第43話 ゴンとリーシャ

「…………」


 ゴンのいない一日を過ごした。

 寂しくて、何か大事な物を失ったような気分だ。

 

 一言で言って最悪な一日。

 楽しくとも何ともない。


 残された時間は24時間……

 ゴンと戦う以外に生き残る術はない。

 やらないといけないのか……


 俺は覚悟が決まらないまま、眠りにつく。

 一日悩んでいたので脳が疲れていたんのか、ぐっすりと眠ることができた。


 雨が上がり、曇り空が広がる朝。

 俺はベッドに座り3時間ほど考えた。

 

 もう、向こうの世界に行くしかない。

 このまま死ぬのはごめんだ。

 だからできることだけはしておこう。


「…………」


 俺は戦闘用の服に着替え、【帰宅】を発動する。

 ゴンと戦うことになるのだろうけれど。

 それでも行くしかない。

 やるしかないのだ。


 心が全力で否定している。

 だけど行かなければこのまま死ぬんだ。

 

 光を潜り抜け、俺はケイロスバーンへ足を踏み入れる。


「き、来たぞ! 魔王だ!」


 数人いた兵士たちが一目散に逃げて行く。

 町の人たちも城の方へと非難している。


 ゴンか、ガーウィンとの一騎討ちと言うことか?

 あるいは、実力者だけで俺を倒そうと考えているのだろうか。

 どちらにしても、楽な戦いではないだろう。


 俺はゆっくり城の方へと歩いて行く。

 石造りの床を歩いて行くと、遠くにある城からケイロスバーン王が顔を出しているのが見えた。


「来たな魔王! だが貴様に勝ち目は無いぞ! お前の相手は――」

「レオ様! 城の地下にガーウィンがおります! 奴を殺せば、あなたは解放されます!」

「なっ――リーシャ! 何を言っておるのだ!」


 リーシャが王の隣に飛び出して来て、俺に向かってそう叫んだ。

 俺はその言葉に希望のような物を感じた。

 あいつを倒せば、俺はまだ生き残ることができるんだ。


「行って下さい、レオ様! あなた様ならガーウィンにも勝てるはずです!」

「ありがとう、リーシャ!」


 俺はリーシャの言葉に駆け出した。

 あいつを倒せば死なずに済む。

 そう考えると胸が弾んだ。


 俺は走り、城の地下を目指す。

 だがその時、よく聞きなれた声が聞こえてくる。


「そんな急ぐ必要はない」

「……ゴン」


 ゴンは王の隣から顔を出し、俺を見下ろしている。

 心臓が冷たくなるような感覚。

 会いたくて、会いたくなかった。


 俺は戸惑い、足を止める。


「ゴン……お前、どういうつもりなんだよ!」

「どうって……どういうつもりだと思う?」

「質問を質問で返すな! 分からないから聞いてるんだよ!」


 ゴンは鶏肉を手に持ち、それを食べながらため息をつく。


「オレにはオレの考えがある。オレはこっちに残った方がいいと思ったから残ったんだ」

「どういうことだよ……」

「そんなの決まってるだろ」

「レオ様! 急いで下さい!」


 リーシャがゴンの左手を押さえる。

 ゴンは辟易したような顔をし、彼女を振りほどこうともしない。


「おい、離せ」

「離しません! 私はレオ様のためならあなたと戦ってもいいと考えております!」

「あっそ」


 ゴンは鶏肉を口の中に放り込み、右手を振り上げる。

 まさか……リーシャを殴るつもりか?

 

「だったら――」

 

 ゴンはそのまま右手を伸ばし――


 王の首を後ろから掴んだ。


「手を離せ。オレは敵じゃねえよ」

「「「えっ?」」」


 俺とリーシャ。

 そして王は同時に素っ頓狂な声を上げた。

 え? 何? どういうこと?


「な、なんのつもりだ……愛花!」

「なんのつもりって……レオのためだよ」

「な、何言ってんだ……」


 リーシャはポカンとし、ゴンの手を離す。


「何って……お前のために決まってんだろ」

「俺のため?」

「ああ。お前の首輪の外し方を探るためにこっち側についたんだよ。レオ、あのままだったらこいつも含めて色んな人を殺したろ?」

「ま、まぁ……そうだな」

「お前が人殺しなんて面白くねえし。お前はそんなの気にすることなく殺しちまうだろうし。だからこいつの隙を伺ってたんだよ」

「そうだったのか……」


 ゴンは結局、俺のために裏切ったフリをしてくれていたようだ。

 俺はそのことに安堵し、そして胸を高ならせる。


「き、貴様! 何を考えている! あれは魔王だぞ! 勇者は魔王と対峙するのが当然であろう!」

「バーカ。オレは勇者じゃねえし、あいつも魔王じゃねえよ。ただそういうスキルを持っているだけだ。勇者と魔王じゃないんだから相対する必要もないんだよ」


 ゴンは王の首を掴んだまま歩き出す。


「は、離せ! 離すのだ!」

「今から下に行く。地下に続く階段の前で待ってろ」

「あ、ああ」

「私も行きます!」

「ありがとう、リーシャ」


 俺のために動いてくれたリーシャに、感謝の言葉を口にする。

 国を裏切ってまで俺の味方をしようとしてくれたのだ。

 こんなに嬉しいことはない。


 城の入り口に兵士はいない。というか、どこにも兵士の姿が見当たらなかった。

 なぜいないのかは分からないが……侵入しやすいにも程がある。


 大きな扉を開き、城の中を歩いていき、階段の前でゴンたちと合流した。


「……なんか、一日離れてただけだけど、久しぶりのような気がするな」

「同感だ。レオがいなかったらつまらなかったよ」

「……あの! 私もレオ様と離れていて寂しかったです!」


 リーシャは俺とゴンの間に入り込み、大声でそう訴えかけてきた。


 ゴンとリーシャとの再会は素直に嬉しい。

 だけどまだ手放しに喜んでいる場合でもないのだ。

 まずはこの首輪を外さないことには始まらない。

 

 俺たちは王を人質に地下へと進んで行った。

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