第42話 ゴンのいない一日

 自宅に戻った俺はベッドに体を預け動けなくなっていた。


「ゴンの奴……どういうつもりなんだ」


 ゴンのことばかりを考える。

 あいつはこっちの世界のことを好ましく思っていない節があった……

 だけど、この世界を捨てるほどの感情も無かったと思うんだけど。

 

 でも、選んだ。

 あちらの世界を。

 俺たちが住んでいた世界を掌握しようとしているあちら側についた。


 だとすれば、俺はどうすればいい?

 

 自分の首に巻かれた首輪に触れる。

 魔族としての力が発揮できないと言っていたな。


 右手で闇の力の発動を試みる。


「…………」


 突き出した右手からは何も出ない。

 何も起こらない。

 どうやら魔王の力は使用できなくなっているようだ。

 しかし【帰宅】を発動できたところを見ると、普通のスキルは使用できるはず。


 他に【倉庫】や【製造】を試してみる。

 大丈夫。やはり使えないのは【魔王】のスキルのみだ。


 他のスキルがあればなんとでもなるんだろうけど……問題はゴンだよな。

 【勇者】の力を持つゴン。

 あいつに【魔王】の力無しで敵うのか?

 そもそも……あいつと戦えるのか?


「……嫌だな」


 他の誰かなら別に構わない。

 倭や山下。

 神崎に下柳なら殺しても構わないと思っている。

 これが俺の問題点なのだろうけれど。

 ゴン以外なら別に敵対したとしても躊躇なく俺は戦えるし殺せると思う。

 だけど、ゴンだけはダメなんだ。

 

 友達だから。

 親友だから。

 大切だから。


 恋だとか愛しいとか、そんな感情は持ち合わせていない。

 しかし俺はゴンのことが好きだ。

 辛い時だってずっと一緒にいてくれた、本当にいい奴で。

 他の誰かとは敵対してもいい。

 でも、ゴンだけとは戦いたくない。

 どうすればいいんだ。


 首輪は48時間経過すると爆発すると言っていた。

 だとすれば、そんなに悩んでいる時間もない。

 48時間しか迷っている時間はないのだ。

 それまでにどうするかを決めなくては。


 もしゴンが本気だとすれば、向こうの世界に行ったとしてもあっさりと殺されてしまうであろう。

 それぐらい、【勇者】の力を持つゴンは強い。

 俺と彼女は対等だった。

 それは強さも同じなんだと思う。


 同じ強さを持ち、同じ日々を送り、同じ道を歩いて来た。

 これから続くと思っていた道は分かたれてしまったのだ。


 どうする……どうする。

 戦うしかないのか。

 やるしかないのか。


 胸の奥がkリキリと痛い。

 ゴンとは戦いたくない。

 どうすればいいんだ。


 何も答えは出ないまま、時間は経過していく。


 翌日。

 雨の中俺は学校へ登校する。

 雨のせいで気怠くイラつく。


「つ、露木くん。おはよう」

「…………」


 倭と山下が俺に恐る恐る挨拶をしてくる。

 俺は彼らを無視して、自分の席に着く。


「ねえガリレオ。デブゴン来てないみたいだけど、どうしたのさ?」


 下柳が俺に気安く話かけてくる。

 これは何やら算段している顔だな。

 何を考えているんだ。


「……もしかして、喧嘩したの?」

「…………」


 俺は何も答えない。

 下柳は松葉杖をわきに宛がったまま腹に手を当て笑い出す。


「あいつ、ちょっとぐらい可愛くなったからって調子乗ってんでしょ? ねえ、ガリレオ。良かったら私と組んで――」

「お前なんかと組むかよ、バカ」

「だ、誰がバカだ! 誰が! お前も調子乗んな! ガリレオ!」


 激昂する下柳。

 俺はイライラしながら、携帯に保存してある彼女のイジメの証拠を見せつける。


「俺もゴンからお前のイジメの証拠を貰ってる。公表されたくなけりゃ、とっとと失せろ」

「うっ……」


 下柳は顔色を青くし、俺を睨み付けながら自分の席に向かう。

 ったく、こんな時に絡んで来てんじゃねえよ。

 ムカつくなぁ……


「おい、ガリレオ!」

「はぁ?」


 今度は神崎が俺の肩に手を回して来る。


「愛花はどうしたんだ? どこに行ったんだよ?」

「…………」

「おい、聞いてんだろうが!」

「……うるせえ」

「はぁ!?」


 神崎とはまだ直接やり合ったわけじゃない。

 だからなのだろうか、俺に対して気安く、威圧的に接してくる。

 

 俺の怒気を感じたのか、倭と山下たちが挙動不審となり、オロオロしていた。


「放課後、屋上な」

「……放課後まで待つ必要ない」

「ああ?」

「ここで話はつけてやる」

「お前、何だよその態度――」


 苛立ちが最高潮に達した俺は、包帯を巻いている神崎の頭に頭突きを食らわせる。

 頭から血を吹き出し、白目を剥いて倒れる神崎。

 クラスはざわめきに包まれ、騒然とする。


「つ、露木くん、暴力はよくないんじゃ……」

「俺もそう思う。ってかお前が言うな」

「そ、そうだよね……」


 倭は愛想笑いを俺に向けている。

 その笑みがさらに苛立ちを覚えさせるものだから、俺は机を叩いた。

 ビクッと怯える倭たち。


 俺は倭に視線を向け、命令口調で言う。


「お前がやったことにしろ。いいな?」

「は、はい……」


 やつあたりもいいところだ。

 だけど、今までやられてきたことを考えると可愛いもんだろ?


 その後、記憶があいまいになっていた神崎と倭の言うことを鵜呑みにした教師たち。

 結果として喧嘩両成敗で二人仲良く、停学処分を受けるのであった。

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