第32話 バレー部

 神崎が病院に搬送され、ザワつく周囲の生徒たち。

 ゴンのことを可愛い可愛いと応援していた奴らが青い顔をしている。


「まーた態度変えやがったぜ、あいつら」

「そりゃ、あんだけのことやったらな」


 さらには北野たちも怯えており、震えながら俺たちの方を見ている。


「あ、あのガリ……露木くん」

「何?」

「け、決勝戦も頑張ろうね」

「おう……」


 怯えに怯えている北野たち。

 俺とゴンは互いに肩を竦めた。


「この調子なら、もう絡んでこなさそうだな」

「嬉しそうじゃん」

「当然だろ。ポテチを貰えないのは大問題だが、のんびりできるのはありがたい」


 そこでゴンは顎に手を当て、真面目な表情を浮かべた。


「……ポテチは献上させるか」

「君、何様? 王族にでもなったつもり?」

「そんなことない。ただカツアゲしてやろうかなって」

「悪い子にはならないでね。これからもゴンとはお付き合いしていきたいと思っているので、ちゃんとしてくれよ。そんなことしたら、神崎たちと同じだぞ」

「分かってるよ。冗談だ。カツアゲするのは神崎たちからだけだ」

「それじゃ同類だから! もうさっきの膝蹴りで俺もスカッとしたし、もういいだろ」

「よくないね」

「まだ根に持ってるのかよ……」


 ってか、お前は神崎たちからほとんど何もされてないだろ。

 やられたのは俺だ。


「後は下柳だな」

「ああ……下柳ね」


 そうだ。

 あの女が残っていた。

 元学園一の美女。

 しかし現在はその地位をゴンに奪われ、学園で二番目の美女と呼ばれているあの下柳。

 俺の裸の写真を撮った女だ。


 下柳はゴンのこともイジメていたらしい。

 トイレ中に水をかけられたり、ゴミの山に突っ込まれたりと、中々酷いことをされたと聞いている。

 だが下柳は弁当を食べているゴンには手を出したことはなかったようだ。

 食べてる最中のこいつをいじったら大変なことになっていたから、そこは幸運だったのかも知れない。

 いや、どちらにしてもゴンに手を出したのが不幸の始まりか。

 

 次の決勝戦の相手はバレー部。

 男女混合のチームだ。

 その中に下柳がレギュラーとして出場している。


 今までの恨み、きっと晴らされるぞ。 

 意外とゴンは根に持つタイプだからな。

 普段はさばさばしていて細かいことは気にしていないが、恨みつらみは覚えている。

 それに俺もいままでやられたことを忘れていないぞ。

 俺とゴンの積み重ねて来た恨み、今返す時だ。

 

「結局、大会で勝って見返してやろうと考えてたけど、直接やり返す形になったな」

「そりゃそうだろ。戦うのは決まってたようなものだからな」

「確信犯!? え、お前、直接やり返すつもりだったの?」

「ああ。バレー部とラグビー部は強豪だからな。着実に勝ち進んで来るのは計算の内だ」

「…………」


 俺をやる気にさせただけかよ……

 まぁ、俺もスカッとするから別にいいけどさ。


「おい、デブゴン」

「はぁ?」


 下柳を筆頭にバレー部が中央へとやって来る。


 ゴンを睨み付ける下柳。

 どうやら一位の座を奪われたことが腹立たしいようだ。

 今にもゴンを殺しそうな目をしている。


「絶対負けないから」

「あっそ。せいぜい頑張ってくれ」

「くっ……」


 下柳を適当にあしらうゴン。

 冷静に踵を返し嘆息する。

 うん。頭に血が上っている様子はないな。


「よし。じゃあぶっ殺すか」

「物騒だな! やる気はまんまんかよ」

「ったりめえだろ。神崎みたいに病院送りにしてやるよ」

「……頼むから大ごとにしないでくれよ」


 一歩間違ったら死人が出る。

 別に下柳が死のうと俺には関係無いが、さすがに後味が悪いんじゃない?

 ゴンが下柳を殺さないように、俺がゲームを支配してやらないと。


「ゴン。俺の指示通りに動いてくれ」

「何でさ?」

「効率よく倒そうぜ。その方が疲れなくていいだろ」

「……断る」

「また後でポテチ買ってやるからさ」

「10袋頼む」

「はいはい」


 俺は呆れながらバレー部の面々の方に視線を向ける。

 高身長男が多く、女子も身長が割と高い者が多い。

 

 バレー部はスパイク能力か跳躍力、もしくはバレーボールを創る奴の三種類がいるはずだ。

 下柳は――スパイク能力を持っている。

 ボールを生み出すのは一人で、残りの四人がスパイクを打ってくるはず。

 それはここまでの大会を見学していたから、間違いない。


「ゴン、スパイクで攻撃して来るだろうが、後ろの丸坊主の男がいるだろ?」

「ああ」

「あいつはボールを生み出す能力を持っているはずだ。あれを倒せば飛び道具はなくなる」

「だけど一番後ろに位置してるけどどうする?」

「んー……そうだな」


 俺はひらめきを覚え、一瞬で奴を倒す術を思いつく。


「決勝戦――始め!」


 教師の声が響き、丸坊主の男がボールを生み出す。

 それをトスし、上空に上げようとしたその瞬間――俺は槍を大きく振りかぶる。


「よいしょっ!」


 投擲。

 木槍を力いっぱい放り投げ、相手の喉辺りに狙いを定まる。


「ゴヘッ!!」


 吹き飛ぶ坊主の男。

 そのまま気絶し、地面で寝転がっている。


「やったぜ!」

「やるな。後は直接攻撃しかないってことだな」

「そういうことだ」

「なら、楽勝じゃん」


 ゴンが悪い顔をしながら歩き出す。

 うん。絶対に殺させないようにしないと。

 俺は背中を冷やしながらゴンと並んで歩き出す。

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