第23話 砦①

 食事を終え町の外へ出ると、雨が止み夕方となっていた。

 雨さえ降ってなければ俺は本調子だ。

 やっとやる気と力が戻ってきた。


「んじゃ、行くか」

「何時ぐらいまでいるつもりだ? 今ならまだ新刊買いに行けそうなんだけど」

「明日買いに行こうぜ。明日なら俺も付き合ってやるからさ」

「…………」


 ゴンは静かに俺を見つめるだけであった。

 何なの? 良いのか嫌なのかどっちなの?


 だが俺が歩き出すと、ゴンもゆっくりとした足取りでついて来る。

 とにかくついて来てくれるのなら、よしとしよう。

 そうしとかないと、精神上あまりよくないし。


 ケイロスバーンから舗装された道を西に向かって行くと、豚のようなモンスターが姿を現す。


「……食うぞ」

「倒すじゃなくて食うってところがゴンらしいよな」


 【鑑定】でそのモンスターの情報を確認すると――それはオークというモンスターだということが判明する。


 二足歩行する豚。

 手には斧を持っている。

 それが周囲に10匹。


 ゴンはいきなり駆け出し、一番近くにいたオークを捕食する。


「うん。美味い美味い。ウルフと比べてもずいぶん美味いぞ!」


 涎を垂らしながらオークをどんどん捕食していくゴン。

 美味そうな敵に関してはこいつに任せておいて大丈夫そうだな。


 俺はやれやれと肩を竦めながらゴンに近づいて行く。


 オークたちはゴンに突撃するが、手から放たれる牙に喰われ、それをかいくぐった者は拳でノックダウン。

 どちらにしても一撃で葬られていくオークたち。


 一匹だけ俺に接近してくるオークがおり、俺は槍を構え、相手の攻撃を迎え撃つ。


「【カウンタースパイク】」


 オークの動きに合わせて槍を放つ。

 血を吹き出して倒れるオーク。


 俺は槍をクルクルと回し、肩に担ぐ。

 決まった。


 俺はどうだと言わんばかりにゴンの方を見る。

 彼女は真剣な顔をこちらに向けていた。


「そいつ、【倉庫】に入れておいてくれ。また今度食うから」

「あ、はい」


 俺はゴンの指示に従い、オークの死骸を【倉庫】に入れる。

 そうだよな。こんなの一匹倒しただけだもんな。

 驚きも感心もするわけないか。


 ゴンは瞬く間に9匹のオークを倒した。

 拳で倒した3匹のオークは【倉庫】にしまう。

 どうやら焼いて食べてみたいらしい。


 そこから道なりにまた進んで行くと、道中ウルフとオークが出現する。

 ウルフは俺が倒し、オークはゴンが半分捕食し、半分保管していく。

 さらには巨大な蜂型モンスター、キラービーまでもが出現する。


 当然の如くそれを捕食するゴン。

 これはデザートのような味がしたそうな。

 キラービーに関しても補完計画が発動し、これを倒して【倉庫】に送って行く。

 【魔王】のスキル熟練度を上げたいところなのだが、この調子では少しの間使えそうにない。

 今度一人で来てやろうか。


「しかしあれだな、ここはある意味天国なのかもしれない」

「それは美味いもんが食えるからだろ」

「そうだけどさ、お前だって生き生きしてんじゃん。あっちの世界より楽しいだろ?」

「まぁ……肯定はできないけど否定もできないな」


 実際、モンスターを倒す度に強くなるのは面白い。

 元の世界で【ダンジョン】に潜れば同じかも知れないけど、無駄に人付き合いしなくていいから楽だし。

 確かにゴンの言う通り、向こうより楽しいことが多いのかも知れない。


「で、考えたんだけどさ」

「ああ」

「この世界を牛耳ってオレたちの住みやすい世界を作らないか?」

「何でそんな物騒な思考能力してんの? こっちで住むだけじゃダメなんですか?」

「牛耳るのは冗談だ」

「冗談かよ」


 ホッとする俺。

 ゴンはモンスターと戦いながら続ける。


「でも、それなりの地位を確立したいな。それなりなら、それなりな扱いをしてもらえるだろ?」

「確かにな。それなりに【勇者】みたいなことして、良い生活を送るか」

「あるいは【魔王】みたいに恐怖政治で統括するか」

「それはごめんだ。絶対に嫌」


 道中のくだらない話なのか。

 それとも本気で言っているのか分からないが、ゴンの話は面白かった。

 この世界で生きていくのも悪くないかもと思えるぐらいには、この世界は楽しい。

 これ、本気で考えてみるのもありかも。


「あ、ゴン。ほら」


 そんな会話をしていると、俺たちが目指す砦が視界に入る。

 俺とゴンは少し緊張感を持ち、会話を止め、モンスターを倒しながら砦に接近していく。


「作戦その一。魔王幹部を見つけたら強襲する」

「それは作戦じゃない。ただ当たり前のことだ」

「そして作戦その二。勝てなさそうなら【帰宅】で帰る」

「そうだな。無理はしないようにしよう。勝てそうならいいけど、勝てなさそうならとにかく逃げよう」

「ああ。死なないことが最優先だ。これからもオレは美味いもん食って生きていくんだからな」


 ゴンの言葉に俺は鼻で笑い、彼女の顔を見る。

 彼女も鼻で笑い、俺の顔を見ていた。


 俺たちは静かな足取りで、砦へと向かって行く。

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