第37話 モンスターの大群

 ケイロスバーンから南へと向かうと、そこは平原であった。

 補装された道がずーっと伸びており、周囲には何もなくどこまでも見渡せる。


「素晴らしい景色じゃないか」

「だな……あれが無かったら」

「……だよな」


 本来なら解放されるような気分を味わえる広々とした平原なのだろうが……

 俺たちの目の前にはモンスターの大群がいる。

 数えきれないほどのモンスターの姿が、平原一杯に広がっていたのだ。

 一体何匹いるんだよ……


「で、どうする?」

「どうするったって……戦うしかないだろ」

「だな。ってか、こんだけ食って満腹になんねえかな?」

「まず腹の心配かよ。ゴンらしいな」

「お前の心配だってしてるよ」

「え?」

「……腹壊すなよ」

「俺は食わねえよ!」


 ゴンと同時に大地を蹴る。

 俺は空を舞い、ゴンは一直線にモンスターへと駆けて行く。


 翼を広げ、俺は【倉庫】から新たなる槍を手にする。

 【製造】熟練度が3に至ったことにより創った槍だ。

 俺が取り出したのは炎の槍フレイムランス


 新しく付与できる技能は、属性魔術を使用できるというものだ。

 右手には魔力を増幅する魔力の槍マジックランス

 左手に炎の槍。


 俺は炎の槍をグルグル回し、魔術を展開する。


「【ファイヤーウォール】!」


 炎の壁が出現し、モンスターたちを飲み込んでいく。

 ゴンは炎を迂回し、モンスターたちに接近する。

 

 ここでようやくモンスターたちは俺たちがいることに気づいたようで、怒涛の勢いで駆け出した。

 しかし目の前にもう一つ炎の壁を創り出す。

 今度は敵を飲み込むようなことはせず、その場に固定した。


 モンスターたちはゴンの方へと流れていき、自然に彼女の前にまとまる形になる。


「てめえらまとめて喰ってやるよ――【暴食】!」


 巨大な牙を発生させるゴン。

 何十というモンスターを一瞬で飲み込んでしまう。


「うえー……マズいの混じってた」

「それはご愁傷様。ほれ、まだまだいるぞ」

「もう食いたくねえ……レオ。まとめて頼むわ」


 俺は空で嘆息しながら、炎と闇の力を混ぜ合わせ、その力を解き放つ。


「【ダークフレア】!」


 黒い炎がモンスターたちの中央に落ちる。

 ドーム型に炎は広がって行き、次々とモンスターを消し炭にしていく。


「おー。そのまま一気に倒してしまえ」

「お前も手伝えよ」

「分かってるよ」


 ゴンは雷を帯びた拳を地面に叩きつける。

 大地に稲妻が走り、モンスターたちは痙攣しながら倒れて行く。


「す、すごい……さすが勇者と魔王」

「ん?」


 どうやらケイロスバーンから兵士たちをよこしていたらしく、彼らは俺たちの力に驚愕している様子だった。

 ふふん。凄いだろ。

 なんて無駄に胸を張りながら俺はモンスターへと突撃した。


 槍を力の槍と敏捷の槍に持ち直し、両手の槍を勢いよく回転させる。

 

「おらー!!」


 すれ違うだけでこま切れなっていくモンスターたち。

 空を舞いながら槍の回転を続ける。


「お前、それズルいぞ。俺も空を飛びたい」

「ははは。勇者にそんな能力はないのか?」

「無いね。くそっ。ムカつくから一気に吹っ飛ばす。【雷槌】!」


 ゴンの繰り出した右手から、凄まじい稲妻のエネルギーが放出される。

 広範囲に広がる稲妻は、モンスターを一瞬で消し去っていく。


「ゴンだって凄いじゃないか。兵士たちを見てみろよ」

「はぁ?」


 ゴンは兵士たちがいることに気づいていなかったようだ。

 まぁゴンは前線だし、彼らは遥か後方にいるから仕方ないのだろうけど。


 兵士たちはただただ目を丸くするだけであった。

 バカみたいにいたモンスターの数がみるみうるうちに減っていくからだ。

 ってか、こんな数のモンスターがいるんだったら、初めからそう言っとけっての。


「……モブ?」

「だろうけど、そう言うこと言ってやるな。彼らだって彼らなりに力を貸しに来てくれたんだろうしさ」

「……何しに来たって?」

「…………」


 何も言えなかった。

 だってボケっと突っ立ってるだけだし。

 戦ってるの俺たちだけだし。


 というか、本当に何しに来たの?

 そう聞きたいぐらい、彼らは驚くだけで何もしていなかった。


「ま、まぁ、前線に出られたら逆にやりにくいし……な」

「この際どうでもいいわ。もう言ってる間に終わるし」


 敵の数は残り少なくなっていた。

 俺は展開していた炎の壁の力を解放し、残りのモンスターを焼き尽くす。


 翼を閉じて、ゴンの近くに着地し、綺麗さっぱり敵のいなくなった周囲を見渡す。


「楽勝だったな」

「逆に楽勝じゃなかったら、姫様も勇者も殴ってるところだ」


 その気持ちは分かる。

 こんな数のモンスター、勝てたからいいけど普通なら死んでるよ?


「それで、幹部ってのはどこにいるんだろうな?」

「もしかして、倒しちゃったとか?」

「……ありえるな」


 ゴンが気怠そうにそう言うと、遠くの方から一匹のモンスターがこちらに向かって歩いて来るのが視界に入ってきた。


「と思ったけど、どうやら倒していなかったみたいだぜ」

「本当だ」

「おい。絶対に闇の力で倒すなよ」

「……食うんだな」


 ゴンは「当然だ」と一言囁き、敵に向かって歩き出した。

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