第29話 ゴンとの一夜
【帰宅】の熟練度が上がった。
熟練度が上昇したことにより、帰宅ポイントをさらに3つ設定できるようになったようだ。
まず一つはケイロスバーン。
もう一つはケイロスバーンの西の砦に設定した。
残りは一つ。
学校なんか設定しておいたら楽だろうな。
毎朝電車に揺れらることなく通学できるのだから。
楽なんてものじゃない。
控えめに言って最高だ。
自宅でステータスをいじりながらそう思案していると、ゴンが俺のステータス画面を覗き込んで来る。
露木玲央
HP 301 MP 153
腕力 140 防守 121
魔力 140 敏捷 190
運 108
スキル
槍 3 魔王 3 帰宅 3
倉庫 3 鑑定 3 製作 3
「ふーん。結構強くなってんじゃん」
「ゴンはどれぐらい強くなったんだよ?」
「オレか? ほれ」
ゴンがステータス画面を開いて俺に見せて来る。
権田愛花
HP 352 MP 78
腕力 208 防守 177
魔力 98 敏捷 88
運 110
スキル
格闘 3 暴食 3 勇者 3
倉庫 1
「…………」
強くなってる。
そしてやはり腕力は相変わらず目を見張るものがある。
しかしそれ以上に、俺は気がかりなことがあった。
それはゴンが、俺の膝の上に座っていることだ。
何やってんの、こいつ?
ドキドキしないのがゴンだな、って感じはするが、何やってんの?
「おい。何で俺の膝の上に座ってんだよ」
「んー? まぁいいじゃん。この方がステータス見やすかったろ?」
「そうだけどさ……こんなの恋人同士がするような体勢なんじゃねえの?」
「そうなんか? 弟はよくオレの膝に座ってくるけど」
「小学生の弟と男友達を一緒にすんじゃねえよ! これが普通の男だったら勘違いするぞ」
俺はゴンをベッドに下ろし、ため息をつく。
「他の男にはしないだろうなぁ」
「それ、マジでどういう意味なんだよ」
「意味? 意味なんてないけど……レオは他の男とは違うな」
「違うのか……だから何が違うんだよ。俺はそれが聞きたいの」
いつも俺相手には恥じらいも持たないし気を使わない。
あ、気を使わないのは誰にでもか。
「何だろうな……楽なんだよ、お前といると。だからいつも気が抜けてるんだろうな。一言で言えば家族みたいな感じ」
「……それは分かる」
俺もゴンといたら楽だし、家族みたいというのはよく理解できる。
ま、恋人候補というのは無いとは思っていたけど、そういうことか。
俺は彼女の言葉に妙に納得し、一つ頷く。
「うん。ゴンって家族みたいだな」
「ああ……犬も家族の一つとして勘定するじゃん?」
「俺って犬枠!? せめて弟とか、それぐらいにしておいてくれませんかね?」
「冗談だよ、冗談」
ゴンはベッドに横たわり、そのまま目を閉じる。
「おい。そんなことしてたら、マジで寝るぞ」
「おお……マジでいいぞ」
「マジでよくねえ! 帰ってから寝ろ!」
「……めんどい」
そのまま寝息を立てはじめるゴン。
こいつ、本気で寝やがった……
襲っちまうぞこの野郎。
なんて考えるが、当然そんなことはしないのだが。
俺は嘆息しながら、携帯を手に取る。
そしてゴンの家に電話をかけ、彼女の母親に今起きていることを伝えた。
『よろしく』
「よろしくでいいの!?」
ゴンもマイペースだが、この人も負けず劣らずマイペースだな……
年頃の娘が男の家で寝てるんだよ?
もう少し心配したらいかがでしょうか?
「玲央ー。ご飯! 愛ちゃんもご飯食べてくでしょ?」
下から母親が晩御飯の支度ができたことを伝えて来る。
俺は返事をしようとするが、いきなりゴンが起きあがり、代わりに返事をした。
「いただきまーす」
「ね、寝てたんじゃないの?」
「それよか飯だ。飯食ってから寝る」
「食ったら帰れよ……」
しかしゴンは、晩御飯を食べた後マジで俺の家に泊っていった。
それもベッドを占領して。
俺は毛布一枚で床で横になった。
「別にいいけど、それ俺のベッドだぞ」
「だったらお前も入れよ。ほれ」
「…………」
ゴンが身体を横にずらし、俺がベッドに潜り込めるスペースを作り出す。
そういや、家族みたいなもんって言ってたよな。
一緒に寝たところで、別段気にすること無いか。
俺はあくびをしながらベッドに潜り込む。
「…………」
全然ドキドキしないイベントだな。
普通ならここは眠れない一夜なんかを過ごすのだろうが――
◇◇◇◇◇◇◇
気が付くと朝だった。
驚くほどの熟睡。
女が隣に寝ててもこんなものなのか?
俺の体の上にのしかかっているゴンの足をどけ、彼女の寝顔を覗き込む。
綺麗な顔で寝息を立てている。
こいつも一切緊張していなかったみたいだな。
時計を見ると、まだ学校に行くには早すぎる時間だった。
俺はあくびをし、もう一度ベッドで横になる。
「ん……」
ゴンが寝返りを打ち、彼女の顔が目の前に現れる。
「…………」
やはりドキドキしない。
本当に家族みたいなものなのかな?
それか、これが普通の男女のありかたなのだろうか?
うん。他の女のことをよく知らないので判断がつかない。
ゴンの美しい顔を見ながら微睡みに落ちていく。
とにかくこいつとは気を使わない、家族みたいな付き合いができる。
これはこれで楽でいいよな。
そして次目を覚ました頃は、登校時間ギリギリになっていた。
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