわ~。俺もあんたの意見にのった」



「外で野宿するのはごめんだね。のった」



「俺も」



「わたしも」



 挙手した連中はみな思い思いの事を述べていく。その一つ一つの発言に傾聴するアリアス。しかし若者らがほぼ手を上げているなか、どちらかというと年齢の若い中に含まれるベルシュタインは、ただ一人手を下におろしたままであった。



 それを見てアリアスは彼に声をかける。



「ん?おい。ベル坊やってな奴。お前は行かないのか?お前以外の連中はみんな手を上げている。・・・お前ひとりだけだぞ?・・・・この意味わかるよな?」



 アリアスはベルシュタインにも手を挙げさせる構えだ。ほぼ脅しのように聞こえる。俺らについてこなければ、どうなるかわかっているよな?と言わんばかりに。



「・・・・・自分は・・・ここで・・・夜を・・明かすよ・・・」



 ベルシュタインはそれでも乗らなかった。



 彼は性格上アリアスを中心とした若者グループの輪にはなじめない。それもあってかどうにも彼らの一員として共に行動することに、抵抗があった。



 そんな若者のリーダー格であるアリアスの脅しに屈するよりも、こうしてじっとしている方がいいと思ってか、彼に詰め寄られ、メンチを切られていてもなお彼はその手を挙げようとはしなかった。



「ふん。臆病者め。やっぱお前は陰キャだわ。空気読めねえ奴だな。ついてこないっていうならそれまでだ。よし行くぞお前ら」



 そんなベルシュタインにしびれを切らしてか、彼らはそそくさと寝床となる小屋をめざして、さらなる山奥の方へと消えていった。



「・・・・無理だ。あんな陽キャグループ。自分には耐えられない!」



 彼らの背中が見えなくなったのを見てから、ほっと一息。思わず心の声が出てしまった。



 そしてベルシュタインのまわりには、ほぼ無能生産者のおっさん連中ばかり。不安な夜だった。



「わしらとしちゃあ、あんたみたいな若者一人いてくれるだけでも心強い。のこってくれてありがとう」



 そんな彼に1人のおっさんがこう声をかけてくれた。



「・・・いえいえ・・・」



 正直のこりのおっさんおじさん連中のためを思って、ここに残る選択をしたわけではないのだが、なぜか感謝されてしまった。



 ただ自分としては、あんなパリパリしている連中と行動を共にしたくないがためにこっちに残ったまでなのに・・・・



「よし。あの若い衆もいなくなったことだし、これからここでどうやって夜を過ごしていくのか決めておこう」



 さきほど若者たちを相手に1人意見を申し立てていたおっさんが、場を取り仕切り、そこから無能生産者だけの野宿会議がはじまった。

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