第30話 武活動大会・開幕

 日曜日。

 武活動大会当日。


 俺たちは体育館裏でガタガタ震える将棋部の面々といた。

 ゴンはそんな彼らの顔を見ることもなく、ポテチを食べている。

 北野はそんなゴンの顔を見て、顔を赤くして震えていた。


「ご、権田さん。俺、頑張るからね!」

「あ? ああ」


 北野はゴンにアピールしたようだが、残念。

 ゴンは一ミリも気にしていない。


「北野。メンツは5人必要だし、死なないように逃げ回ってくれればいいから」

「だ、大丈夫! 俺たちなら問題ないさ。なあ、みんな!」

「お、おお!」


 北野含め、三人の将棋部がゴンを見ながら声を揃えてそう言った。 

 だがやはりゴンは、そんな彼らの方を見ることなくポテチを食べている。

 少しぐらい気にしてやれよ。


「お、俺たちで権田さんを守るぞ!」

「おお!」


 チラチラゴンを見ながら必死でアピールする男子部員たちと無反応のゴン。

 俺は苦笑いしながらゴンに話かける。


「ちょっとぐらいは気にしてやったら?」

「ん? 何を?」

「いや……北野たち、ゴンにアピールしてるみたいだしさ」

「あー……こいつらもずっとオレのことデブゴンって呼んでたし。別にどうでもいいよ」

「そうか」


 それは北野たちが悪いな。

 ゴンは痩せたことに態度を変える周囲の奴らが嫌いなようだ。

 俺はゴンはゴンだと思っているから、別に綺麗になろうが逆に不細工になろうが気にしない。

 そういう奴には普段通りに接するのだが、以前と態度を変えた者は気持ちが悪いと言ってゴンは相手にしないようだ。

 

 必死の北野たちを見て、俺はもう一度苦笑いする。


「そろそろ始まるみたいだから行くか」

「お、おお……」


 顔色がドンドン悪くなっていく北野たち。

 ゴンはあくびをしながら歩き出す。


「ま、こいつらはおまけだし、気にする必要もないだろ」

「お前、そんな態度じゃ絶対モテないぞ」

「興味ないね。それに残念だけど、今現在はメチャクチャモテてるからな」


 残念なんだ。

 モテるのっていいことだと思うんだけどな……

 なんて、モテたことない俺はそう考えた。


 武活動大会は【ダンジョン】の入り口付近で行われる。

 広い体育館のような空間があり、周囲はコンクリートのような造りだ。

 ここに来るまでの道と【ダンジョン】へと続く道だけがある、寂しい場所。


 壁際には、他の武活の実力を確認するために、色んな武活の連中がいて、中央で二つの武活グループが対峙している。


 その二つの武活とは、一つが俺たち将棋部。

 そしてもう一つは、倭が所属している野球部だ。


 相手のメンバーは倭を含む3年生が5人。

 武活動大会のルールは5対5の団体戦。

 

 全身を守るプロテクターを装着し、先に全員からポイントを奪ったら勝ちだ。

 プロテクターは直撃を喰らうと赤く光り、そこでその選手は失格となる。

 なので、相手5人に有効打を決めたら勝ちというわけだ。


 緊張している3人を横目に、相手を見据える。

 倭は俺たち……特にゴンに恐怖心を抱いているのだろう。

 見るからに顔色が悪い。

 何か酷いトラウマでも植え付けられたのだろう。


「倭! 愛花以外は叩きのめせ!」

「そうだそうだ! 権田には怪我させるなよ!」


 壁際にいた神崎たちが野次を飛ばしている。

 倭はそんな野次に反応することなく、震え倒していた。


 教師が中央に立ち、手を振り上げる。

 そして――


「始め!」


 試合のスタートを切った。


 野球部の連中は、バットを創り出す者、野球のボールを創り出す者。

 この二種類が存在するようだ。

 倭と他2名はバットを創る。

 残りの2人はボールを現出させる。


「喰らえ!」


 ピッチャーらしき男が全力でボールを振りかぶる。

 それは北野の顔面に直撃し、彼の体は吹き飛んでいく。

 プロテクターが赤く灯り、失格を周囲に知らせる。


「へっ。相手が将棋部で良かったな」

「ああ。楽勝だ! なあ、倭」

「え!? あ、ああ……」


 喜んでいる野球部の連中。

 しかし倭だけは依然として怯えたままである。


「そろそろ行くか」

「ああ。でもゴン、手加減してやれよ」

「全部食う方が楽でいいんだけどな」

「……それは大問題になるから勘弁してやってくれ」


 肩を竦め、走り出すゴン。

 俺も彼女に続いて駆け出した。


 俺が現在手に持っているのは、木で作った槍。

 先端はボールのように丸まっている。

 殺傷能力をこれでもかと削り取った代物だ。


 これなら怪我させることは無いだろう。

 俺はゴンを抜き去り、怯える倭の腹に槍を打つ。


「ガッ――」


 凄まじい勢いで吹き飛ぶ倭。

 壁に衝突し、白目を剥いて気絶している。


「な、何をやったんだ!?」

「いや、強すぎだろ、あいつ……」

「あれって、ガリレオだよな……」


 驚愕する神崎たち。

 下柳も驚いた表情をこちらに向けている。


 俺はそんな奴らの反応を気にすることなく、バットを構える男に槍を振りかざす。


「ひっ!」


 バットで槍を止めようとするが――俺はこれを真っ二つに切り裂く。

 木槍でもこんな威力が出るのか……

 俺は自分の力に驚きながら、そのままの勢いで相手の頭を打つ。

 男は頭を押さえ、膝をついた。


 そのまま隣で固まっている男の足を打ち、転ばせてやると、ゴンが男の顔面を踏みつける。


「ぐはっ!」

「そんなところで寝てたら邪魔だ」


 プロテクターが赤い光を放つ。

 ゴンは素早い動きで、残りの二人の腹を殴りつける。


 痛みに嘔吐し、二人の男はジタバタもがく。


「……勝者、将棋部」


 教師はポカンとした表情で俺たちの勝利を宣告する。

 勝って当然といった顔でゴンはこちらを見た。


「モンスター相手より楽だな」

「比べてやるなよ、あんな化け物たちと」

「味比べができないのは楽しくないけどな」

「そんな比べ方してやるなよ……」

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