第28話 トロールとゴーレム

 食事を終えて、砦の方角に俺とゴンは歩いて行く。

 今よりも強い相手と戦った方が効率よく強くなれる。

 そう考えた俺たちは、この辺に現れるモンスターよりも強い相手を探し求めていた。

 リーシャ曰く、砦の向こう側はケイロスバーンに出現するモンスターよりも強い敵が現れるらしい。

 なので俺たちは砦を目指していたのであった。


「ゴンってさ、俺がリーシャと結婚しても何とも思わないのか?」


 ふとした疑問。

 別に付き合ってるわけでもないただの友達ではあるが、どう思うのだろう。

 俺が素直にそう聞くと、ゴンは気怠い表情のまま口を開く。


「オレが他の男と結婚するって言ったら、お前どう思う?」

「ゴンが?」


 俺はゴンが他の男と結婚する様子をイメージする。


「…………」


 何だろ。なんかモヤッとする。

 手放しに喜べないような気がするな。


「嬉しくはない、な」

「オレもそんな気持ちだよ。お前が他の女と結婚したら面白くない」

「そっか」


 似たような感じなんだな。

 付き合ってるわけでもないし、お互いに恋愛感情があるわけでもない。

 だけどお互いに相手が現れたら面白くもない。

 どんな関係なんだよ、俺らって。


 自分でもゴンに対しての気持ちがよく分からなくて、苦笑いをする。


「あのさ、俺ら――」

「おい、レオ」

「?」


 ゴンが顎で前を示す。

 目の前には砦があり、その周囲に見たことないモンスターがウロウロしている。

 幹部がいなくなったことにより、縄張りを広げたモンスターだろうか?


 【鑑定】でモンスターを確認する。


 一匹は、岩の肉体を持つゴーレム。

 もう一匹は大きな体に見るだけで怖気が走るモンスター、トロール。


 その二匹のモンスターが砦の周りにいる。


「レオ。ゴーレムの方は頼む」

「分かった。で、何で俺がゴーレムなんだ?」

「見るからにマズそうだろ」


 ですよね。

 やっぱゴンは食事が最優先ですもんね。


 俺は【俊敏の槍】を二本装備し、高速で駆け抜ける。

 一瞬でモンスターとの距離を縮め、すれ違いざまにゴーレムを突き穿つ。


「ゴガアアァア」


 胸を貫かれたゴーレムは、砂状となって消えていく。

 あ、どっちにしてもこれは食えないみたいだな。


 俺の姿を捉えたモンスターたちが、こちらを取り囲む。


「ゴン、早くしないとこいつも倒してしまうぞ」

「そんなことしたら恨むぞ!」


 鬼の形相でそう叫ぶゴン。

 背中に走る寒気。

 俺はトロールに手を出さず、ゴーレムだけを相手にする。


 一撃で胸を貫き、さらに接近するゴーレムをもう一本の槍で頭を切り落とす。

 トロールもこちらに襲いかかって来るが、丁度のそのタイミングでゴンが追い付いてきた。


「お前の相手はオレだ」


 バクンッ! とゴンは一瞬でトロールを捕食してしまう。

 彼女はうんと頷き、俺に親指を立てる。


「悪くない」

「あっそ。じゃあトロールは全部任せた」

「数匹ぐらいなら取っておいてやるぞ」

「わざわざモンスター食いたくないわ。そっちで全部処理してくれ」

「……太っ腹だな」

「だから興味ないだけだっての!」


 俺は悪魔の翼を背に生やし、宙を舞う。

 これは【魔王】としての能力の一つで、自在に空を飛べるというスキルだ。

 便利過ぎて俺、感激。


「ほれほれ。行くぞ」


 空中から【ダークショット】を連射する。

 ゴーレムたちはなすすべもなく、粉々に消滅していく。


「羨ましいな、その能力」

「ゴンも勇者のスキルがあるだろ?」

「ふん。勇者だけのスキルじゃないんだぜ?」

「へー。他にどんなスキルがあるんだよ?」

「そりゃ決まってるだろ――【暴食】!」


 ゴンは両手の指をバッと開け、影を精一杯伸ばす。

 それは建物のように大きくなり、周囲のトロールを一度に捕食する。


「…………」


 俺はその効果範囲、威力に唖然としていた。

 え? トロール数匹いたのよね?

 一口で食べちゃったの?


「お、お前も大概のスキルじゃないか」

「だけどさ、このスキルにだって欠点はあるんだ」

「欠点?」


 俺は大地に足を着き、翼を畳みながら聞き返す。

 何か深刻な問題だろうか?


「ああ。味が混じり過ぎて意味が分からなくなる。同じ種族なら問題ないが、別々のモンスターを食べるのはよろしくないな」

「うん。と言うことは問題はないみたいだな」


 結局こいつはこういう奴だ。

 欠点など無かったのだ。

 聞くだけ意味が無かったのだ。


「砦の向こうに行こうぜ。もっと違う種類のモンスターを味わいたい」

「そうだな。もっと強くなろうぜ」

「何かいまいち噛み合ってねえな。会話」

「普段嚙み合わせようとしない子がそんなこと言う!?」

「噛み合わないのはオレの趣味を理解していないからだよ」

「理解してるよ。まったく……食事にしか興味ないんだろ」

「ボーイズラ――」

「はいはい、そうでしたね。ほら、さっさと行くぞ」


 ゴンの口を塞ぎ、彼女の背を押して進んで行く。

 彼女に呆れつつも、こんなのでも男ができたら嫌だな。

 なんて不思議な感覚を覚えるんだから、分かんないよな、やっぱ。

 俺にとってこいつはどんな存在なんだよ。

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