第26話 将棋部

「武活動大会、次の日曜日だけど、入る武活決めといた方がいいんじゃね?」

「そうだな」


 俺とゴンは、昼休みに屋上で昼食を食べていた。

 ゴンは重箱3段の特大弁当を持参し、バカでかい唐揚げを口にしている。


「弱小クラブって言ったら……どこだ?」

「んー……将棋部が弱かったんじゃないかな。とりあえず入部させてもらえるか聞きに行こう」

「おう」


 ゴンはムシャムシャ食事を口に放り込んでいく。

 凄まじい勢いで消えて行く弁当の中身を見ながら、俺は自分の弁当を食べる。

 彼女の大きな弁当と比べるととても小さな弁当だ。

 しかし最近よく食べるようになったのか、少し物足りない。


「なんか足りないな……食堂にパンでも買いに行くかな」

「じゃあオレは焼きそばパンな。レオのおごりで」

「何さりげなくパシってんだよ。金は貰うからな」


 俺はゴンを置いて、一人食堂へ向かった。

 ゴンは男に囲まれるのを辟易しており、隠れるように屋上で食事をしているのだ。

 可愛いって正義だけど、面倒くさいことも多いんだな。


 多くの学生で賑わう食堂。

 注文を済ませた者ばかりで、誰もレジには並んでいない。

 

「ん?」


 俺は刺さるような視線を感じ、振り向きその正体を確認する。

 そこにいたのは倭と山下で、俺が振り返るなり視線を逸らす。

 青い顔でうどんを啜る倭。

 山下は視線を泳がせながら丼物を食べている。

 なんかダセーな。

 なんであんなのにイジメられてたんだよ、俺。


 俺はパンを購入するためにレジの方に視線を戻す。

 すると目の前の席に、将棋部の北野がいるのが目に入る。


 丁度いいや。


「なあ、北野」

「ガリレオ……何か用かい?」


 彼は眼鏡をかけたひ弱そうな男子で、悪意なく俺をガリレオと呼ぶ。

 俺としては面白くない呼び方なんだけどなぁ。

 あだ名って時に残酷だよね。

 まぁ、学校内に浸透してしまっているから仕方ないけど。

 

「あのさ、ゴン……権田と一緒に将棋部に入りたいんだけど」

「権田さんと!? あ、あんな美女がなぜ将棋部なんかに!?」


 驚き、箸に挟んでいたコロッケを落とす北野。

 俺は咄嗟に手を伸ばし、コロッケをキャッチする。

 ……もう返せないよな。


 北野は我に帰りコロッケを食べてもいいみたいなジェスチャーをする。

 これでパン代が浮くな。

 なんて考えながらまだ口もつけられていないコロッケを遠慮なくいただく。


「武活動大会に出たくてさ。それですぐにレギュラーで出場させてくれる武活探してるんだよ」

「そ、そうなのか……よし。そう言うことなら、権田さんの入部を認めさせてもらうよ!」


 こいつ、可愛くなったゴンに惚れてんのか。

 確かにゴンは可愛いけど、以前と違う態度を取るようなら絶望的だぞ。

 

「ありがとう……で、俺は?」

「……権田さんを入れて君を入れないわけにはいかないだろ」

「渋々かよ! まぁ、ゴンのおまけでいいけどさ」


 コロッケを飲み込み、俺は踵を返す。

 

「なあ」

「ん?」

「戦う気なのはいいけど……僕らは一応出るだけだからな。武活動大会。ルール上仕方なくだ」

「分かってるよ。戦うのは俺たちだけだから」

「君たち二人だけで勝てるほど甘くないよ」

「甘くないのはこれまでの人生。今は楽しくさせてもらってるよ」

「は?」


 ポカンとする北野。

 俺は彼に笑みを向けて言う。


「要するに、今の俺たちなら楽勝ってことさ」


 まぁ、どう考えても、今の俺たちに勝てるような学生はいないと思う。

 異世界での戦闘……ステータス方式というのは、それだけ常軌を逸した成長システムということだ。

 この世界の成長よりも遥かに早く、高く進化する。

 体の作りが変化したのもそういうことであろう。

 この世の全ての人と言う話なら、まだ俺たちが敵わない人がいるかも知れない。

 いや、それも考えにくいのだけれど……

 まぁとにかく、この学校内では俺たちより強い奴は存在しないのだ。

 それだけは断言できる。

 それぐらい俺たちは強くなった。


 俺は歩きながらステータス画面を表示する。


 露木玲央

 HP 240 MP 113

 腕力 115 防守 102

 魔力 110 敏捷 150  

 運  99

 スキル 

 槍 3 魔王 2 帰宅 2 

 倉庫 3 鑑定 2 製作 3


 ステータスはまた随分上昇している。

 ダブルリザードも魔王軍幹部とやらにも勝ったしな。

 俺は強くなった自分に高揚し、スキップしながらゴンの下まで戻った。


「なあゴン。将棋部に入部させてもらえたぜ」

「ふーん」


 俺は満面の笑みでゴンに報告した。

 しかしゴンはジロッと俺を睨み付けるだけだ。


「な、何だよ?」

「……焼きそばパンは?」

「……あっ」


 完全に忘れてた。

 北野のコロッケを食べたことにより腹が膨れて、ゴンのパンのことを忘れてしまっていたぞ。

 悪気はないから許してね?


 なんてことが通用するようなゴンじゃない。

 彼女は食に関しては慈悲がないのだ。


「あ、後でアイスとポテチ奢ってやるよ」

「……約束だぞ」


 俺がうんうん頷くと、ゴンは静かにポテチを【倉庫】から取り出し食べ始めた。

 後でモンスターも食わせまくってやろう。

 俺はそう独り言ちた。

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