第31話 ラグビー部戦

 武活動大会は順調に進み、気が付けば準決勝まで駒を進めていた。

 俺たちの実力に驚愕する生徒と教師たち。

 特に俺をイジメていた連中は愕然としており、俺は誇らしい気分と鬱憤を晴らすような気分を同時に味わっていた。


「レオ。気分いいのも分かるけど、ほどほどにしとけよ。あまり度が過ぎると嫌われるぞ」

「分かってる分かってる。後は直接神崎たちを倒してそれで終わりだ」


 ゴンの言う通り、あまり度が過ぎた態度でいると嫌われ者になってしまう。

 周囲に不快感を与えない範囲で喜ぶ。

 それ以上になると皆ムカついてくるだろう。

 全ての物事をほどほどにしておかないとな。


「だけどゴン。お前も食べるのはほどほどにしておいた方がいいじゃないか? 度が過ぎたら――」

「俺はいいの。嫌われてもいいし」

「いいのかよ! 人には言っておいて、お前はそんなのかよ」

「こんなので嫌うような人間と付き合っていく必要もないだろ」

「なんてたくましいんだ……ゴン、俺、お前に一生ついていくよ」

「おう。一生ついて来い」


 なんてバカな会話も織り交ぜながら、準決勝の相手を見据える。

 相手は神崎率いるラグビー部。

 ラグビー部はボールを創る者もいるが、そのほとんどが純粋な力を持つ者が多い。

 タックルする力やフィールドを駆け抜ける脚力。

 大半がこのどちらかであろう。


 神崎はその恵まれた体格から繰り出す力が自慢らしく、よくそれを自分の口から言いふらしていた。

 と言うことは、あいつのスピードには注意を払わなくてもいいと言うことだ。

 問題はどれだけの力があるか。

 その一点だな。


 しかし、他のメンバーがそれをフォローするような動きをするのであろう。

 これはチーム戦。

 神崎は俺を今にも殺しそうな目をしているが、奴ばかりに気を取られてはいけない。


「愛花! お前に勝ってお前を俺の物にする! いいな!?」

「ああ? オレはデブゴンなんだろ? 人の下の名前を気安く呼ぶんじゃねえよ」


 デブゴンという言葉に、北野たちがピクリと反応を示す。

 こいつらもゴンのことをデブゴンって呼んでたらしいからな。

 ダメだぜ、人が傷つくあだ名を呼んだら。


「そんな昔のこと気にすんなよ。今は愛花でいいだろ?」

「そんな昔のことって、お前は被害者じゃねえから言えるんだよ。言われた方は何年前のことだろうと気にしてんだよ」

「だから気にするなって言ってんだよ!」


 神崎はゴンの言葉を無視するかのように話を続ける。

 辟易したゴンは神崎の言葉に肩を竦め、呆れ返っていた。


「始め!」


 そんな中、教師のスタート切る合図が送られる。


「行くぞ! まずはガリレオをぶっ倒す!」

「おう!」


 ドンッと加速する二人の男。

 俺の左右から接近し、こちらの腕を取る。

 この二人はスピードタイプってことか……

 となれば、残りの三人がパワータイプか。

 

 俺の予想通り、神崎と残りの二人は緩慢な動きでこちらに接近してきていた。

 しかしその力強い足音。

 

 こんなもの、普通の人間が直撃を喰らったらひとたまりもない。


「喰らえ! ガリレオ!」


 三人のタックルが俺を襲う。


「!!」


 しかし、そのタックルを片足で防ぐ。

 驚愕する神崎たち。

 普通の人間なら問題だろうが、俺はもう普通ではない。

 普通の力ではなく異常な力。

 こんなものどうということはないのだ。


 俺は腕を掴んでいる二人を地面にたたきつける。


「ガハッ!」


 二人のプロテクターが赤く灯る。

 そのまま木槍で神崎以外の二人を叩きのめし、一瞬で残りは神崎一人となった。


「う、嘘だろ……お前、ガリレオだよな?」

「違う」

「は?」

「俺は玲央だ。露木玲央だよ。誰がガリレオだ、アホ」


 うっとたじろぐ神崎。

 俺の後ろで北野たちもビクッと反応している。

 あ、ガリレオって呼んでたことをいまさら後悔しているのか。

 別に悪意がないのなら気にはしないんだけどね。


「おい、神崎」

「あ、愛花……俺がガリレオを倒すから――」


 神崎に近づいたゴンは、奴の頭を力づくで後方へ引っ張る。


「え……ど、どんな力してるんだ、お前」


 その力は、神崎が得ているスキルをもしのぐものであった。

 それも少々ではない。

 圧倒的である。


 頭を掴まれた神崎は、ビクともしないことに顔を真っ青にしていた。


「お前は人の痛みを知らないみたいだからな。少しはそういうことを学んでおくことをお勧めするぜ」

「え、ちょ――」


 ゴンは神崎の頭を鷲掴みにしたまま、グルグルと回転を始める。

 竜巻でも起こしそうなその勢いに、周囲にいる生徒たちは驚愕し、悲鳴を上げていた。


「あ、愛花……俺はお前と一緒に生きて行きたいんだ!」

「気持ち悪いんだよ、バカ」


 まるでハンマー投げの如く神崎を放り投げ、その投げた先へと走っていくゴン。


「おいおい……何するつもりだよ……」


 唖然とゴンを見守る俺と観客。

 神崎はのめり込みそうないきおいで壁に叩きつけられる。


「ガボッ――」


 それで終わりかと思っていたが、ゴンはさらに神崎の顔面に膝蹴りを叩き込む。


「オオオオェエエエエッ!?」


 激しい一撃にプロテクターが砕け散り、神崎の頭から大量の血が噴き出す。

 

「…………」


 あまりの威力に絶句する観客たち。

 そして神崎はその一撃で完全にノックアウト。

 壁に埋まったまま気絶してしまった。

 ゴン、やりすぎだ。

 だけどナイス! よくやった!

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