第36話 ガーウィン

 ゴンとケイロスバーンへ行くと、また町は大騒ぎとなっていた。

 

「何があったんだ?」

「さぁ? 美味いモンスターでも現れたんじゃねえの」

「そんなわけないよね。そんなこと考えてるのゴンぐらいだけだ」


 俺は早足で城へと向かい、リーシャと王様と会った。

 二人も神妙な面持ちで俯いている。

 だが俺が来たことにリーシャは顔をパッと明るくした。


「レオ様!」

「何の騒ぎなんだ、リーシャ」


 可愛い女性の可愛い笑顔は素敵だ。

 俺は純粋に胸を高ならせ、彼女の話を聞いた。


「レオ様に魔王軍幹部を倒していただいて……」

「倒したのはレオだけじゃない。オレも一緒に倒したぞ」

「そのことに感づいた別の魔王軍幹部が、この町へと向かって来ているようなのです」

「なるほど……それで町の住人が大騒ぎしているわけか」

「はい……レオ様」

「何?」


 リーシャは俺の手を握りしめ、真っ直ぐな瞳でこちらを見つめてくる。


「申し訳ありませんが、また魔王軍幹部を倒していただけませんか? 勇者も帰って来ているのですが、城の守りの方も必要になるので……今他に頼れるのはレオ様だけなのです」

「オレもいるぞ、オレも」


 ゴンの言葉がリーシャに届いていない。

 彼女はジーッと俺を見つめるだけでゴンの姿は見えていないようだった。

 え? どうなってんの?


「わ、分かったよ。俺とゴンで倒してくる。だからリーシャたちは勇者と共に町の皆を守ってやってくれ」

「はい……ありがとうございます、レオ様」

「お前、オレが拗ねて帰ってもいいのか? おい、聞いてるか?」

「…………」


 彼女は俺を見つめるだけでゴンの方に見向きもしない。

 ゴンは嘆息し、踵を返した。

 俺もゴンに続き、城を後にする。


「お姫様、何でオレのこと無視するんだろうな? もしかして嫌われたか?」

「いや、そんなこと無いんだろうけど……なんでだろうな」

「ムカつくからあいつにも頭突きかましてやろうか」

「お前の頭突きは洒落にならん。あんなか弱い女性にはやめて差し上げろ」


 下柳はプロテクターの上からやられて気絶した。 

 それも手加減してだ。

 そんなものを本気で喰らわせたら……下手したら脳味噌ぶちまけることになるぞ。

 背筋にゾクリと寒気が走り、俺はゴンの肩に手を置く。


「帰ったらポテチ買ってやるから。我慢しろ」

「ちっ。5袋は買ってもわらないと気が済まん」

「なあ、君たち」


 城を出た町のど真ん中で、俺たちは一人の騎士に声をかけられた。

 

 金髪碧眼、美形と呼ばざるを得ない恵まれた容姿。

 金色に輝く鎧に大きな大剣を背中に背負っている。

 彼は嫌味のない笑みをこちらに向けていた。

 

「誰?」

「俺はガーウィン。勇者ガーウィンだ」

「勇者……」


 勇者が帰っているとリーシャが言っていたけど……そうか、彼のことか。


「君たちは異世界から来たと言う、勇者と魔王なのだろ?」

「その認識は正しいと言い難いが、まぁ俺たちで間違いないと思う」


 俺たちは【勇者】と【魔王】のスキルを所持しているだけであって、勇者でも魔王でもない。

 俺に関しては人間だし。

 魔族の王様じゃないんだぞ。


「姫様に新たなる魔王軍幹部の討伐を依頼されたんだろ?」

「ああ」

「すまないがよろしく頼む。俺は町を守るから、そちらの方は任せるよ」


 そう言ってガーウィンは手を差し伸べてきた。

 俺は握手を返し、彼に頷く。


「任された。俺たちに勝てるかどうか分からないが、やって来るよ」

「相当な実力者と聞いている。君たちなら問題ないだろう」

「…………」

「どうした、ゴン?」


 ゴンは顎に手を当て、真剣な顔で俺たちを見ていた。

 俺はそんな真剣な彼女の顔を見て嫌な予感を覚える。

 こいつ……くだらないことを考えてるだろ。


「いや、悪くないカップリングだなと思ってな」

「やっぱりそんなこと思ってたのかよ! やめてくれ。俺にそんな趣味はない」

「分かってるよ。オレが勝手に想像してるだけだから」

「……お前の脳内だけの話でもやめてください」


 だが想像をやめてくれなんて無理な話で、彼女はその後も真剣な表情をこちらに向けるだけであった。


 ガーウィンと別れた後、俺はため息をつきながらゴンと町の外へ出る。


「お前の趣味をとやかく言うつもりはないけど、せめて俺で想像するのはやめてくれ」

「だけどお前以外友達いねえし」

「友達以外で想像してて。別に道行く人で想像してもいいわけでしょ?」

「それはいつもしてる。だけどお前でもする」

「誰でもいいなら俺をそこから外してくれ」


 ゴンは「ことわる」と一言だけいい、町の南の方角を見据える。


「あっちの方角に幹部がいるんだな」

「話逸らしたな」

「よし。行くか」

「まだ話は終わってないぞ」

「細かいことは気にするな。ほら、ポテチ食うか?」

「いらねえよ……」


 歩きながらポテチを食べ始めるゴン。

 俺はジト目で彼女のことを見ながら道を歩き始めた。

 こんなことしても無駄なんだろうな、と俺は達観する。

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