第35話 下柳たち……
火曜日の朝。
雲一つない素晴らしい天気の中、俺は学校へと登校していた。
教室に着くと、クラスメイトたちは何とも言えない顔で俺を出迎える。
「な、何?」
恐怖心を抱いている者、あるいは申し訳なさそうにしている者。
それぞれ態度は違うが、全員が俺に注目していた。
すると数人の男子と女子が俺に頭を下げる。
「ガリレオ……今までごめん! 助けることも出来なくて……本当にごめん!」
「…………」
そう言うことか。
俺が武活動大会で活躍し、今は神崎たちにもイジメられない対象となったから今までのことを謝っているわけだ。
傍観していているだけの日々。
誰一人として俺を助けようとはしなかった。
特に怒ってはいないが、別段仲良くしたいとも思わない。
ゴンも言ってたけど、態度を変えられるの気持ち悪いな。
「怒ってはないけど、無理に仲良くする必要もないだろ。今まで通り、俺に関わらなくてもいいよ」
「で、でも……」
友達は選ばなければならない。
ゴンみたいにいつだって態度を変えない、いつでも無条件で傍にいてくれる人と付き合えればそれでいいんだ。
だから俺は、彼ら彼女らと仲良くする必要はない。
これまで通りの付き合いだけでいいんだ。
「ガ、ガリレオと仲良くなりたいんだよ」
「俺をガリレオなんて呼ぶような奴と友達になりたくないよ」
「うっ……」
クラスメイトが青い顔をする。
俺は嘆息し、皆を横目に自席へと向かった。
「ん?」
すると、俺の前に倭と山下の姿が見える。
二人は戸惑い、狼狽え、俺の顔色を窺ってきた。
「ガ……露木……くん。おはよう」
「おはよう、倭」
「う、うえーい……元気」
「お前らの顔を見るまでは元気だったよ」
「…………」
ビクビクしながら直立している二人。
そこで俺が一歩前に出ると、二人は大慌てで道を開ける。
机にぶつかり、倒してしまう。
「わ、わ……」
「だっせー……この間までイジメてたってのにな」
クスクス倭と山下を笑うクラスメイト。
やっぱり彼らと仲良くする必要はないな。
立ち位置が変わっただけ。
標的が変わっただけ。
変わったように見えて何も変わらないんだ。
何かが起こるまでは何も変わらないんだ。
「レオ」
バンッ! とすごい勢いで、教室の扉を開くゴン。
その音に驚くクラスメイトたち。
倭と山下、そしてゴンに制裁を受けた男子たちが恐怖に震え出す。
下柳は悔しそうにゴンを睨み付けている。
「どうした、ゴン?」
「おはよう」
「おはよう。それだけ?」
「ああ。お前にはな」
ゴンはそのまま下柳の下までドシドシ歩いて行く。
下柳は視線を泳がせ、ゴンの行動に戸惑うばかり。
両足を骨折しているので動くこともできずにゴンを見上げている。
「おい」
「は、はぁ? 何?」
下柳の声が裏返っている。
ゴンは彼女が座る机をバンと叩き、下柳に詰め寄る。
「レオの写真、消したのか?」
「ま、まだだけど……」
「消せ。今すぐ消せ。約束だろ」
下柳は渋々携帯を鞄から取り出すが、一向に消す様子はない。
「どうした?」
「あ、あんたも私がやってきたことの証拠、消しなさいよ」
「ヤダね」
「ガ、ガリレオの写真、ばら撒くけど?」
挑発的に下柳はゴンにそう言う。
こいつ、まだ懲りてねえのかよ……
しかしゴンは鼻で笑うだけで彼女の言葉を一蹴する。
「レオは恥をかくだけ。お前は犯罪。交渉手段としては弱過ぎんだよ。後悔するか、細々と学園生活するか。好きな方を選べ」
「う……」
下柳は今にも泣きそうな顔で携帯の操作をし出す。
しっかりと俺の写真を消すのを確認すると、俺の方へと歩いて来る。
サンキューな、ゴン。
お前の友情に感謝だ。
「男の裸って初めて見たけど、案外グロいな」
「お前も記憶をさっさと消せ! お願いだから消して!」
「忘れられるかな……」
うーんと唸るゴン。
頼むから何としてでも忘れてください。
俺の黒歴史、さっさと消えろ!
「ま、努力するよ。それよか、今日は行くんだろ?」
「ああ。そのつもりだ。放課後、屋上で待ってるよ」
「おう。じゃあまた後――」
「愛花!」
また教室の扉をバンッと開けて登場する男子が一人。
それは神崎であった。
頭に包帯を巻き、フラフラしている様子だ。
何だこいつ?
「ほら! ポテチを買えるだけ買って来た! 全部お前のためだ!」
ゴンに両手いっぱいのポテチが入った袋を手渡す神崎。
ゴンはそれを受け取り、そして冷たく言い放つ。
「これは貰ってやるから消えろ」
「とりあえず貰うんだ」
「ポテチに罪は無いからな」
ゴンは両手に袋を持って教室を後にしようとする。
だが神崎がゴンの肩を押さえ、彼女を引き留めようとした。
「うぜーっての」
振り向くことなくゴンは踵を神崎のみぞおちに叩き込む。
神崎は腹を押させ膝をつき、その場に嘔吐する。
「汚いな……」
「いや、やったのはお前だよね?」
「蹴ったのはオレだけど、吐いたのはこいつだ。よって、悪いのはこいつ」
ゴンはそれだけ言うと、教室から颯爽と去って行く。
神崎はそんなゴンの背中を見つめ、ほんのり顔を赤くしていた。
こいつ、何かヤバい方向に目覚めたのか……?
クラスの全員の神崎を見る目が恐怖のものに変化していたのを俺は見逃さない。
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