第41話 ケイロスバーン王の願い③

「…………」


 消えて行くレオを見届けたゴンは、静かに席に着き食事を再開させる。

 その様子にポカンとしているケイロスバーン王と勇者ガーウィン。


「……なぜお主はこちら側に着いたのだ?」

「……向こうの世界では辛い思い出も多かったからな。こっちの世界なら食事を際限なく貰えるし、飯に困ることはない。オレにとってはこれ以上の好条件は無いんだよ。向こうの世界だってオレのもんになれば飯を食い放題、やりたい放題になるってわけだ。お前に力を貸すほうが都合いいのさ」

「そ、そうか」


 ゴンの言葉にパッと顔を明るくする王。

 しかし、リーシャは納得できない顔でゴンに詰め寄る。


「あなたは、レオ様を裏切ったのですよ! なぜそのように平然としていられるのですか!?」

「お、ようやくオレに声をかけてきたな」


 ゴンは肉を噛みながらリーシャンの顔を見上げる。


「……冷たいお人! あなたなんかにレオ様のパートナーなど務まりません!」

「お前にレオの何が分かるんだよ」

「レオ様は強くてお優しくて、誰かのために戦ってくれる素晴らしいお方です!」

「……ま、間違ってはないか」


 王はリーシャの腕を掴み、ガーウィンに引き渡す。


「ガーウィン。姫を自室へ」

「はっ」

「ちょ、お父様! 話は終わっていません!」

「お前の話はまた後で聞く。今は下がっておれ」


 連れて行かれるリーシャ。

 王は自席につき、ゴンとの会話を続ける。


「まずは時間を稼ぎたい。レオが死ぬまでの48時間、どうやって凌げばいい?」

「どう凌げばって、戦うしかないだろ。オレが」

「……魔王の力は発揮できなくなったはずだが、それでもレオは強いのか?」

「強いな。今のオレなら勝てるだろうけど、他の奴らじゃキツイだろうな。他の奴らの実力は知らないけど、直接やりあっても負ける気はしない。それは魔王としての力を発揮できないレオでも一緒だろうな」

「そうか……それほどまでに奴は強いのか……あいつのことは、お主に任せてもよいだろうか?」

「ああ。任せとけ」


 ゴンは食事をしながら話を続ける。


「それで、あの首輪を取り除く方法はあるのか? あるとするのならそれを阻止しないとな」

「うむ。あれは勇者の神聖なる力を持って初めて発動する道具。ガーウィンの魔力が尽きるか、あるいは奴だけが外すことができる」

「なら、あいつを守らないといけないな」

「勇者を守ると言うのか?」


 ゴンは鼻で笑い、王の顔を見る。


「オレたちのレベルはこの世界から見れば段違いなんだろ? レオから見たら、ちょっと強いぐらいの戦士だよ、あれぐらい。実力を隠してなければだがな」

「そ、そこまでの力があるというのか……うむ。では、ガーウィンは城の奥の方で待機させることにしよう。あやつを守るなんて話になれば、プライドを傷つけることにんるだろうしな」

「それがいいだろうな。後問題は……兵士そのものだな」

「兵士そのもの?」

「レオは強い。そして容赦ない男だ。今回みたいな理由があれば、躊躇なく兵士を殺し回るぞ。お前の首を取るまでな」

「な、なるほど……」


 ゴクリと息を飲む王。

 気怠い様子のゴンを見ながら汗をたらりと流す。


「オレたちの世界を取るんだろ? だったら兵士を減らすわけにはいかない。兵士は全て後方に下げ、オレが前に出る」

「そ、そうか。お主が前に出てくれればそれで問題は解決か」

 

 ニヤリと笑うゴン。

 王もまたニヤリと笑う。


「そういうことだ。今のレオなら確実に勝てる。だからあんたも気軽に待ってりゃいい。オレがあいつを倒せばそれで全部問題解決だ」

「そうだな! ……しかし、リーシャのことをどうするか……」


 多くの問題は解決したかのように思われたが、唯一娘であるリーシャの気持ちだけが気がかりな王。

 ゴンはまた鼻で笑い、彼に言う。


「また他の男を探せばいいじゃないか。まだ結婚もしていなければ付き合ってもいない。そのうち忘れるだろうさ」

「ならいいのだが……あいつに嫌われるのは堪える物がある」

「世界を取ろうとしてるんだ。それぐらい我慢しろよ。あんたが間違っていなかったらそのうち分かってくれるだろうよ。それとも何か? あんたのやろうとしていることは間違っているとでも?」


 王はゴンの言葉にハッとする。

 そして視線を正して言葉を口にした。


「私は間違ってなどいない。真の平和を志しているだけだ。きっとお主たちの世界の住人たちも幸せにしてみせる。私にはそれができると確信しているのだ」

「だったらいいじゃないか。胸を張って、ドーンと構えてろよ」

「そうだな……うむ、そうだな!」


 リーシャのことを考えていた王は大きく頷き、自信を取り戻す。

 ゴンはそんな王の姿を見て、食事を続ける。


「おかわり」

「おお。もっと食べてくれ。お主には期待しておるし、まだまだ力を借りることになるのだしな」

「おう。遠慮なくいただくぜ」


 ゴンは食べる勢いを増していく。

 王はゴンの食欲に呆れながら、輝かしい未来を見据え、高揚していた。

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