第20話 倭たちへの制裁

 ゴンの下へ行った男子クラスメイト。

 それ以外の俺をイジメていたクラスメイトと共に屋上に来ていた。

 

 雨が降ってるというのに、皆楽しそうにしている。

 俺は怒り半分、気怠さ半分で苛立っており、ギロリと倭を睨み付けた。


「何だよその目は?」

「俺の目だ。知らないの?」


 ムカついたのか、倭は拳をギュッと握り締め、助走をつけ始める。


「調子乗るんじゃねえよ、このガリレオが!」


 俺に拳を叩き込むつもりだったのだろうが、俺はカウンターで前蹴りを倭の腹に叩き込む。


「うぷっ……」

「うぷって何? うぷって」


 腹を押さえ、後ずさる倭。

 俺は倭の髪を引っ張り、顔面に膝蹴りを入れる。


「悪いけど気分が優れないんだ。今までの分も含めてやり返させてもらう」


 一発。

 二発。

 三発。


 膝を入れるたびに、倭の顔が腫れ上がっていく。


「や、やめろ……」

「て、てめえガリレオ!」


 痛みに涙を流す倭。

 近くでポカンと見ていたクラスメイトが俺を止めようと拳を振り上げる。

 しかしこいつの顔面に蹴りを入れ、弾き返して倭への制裁を続けた。


 腫れる顔に拳骨を入れていく。

 倭は顔を押さえ、怯える瞳で俺を見上げていた。


「お願いです……やめて下さい……」


 周囲にいるクラスメイトたちも震え上がり、青い顔をしているだけで倭を助けようともしない。

 こいつらも他の傍観者と同じだ。

 他人を助けようともしない。

 ただの臆病者なのだ。


 武活動でやり返すつもりだったのだが、雨の苛立ちに自分を押さえられなくなっていた。

 が、ここでゴンの顔が頭に浮かぶ。


「…………」


 俺は容赦がないようだ。

 加減というものが分からない。

 さらに拳を叩き込んでいたが、血まみれの倭の顔を見下ろし、まだ続けるかどうかを悩む。

 んー死にはしないんだろうけど……もう限界か?


 そんな風に考えていた時、ガチャッと扉を開き、傘をさしたゴンが屋上へとやって来た。


「偉い偉い。何とか抑えれたみたいだな」

「……これぐらいならいいか?」


 ゴンは倭のボコボコの顔を見て、真顔で言う。


「……これでもやりすぎじゃね?」

「え? そうなの? やっぱ加減が分からないな」


 頭を手放すと倭はその場に倒れ込み、大粒の涙を零しながら気を失っていた。

 血が雨と混じり合い、排水溝の方へと流れて行く。


「な、なあガリレオ。今まで悪かったな」


 一人の男子が恐る恐る俺に近づいて来る。

 俺はその男子の腹に蹴りを入れた。


「ううう……」

「今まで悪かったで済むような話か? 俺は地獄を味わってきたんだぞ。そんなヘラヘラして謝られたって許せるかよ」


 そうすると山下を含めた全員が、俺の前で土下座をしだした。


「う、うえーい! 今まですみませんでした! ごめんね? ね、ガリレオ?」

「本当にすみませんでした! 許して下さい! お願いします!」


 全員が額を地面につけ、俯いたままめいめいに叫んでいる。


「で、どうする?」

「どうするかな……あ、お前ら、下柳から俺の裸の写真貰ってないか?」

「も、貰ってる! 今すぐ消すよ」


 その場にいた全員が携帯の操作を始め、俺のあられもない写真を消し出した。

 全員に渡ってたのかよ……少し恥ずかしさを感じ、俺は苦笑いをしながらゴンを見る。


 ゴンは顎で傘をはさみ、器用にポテチを食べていた。

 そこまでして食いたいのかよ……


「ほ、ほら! 消したぞ! 今までの写真も全部消した!」

「お、俺も消しました!」


 全員が携帯の画面をこちらに向け、消去したのをアピールしている。


「んで、どうする?」

「んー……写真を消したことと許すことは別問題だからな」

「そ、そんな……」


 これまでやられたことを考えると、この程度で許してやるわけにはいかない。

 だが暴力となるとスカッとはするが、人間としてダメな気がする。

 気分はいいが、ダメな気分。

 どうするかな、これ。


 ゴンは俺のそんな気持ちを理解しているのか、俺に頷き口を開く。


「後はオレに任せてくれないか?」

「ゴンに?」

「ああ。お前が味わった地獄まで行かなくとも、そこそこ精神的にくるお仕置きをしてやるよ」


 ゴンは治癒の魔術で倒れている倭の傷を治す。


「おい。こいつを起こせ」


 ゴンの威圧的な命令にクラスメイトたちが倭の体を揺らし、起こしている。

 本人的には威圧しているわけではないんだろうけど、傍から見るとちょっと怖いな。


「んじゃ、先に教室戻ってろよ」

「え? マジ何するつもりなの? 俺もお仕置き見てたいんだけど」

「あっそ」


 ゴンは携帯を取り出し、倭たちの方に向ける。


「ボーイズラブを見たいと言うのなら止めはしない。好きにしろ」

「あ、教室に戻ります」


 山下たちの顔が真っ青になる。

 逃げ出そうとする者たちもいるが、俺に対して震えるばかりで動けないでいた。


「あ、ゴンに逆らったら容赦しねえから。さっきの倭みたいになりたくなかったら大人しく言うこと聞けよ」

「レオがボコボコにしてさらにオレが怪我を治療して、その上でレオがもう一度叩きのめす。逆らうと二回痛い目に遭うぞ」


 俺より考えがエグいじゃねえか……

 北極に裸で放り込まれたようにガタガタ震えるクラスメイトたちを横目に、俺は屋上を後にした。

 南無三。

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