第44話 聖人化
ケイロスバーン城の地下。
大きな通路を進んで行くと、その先は巨大な地下聖堂となっていた。
城を支える柱が何本もあり、一番奥には棺が見える。
その前にガーウィンがおり、俺たちの姿を見るなり目を点にさせていた。
「……王」
「ガ、ガーウィン! 早く助けるのだ!」
ガーウィンは状況を把握したのか、ゴンを睨み付け静かに怒る。
「お前、裏切ったのか」
「裏切ってねえよ。最初から仲間でもなんでもないんだし」
「……騙してたというわけか」
「ま、そういうことだ。ほれ。王様が死んでもいいのか? 嫌ならさっさとレオの首輪を外せ」
「くそっ……」
ガーウィンはゴンと俺を睨みながら、何やら戸惑っている様子である。
え? ここは素直に外すとこじゃない?
「……王には申し訳ないが、魔王の力を解放させるわけにはいかない」
「いや、俺魔王じゃないから。ただの人間ですから」
「ガ、ガーウィン! 何を言っておるのだ! そんなことよりも我の命のほうが大事であろう!」
「……申し訳ありません。世界の平和のために、あなたには犠牲となっていただきたい。【天聖剣】が私に言っているのです。この者を倒さなければならないと」
「……うそーん」
王はポカンとしてガーウィンを見ている。
ゴンはもう人質としての価値が無くなったと考えたのだろう。
王から手を離し、犬でも扱うようにしっしと手を振る。
「ほら、帰れ。もう用はない」
「帰れと言われても……」
「邪魔だから消えろ……戦いに巻き込まれるぞ」
「へっ?」
大剣を背中から引き抜くガーウィン。
俺たちも一度大きく息を吐き、臨戦態勢に入る。
戦いの始まりの気配を察した王はそそくさと物陰に隠れるが、リーシャは俺たちの背後にいたままだ。
「リーシャ。お前も離れていた方がいい。巻き込まれるぞ」
「巻き込まれても構いません。私はレオ様と一緒にいたいのです」
「何でこいつ、こんなのお前に惚れてんの?」
「俺に訊くな。知るかよ……とにかくリーシャ。怪我されたら困るから離れててくれ。戦いが終わってからでも一緒にいることはできるだろ?」
「……レオ様、ご武運を」
リーシャは俺の手を一度握り、離れて行く。
「オレのご武運は?」
「俺が祈っておいてやるよ」
「ま、そんなの必要ないけどな」
「まあな」
俺とゴンはガーウィンを見据え、対峙する。
「異世界の魔王と勇者よ。まさか、俺に勝てるとでも思っているのか?」
「そのつもりだけど?」
「ふん。俺の実力も知らないで、そんな大きな態度を取ってもいいのか?」
「お前も態度がデカいんだよ。腹ごしらえにもなりゃしないんだから、さっさとかかって来い」
ま、こいつを食うわけにもいかないからな。
ゴンは少々面倒くさそうにガーウィンを睨んでいる。
ガーウィンはニヤリと笑い、大剣を天に掲げた。
「【天聖剣】よ! 我に力を!」
大剣は光を放ち、ガーウィンを包み込んでいく。
それを見たリーシャが大きな声で叫ぶ。
「あれは聖人化! お気をつけて下さい、レオ様! ガレオンは天使と同格まで昇華し、大いなる光の力を使うつもりです」
「オレの心配はどうした」
ゴンはリーシャの方を見ることなくガーウィンの方に視線を固定したままであった。
「聖人化……一体どんな能力なんだ」
光が徐々に収まっていき、ガーウィンの頭の上に光の輪が顕在していた。
まさに天使のようだ。
そう表現するのが一番正しいと思えるほどに、奴は神々さを放っていた。
顔の険が取れ、まるで僧侶のような表情となったガーウィン。
奴は静かに口を開く。
「では、いきますよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます