第39話 ケイロスバーン王の願い①

 ライゴーンを倒し、ケイロスバーンへ戻ると大勢の兵士が俺たちを出迎えてくれた。


「お帰りなさいませ、レオ様! 愛花様!」

「うむ。くるしゅうない」

「お前は何様だ」


 ゴンは真顔で兵士たちに偉そうにしていた。

 冗談なんだろうけど……俺じゃなかったら本気で取るところだぞ。

 良かったな、横にいたのが俺でさ。


「レオ様!」


 リーシャが俺の胸に飛び込んで来た。

 彼女の柔らかさを感じ、ちょっぴりだけドギマギする。


「リ、リーシャ。どうしたんだ?」

「レオ様が無事に帰って来ていただいたのが嬉しくてしかたないのです」

「オレも無事に帰って来たぞ」

「はぁ……レオ様なら必ず勝てると信じておりましたが、まさか無傷だったとは……さすがでございます、レオ様」

「おーい。こっちも無傷だぞー。おーい聞いてんのか?」


 リーシャはとろけたような表情を俺に向けたまま、ゴンの言葉を聞いてない。

 俺とゴンは肩を竦め合って苦笑いする。

 ダメだ。自分の世界に入り込んでるな。


「それよか腹減った。モンスターが多すぎてまともに食えてないんだよな」

「マズいって言ってたもんな。なあリーシャ。食事の用意をお願いできるか?」

「もう用意いたしております! さぁ、城の方へ向かいましょう」


 俺の声は届いてるんだな。

 ゴンはジト目でリーシャに視線を送る。

 だがやはり俺を凝視するだけで彼女には目もくれない。

 

 俺はリーシャに腕を組まれ、城へ連れていかれた。

 ゴンは別段そんな様子も気にしていないようだった。


 食堂に通され、食事が振る舞われる。

 

「いただきます」


 ゴンの食事タイムの始まりだ。

 次々に運ばれてくる食事。

 色とりどりの美味しそうな物がこれでもかと用意される。


 俺はいつものゴンの様子に笑みを浮かべながら食事を開始した。


「今回もご苦労であったな。異世界の勇者と魔王よ」

「それ、やめてくれません? 俺は魔王じゃないし。ただの人間だし」

「しかし、魔王の能力を持って幹部を倒したと聞いておるぞ」

「いや、そうなんだけれど……」


 やはり魔王と呼ばれるのはしっくりこない。

 極道の親分とかマフィアのボスなんて呼ばれるようなものだろ?

 俺、絶対そんなんじゃないし。

 世界を滅ぼすつもりも掌握するつもりもないんだからな。


 至って普通。

 至って平凡。

 至って一般的だ。


 強さはまぁ、尋常ではないみたいだけれど。


「これからも我が国のために力を貸してくれるか?」

「別にいいですよ。モンスターを倒すぐらいしかできることはありませんけど」

「別にいいぜ。食事を用意してくれるなら」


 ゴンはガツガツ飯を食らいながらそう言う。

 こいつを釣るのは簡単だな。

 とにかく飯を出しとけばいいんだから。

 分かりやすい奴だよ。

 ただ、要求される量は尋常じゃありませんが。


「あの、レオ様」

「何?」


 フォークで肉を刺していると、リーシャが俺の顔を覗き込んでぽつりと呟く。


「結婚、いたしませんか?」

「…………」


 フォークを持ったまま、俺は固まってしまう。


「私、レオ様なら本気で……いえ、レオ様と結婚したいです」

「魔王と結婚するのはどうかと思うけど? ですよね?」

「お前は魔王ではないのだろう? 問題は何もないはずだ」


 王様はニコニコしながらそう言う。

 俺のこと魔王って呼んでたじゃないか、さっき。


 俺は嘆息しながらゴンの方を見る。

 ゴンは少しばかり気になるのか、チラリと俺を見た。

 だがすぐに食事に視線を戻し、とにかく食いまくっている。


「俺はまだ18歳で、やりたいことも多いんだ。元の世界でもまだまだやることはある」

「元の世界か……」


 王様は神妙な顔つきで俺を見ている。


「ですがレオ様。結婚をしたと言ってもあなたは自由なのですよ? 結婚した後にやりたいようにすればよいのです。冒険を続けていただいて結構ですし、元の世界で遊んでも構いません。他の国に愛妾をこしらえても文句はいいません」

「愛人なんて作らないけどね」


 ってか、愛人作っても文句言わないって、嫁としてそれはどうなのよ。

 俺は呆れながらリーシャの顔を見る。


「私はレオ様と結婚したい。幾度も私を救っていただき、運命を感じているのです」

「救ったのは国であってリーシャじゃないけれど」

「それならオレもお前のこと救ってるはずだけど」

「結果として、私はレオ様に救っていただいているのです」

「おい。本当に話聞かない奴だな」


 確かに何度かリーシャを助けたことになるんだけど……だからって結婚したいなんて飛躍しすぎじゃないか?

 この感覚は本当に理解できないわ。

 俺がおかしいのか?

 ……そんなことないよね?


「レオ。そして愛花よ」

「はい?」


 王様がジッと俺たちを見据えている。

 どうも真剣な話があるようだ。


 俺はフォークを置き、彼の声に耳を傾ける。

 ゴンは……飯を食べたままだ。


「どうしたんですか?」

「お前たちにお願いがあるのだ?」

「今度は何ですか?」


 王様は一度深呼吸し、そして口を開く。


「異世界を……お前たちの住んでいる世界を手に入れたい」

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