第8話 無能生産者は現場まで徒歩での移動。一方パワハラ現場監督は自転車にまたがる

 現場に到着するまでの間、無能生産者らは徒歩での移動を強いられた。車も馬などの移動手段を無能生産者は使えない。使わせてくれない。歩くこと約1時間ほど、自転車にまたがるパワハラ現場監督をよそにようやく土砂災害の現場へとたどり着いた。



「ほほほい!こりゃたまげた!大漁大漁!」



 現場の光景は我々の想像を絶するものだった。山道全体が土砂に覆われており、土砂も上へとうずたかく積もっている。



「ほれ!各自黄色いベストを着用して、とっとと作業に取りかかれい!スコップと乳母車を持ってこい!」



「乳母車?乳母車って何です?グリアムスさん」



「たぶん手押し車の間違いだと思います。ベルシュタインさん。あの脳筋現場監督のことです。ああいった言い間違いはしょっちゅうですよ」



 パワハラ現場監督の指示通り、無能生産者一同は大量のスコップと土砂を入れて運搬するための手押し車を、パワハラ現場監督が自転車にまたがって現場へ移動する道中ずっと、各自スコップなり手押し車なりを抱えたり、引いて持ってきていたりしていた。



「では、今から班決めを発表する!A班、アレックス!ハビエル・・・」



 次々と彼の口から班の割り振りが言い渡される。



「・・・・D班アンドレ!・・・以上になる」




 そしてA班から、D班までの計79名のそれぞれ約20名構成で今回の作業に臨むこととなった。



「わたくしはどうやらA班だったようです」



「そうですか、自分はC班の配属となりました」



 ベルシュタインとグリアムスはそれぞれ異なる班に配属となり、別々のエリアにて作業することとなった。



「ではまた休憩時にお会いしましょう」



「休憩といったものを取らせてくれれば!・・・ですけどね」



「そりゃそうだ」



 グリアムスはそう言って、彼はベルシュタインの担当するエリアとは真反対の方へと向かっていった。



 グリアムスの背中を見守ってから、ベルシュタインも担当区域へと現場監督の指示のもと足を延ばす。



 D班担当の現場に行くと、ぬかるんでいて水分を多量に含んでいそうな土砂が山道に横たわっていた。その量がとてつもない。



 子供が公園で組み立てる砂のお城とは比べ物にならないほど、とてつもない量が自分たちの前に立ちはだかっていた。この処理を最悪三日三晩徹夜でぶっ通しやらされるかもしれないとなると、テンションが沈む。



「よし!かかれ!3日ですべて終わらすぞ!ここの現場は今日中に終わらせろ!」



 無理難題を吹っかけてくるパワハラ現場監督は、他数名の監督係と共に作業の進捗状況を、見回っていくらしい。これらの格の人間は直接スコップを握ることも、手押し車で土砂を運搬することはしない。直接作業するのは自分たち無能生産者だ。



 彼らはそういった無能生産者をただ見守り、高みの見物をするのみだった。



 パワハラ現場監督以外の他数名の監督係の連中は、人間的にはまだいい人の部類だが、そんな彼らでもパワハラ現場監督の鉄拳制裁は見て見ぬふりをして、無能生産者がひどい仕打ちを受けていてもそのまま眺めているだけで何もしない。だれもパワハラ現場監督の強権ぶりには逆らえない模様だ。



「おい!ベルシュタイン!手が止まっているな!俺様のミドルキックを頂戴したいか!?」



 それだけはご免被りたいので、さっさとスコップで土砂をすくうことにした。






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~






「よし!今日はここまで!作業終了だ!」



 1日16時間労働をようやく終えた。もうあたりは暗くなっていた。休憩時間もごくわずかしか取らせてもらえず、すべてパワハラ現場監督主任の独断と偏見で、作業者にいつどのタイミングで休息を取らせるのかを決めるという、いわば成り行き管理だった。



 そのため作業の進捗も効率もすこぶる悪い。目の前にある土砂は結局、すべて撤去しききることはできなかった。



「くそ虫どもにはすこぶる幻滅した!なんたるざまだ!こんなものすら1日で処理しきれんとは!気合いと根性が足りん!今後はもっと徹底的にお前らの骨の髄まで、スポ根魂を植え付けてやるからな!覚悟しておけ!」



 パワハラ現場監督は世界滅亡前、スポーツクラブの監督だった。具体的に何のスポーツを受け持っていたかはよく知らないが、彼のチームはその地域でも指折りの強さを誇る強豪クラブだったらしい。



 そんな彼は何をやるにしたって熱血度が過ぎる人間なのである。



 なにかふがいないミスをすればすぐ鉄拳制裁。スポーツの監督をやっていた頃の彼の性格が如実に今になっても現れ出ている。



「よし!くそ虫ども!ついてこい!今日の宿を紹介する!遅れるな!」



 パワハラ現場監督についていく一同。彼が山奥の方へとつかつかと歩いていくのに必死についていった。



 さすが元々スポーツクラブの監督をやっていただけあって、パワハラ現場監督の歩くスピードは尋常じゃないほど速い。ついていくのがやっとだった。



「よし!着いた!今日のくそ虫どもの泊まり場所はここだ!ありがたく思え!」



 連れられた先は、なんと一面、草木しか生い茂ってない大自然のど真ん中だった。そこには計19名が泊まれるような小屋のような存在はどこにも確認出来ない。



「あれ?どこにも自分たちが泊まれるような建物は・・・・」



 ベルシュタインがそういった束の間、



「ばっかも~~ん!!ベル坊や!せい!」



「ぐはっ!?」



 唐突に伝家の宝刀パワハラキックをお見舞いされた。



「おいベル坊や。お前にはここが何に見える?」



 その強烈なミドルキックに悶絶している中、こう彼に問われた。なんとか力を振り絞り、痛いのを我慢して彼は発言する。



「・・・・ただの山の中・・・」



「そうだ!ただの山の中だ!ありがたく思え!今日から3日間、お前らはここで野宿するのだ!」



「ええええええ!」



「なんでだよ!」



「なんでなんだよ!」



 一同驚愕する。まさかここにきて野宿させられるとは想定外だったと思う。



「甘ったれるな!無能生産者のくそ虫が!くそ虫が堂々とふかふかのお布団でおねむになれると思うな!大自然の中で生きよ!大自然の中で目覚めよ!くそ虫どもの腐りきった根性はここで叩き直してもらからな!以上!明日も早朝からの作業だ!しっかり寝ておけ!」



 そういうと、パワハラ現場監督はさっさと山を下っていってしまった。



 そしてパワハラ現場監督の姿も見えなくなった。すると無能生産者の1人が、



「ないわ~。まじで野宿ないわ~」



 とこう述べていた。



「そりゃそうだ」



 ここにいる誰しもがみなそう思ったことだろう。ベルシュタインもその一言には納得せざるを得なかった。

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