第24話 砦②
砦。
それは小さな城のような造りとなっていて、周囲は長方形の壁に囲まれていた。
コボルトとオークが見張りをしており、俺たちは物陰から砦を視認している。
「コボルトは俺が倒す。オークは頼むぞ」
「さすがレオだな。オレのことをよく分かってるじゃないか」
「お前の食い意地に呆れてるだけだよ」
ダッと駆け出す俺たち。
正面入り口を避け、砦の横手を走って行く。
「あそこから登れそうだ」
「オッケ。まずはオレが登る」
少し壁が崩れている場所があった。
俺はその下で立ち止まり、ゴンは俺に向かって全速力で駆け出す。
ゴンはジャンプし、俺の槍の上に立つ。
俺が持っているのは【力の槍】。
彼女の体を力一杯槍で放り投げる。
勢いよく壁の上まで飛び上がるゴン。
俺は後方に下がり、壁を走り、手を差し伸べるゴンの手を握る。
彼女に引き上げられ、俺も壁の上に登ると、そこは通路となっていた。
見張りが周囲におり、俺たちはそれぞれのターゲットに対して攻撃を仕掛ける。
音も無くオークを喰らうゴン。
俺は【敏捷の槍】を両手に装備し、高速でコボルトを始末していく。
「何だよ。空間を開く必要もなくなったのか?」
「ああ」
俺が【倉庫】を開くことなく、槍を出し入れしていたのを見てゴンがそう聞いてきた。
【倉庫】の熟練度が上がったようで、わざわざ空間を開くことなく、装備の出し入れを思考だけで出来るようになっていた。
咄嗟に戦闘スタイルを変更でき、便利になったなんて騒ぎじゃない。
便利過ぎて喜びの叫び声を上げたいところであった。
しかしここは敵陣真っ只中。
そんなことするわけにはいかない。
「イタゾ!」
「ま、バレるわな」
「そりゃそうだ。行くぜ、ゴン」
モンスターに見つかる俺たち。
しかし通路にモンスターの姿はまだ少なかった。
「レオ。お前は先に行け」
「ゴン……まだそんな『ここは俺が引き受けた』みたいな場面じゃないよな。俺一人に仕事させようとしてるだろ」
「バレたか」
「当たり前だろ!」
俺とゴンはモンスターに突撃を仕掛ける。
コボルトとオークの集団だ。
負ける要素は見当たらない。
それどころか、戦う度に強くなって行く俺たち。
戦闘はさらに有利に展開していく。
難なくモンスターを倒した俺たちは、砦の中へと侵入する。
中には大量のモンスターがおり、俺とゴンは辟易し、ガクンと肩を落とす。
「まだこんなにいるのかよ」
「面倒くせえな。もうここじゃ食うのはいいや。全力で行こうぜ」
「その言葉、待っていた」
俺とゴンは【魔王】と【勇者】の力を解放する。
俺の突き出す手に闇の力。
ゴンの突き出す手には雷の力が。
俺たちは同時に地面に拳を叩きつける。
「「【黒雷】!!」」
俺たちの周囲を暗黒の雷が迸る。
目の前にいるモンスターの塊が黒い雷に飲み込まれていき、次々と消し炭になっていく。
周りに立てかけられている武器や防具。
それに机や椅子なども壊れ、散乱していく。
「……すげー威力だな」
「だな。オレたちの愛の力だ」
俺たちの間に愛があったのか?
またこいつの悪ノリであろう。
ツッコミなど入れずに、俺たちは広々とした空間を歩いていく。
「で、魔王幹部ってのはどこにいるんだ?」
「俺が知るわけないだろ。この世界のことはお前と同程度、というか同じことしか知らないんだからな。どんな見た目なのかも知らねえよ」
砦の外は大騒ぎとなっており、モンスターたちの騒ぎ声が聞こえて来る。
これはあまりのんびりしている暇はないな。
「ゴン。急いで探そう。またモンスターに来られたら面倒だ」
「同感だな。来る前にぶっ倒すとするか」
少し駆け足気味で魔王幹部を探す俺たち。
扉を片っ端から開けて行き、確認していく。
すると、一つだけ大きな扉が見つかり、どうもそこから不穏な空気が流れているようだった。
「……どう考えてもここだよな」
「だな。隠しきれない殺気を感じる」
俺とゴンは短く息を吐き、顔を見合わせ頷き合う。
「せーの――」
ゴンと同時に扉に蹴りを放つ。
室内は会議などをする場所なのだるうか、大きな机が中央にドンと置いているだけであった。
しかし誰の姿もない。
「…………」
誰もいないが、何者かがいる。
そんな空気だけはひしひしと感じていた。
だがゴンは空気を読めない代表みたいな顔をして室内へと足を踏み入れて行く。
こいつはどれだけ肝が据わってんだよ。
俺はゴンの堂々とした態度に呆れ……感心しながら彼女の後ろをついて行く。
「――ゴン!」
「は?」
ゴンが部屋に入ると、上からキラリと光る物が見えた。
俺はゴンの背中を蹴り、彼女を突き飛ばす。
中央の机で顔を打つゴン。
それと同時に上からモンスターが短剣を手に降りて来る。
先ほどまでゴンがいた位置だ。
入って来た俺たちを暗殺しようとしたのだろう。
「……殺し損ねた。ギョヒヒヒッ」
変な笑い声にゴンが顔を引きつらせている。
いや、違う。
不意打ちを喰らわせたことに、怒りを覚えているのだ。
「レオ……痛いだろ」
それも違った。
俺が蹴り飛ばしたことを怒っているようだった。
言っとくけど、俺は助けただけだからね?
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